第61話 ベルト対ティラノサウルス 決着


 体重7トンのヘッドスライディング。


 大きく開いたアギトとキバ。


 噛み付きと呼ぶレベルじゃない。 言うならば喰らい付き?


 だが、そんな巨体を――――




 ベルトは片手で――――いや、指先1つで止めた。




 硬い皮で覆われた分厚い肉。そんなティラノサウルスの上顎部分から異音が鳴り響く。


 それはメキメキともグッチグッチとも聞こえる。


 ベルトが、その部分を握りつぶしているのだ。




 恐竜が泣いた。




 まるで怪鳥の鳴き声のような音だった。


 その姿には、もはや旧支配者の矜持は見えない。




 そしてベルトがこの試合、最後の攻撃を開始する。


 体と精神が正常に稼動するために生命エネルギー……それ、すなわち『生』だとするするならば、ベルトの攻撃は逆。


 人が……否、生物が死するさいに生じる生命を停止させる最後のエネルギー。


 すなわち、それが『死』と定義するなら――――ベルトはティラノサウルスに死のエネルギーを送り込んでいるのだ。


 それが≪死の付加デス・エンチャント≫の正体。


 死の概念がないものに死のエネルギーを注入して、無理やり殺すスキル。




 そして『死』は恐竜であろうとも、平等に――――そして、安らかに執行された。 




 ベルト対ティラノサウルス戦。




 ――――終戦。




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 その結末を見たキング・レオンは震えていた。


 強烈な笑みを浮かべながら……だ。


 そんな様子に周囲の誰もが話しかけるの躊躇していたが、やがてレオンと旧知の興行主が話しかけた。




 「本当にアレと試合を行うつもりでしょうか? なんでしたら、あのスキルを禁止に……」


 「いや、構わぬ」




 レオンは興行主の言葉を遮った。




 「もとよりベルトのスキルは当たれば死の魔手よ。それに、一撃必殺の使い手と戦った経験は100や200じゃない」




 「しかし……」と食い下がらない興行主にレオンは優しく笑って見せた。




 「なぁに、心配するな。体の震えは恐怖じゃない。猛って、猛って、猛って仕方ないのさ。体が、筋肉が、技が戦いたい訴えてくるのさ」




 それからこう付け加えた。




 「ベルトがあれほどの力を秘匿していたのは、簡単に使えるスキルじゃない証拠さ。おそらくは条件やデメリットが膨大なはず……今頃、スキルの反動に襲われているかもしれないぞ」




 レオンは席から立ち上がった。




 「どちらへ?」と興行主の問いにレオンは――――




 「帰る。それから、ベルトとの戦いに備える」


 「……ご武運を」




 レオンは振り返らず、手を上げて答えた。




 日常的に鍛え上げられているレオンの肉体。


 それをさらに研磨するため、これから1ヶ月間、人前に姿を現さなかった。




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 さらに1人。平常心を失っている人物がいた。


 その獅子の頭部が表すように獣じみた唸り声をあげ、怒りを表す。




 それは魔獣将軍 ラインハルト。




 ベルトが見せたスキル ≪死の付加≫


 彼は知っている。アレが殺したのだ。


 アレが敬愛する魔王さまを――――魔王シナトラさまを殺したのだ。


 ゆえに許せない。


 もはや人語から大きく離れた罵詈雑言。


 もしも、この個室の防音性能が高くなければ1キロ離れた場所でも届いていたであろう大声。






 「いいだろう……。あの力……冥界ですら生ぬるいと言うならば――――生かしたままで、あらん限り苦痛を与えてやろうぞ」




 冷静さと人語を取り戻したラインハルトは、人の姿に擬態して、会場を後にするのだった。

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