第84話 魔獣将軍ラインハルト……四天王最弱の存在



 ≪致命的な一撃クリティカルストライク



 それは暗殺者系スキルの代名詞。ひいてはベルトの代名詞とも言える攻撃スキルだ。


 衝撃を体内に送り込む。あるいは離れた相手に叩き込むスキル。


 防御不能の一撃は、もう1つの暗殺者系スキル≪暗殺遂行≫で相手の背後に回りこむ事で回避不能の効果も加えられる。


 それが今、ラインハルトの手によってベルトへ打ち込まれた。


 体内へ衝撃が入り込む感覚。その衝撃は人体の急所である心臓へ――――



 「――――ッ! やるしかないかッ!」



 心臓を打ち破らんとする衝撃に対して、ベルトは――――


 ≪致命的な一撃クリティカルストライク



 自ら胸部に向けて拳を振る。


 2つの衝撃が体内で衝突。体が爆弾そのものに変化したような震動がベルトを襲った。



 ≪致命的な一撃≫と≪致命的な一撃≫とのぶつかり合い。


 相殺。


 だが、完全に相殺して衝撃が消え去ったわけではない。


 行き場を失った余力のエネルギーは外部へ――――ベルトの体の外に逃げようとして、ダメージを刻み付けたのだ。



 一瞬、意識の手綱を手放したベルト。


 気を失っていたのは刹那の時間。


 (――――だが、なぜアイツは追い討ちをかけてこない)


 ダメージにより自由が利かない体。


 それを強引に動かし、ラインハルトの様子を窺う。


 その手には剣。レオンを背後から突き刺していた剣だ。


 地面に投げ捨てていたそれを拾い上げ、ベルトへ確実なトドメを下すつもりなのだろう。


 「あぁ理解したぜ。どうやってお前がレオンから背後を奪い、剣を突き刺したのか……暗殺者のスキルを使ったのだな?」


 それは体が回復するまでの時間稼ぎ。


 しかし、剣を手にした余裕からか、ラインハルトは笑みを浮かべて答える。


 「あぁ、貴様が持つ暗殺者のスキルを盗んだ」


 「……盗んだ?」と訝しがるベルトがどう目に映ったのか?


 「そうさ。魔王シナトラさまが新たに与えてくれた能力だ」


 ラインハルトは声に出して笑う。


 「貴様のスキルを観察すれば、そのスキルを使用できるようになる能力だ。闘技場で貴様の戦いを見るだけと言う屈辱を得て、俺は暗殺者系スキルを開眼させたのだ」



 嘘だ。 


 ベルトはそう判断した。


 それは直感だったが、ラインハルトが見せた次の行動で、それは確信へと変わる。


 彼がベルトの頬に触れると――――



 「―――ッ!?」と痛みが走り、頬から白い煙。



 「ほれ。流石に≪死の付加≫はできなくとも≪毒付加≫なら、この通りよ」



 ベルトに毒の攻撃は効かない。 しかし、毒属性の攻撃による痛みまで無効できるわけではない。


 少なくとも自身の特技で痛めつけられるのは屈辱になるだろう。


 そう考えた、ある種の拷問のようなラインハルトの行動だった。


 ――――だが、ベルトが考えていたの別の事だった。


 (やはり、目の前の人物はラインハルトではない)


 ベルトはラインハルトが現れてから、彼を偽者として断言していた。


 その理由は――――


 かつて、魔王軍の戦いでラインハルトを殺したのはベルト自身だからだ。



 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 確かに殺した。


 あの戦いで、魔獣将軍ラインハルトは肉体を激しく破損させ死に至った。


 例えば、さきほど心臓が止まったキング・レオンを生き返らせたベルトの死者蘇生術。


 あれは冥王の力を使ったとは言え、まだ肉体に魂が残っていたから可能だったのだ。


 肉体を失った者への死者蘇生。 


 禁忌として扱われ、大量の魔力と時間、そして人員が必要な大掛かりな儀式魔法。


 確かに……禁忌を禁忌と思わぬ魔王軍なら、それも可能だが……


 魔獣将軍 ラインハルト。


 魔王軍四天王……最弱の存在。


 その男を蘇らすために儀式魔法を使用するか?


 それも、魔王シナトラを蘇らすせ、勇者カムイの肉体を奪い取る計画が行われた前後に……だ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る