第39話 冒険者ギルド建設予定地


 地均しされた土地。


 地面には杭が打たれ、ロープに囲まれている。


 入り口には『関係者以外立ち入り禁止』と『冒険者ギルド建設予定地』の看板が立てられている。


 そして真ん中に簡易テントが1つ。ポツンと立てられている。




 「さぁ、どうぞ……まだ建設前ですが」




 ソルが先行して中に入る。ベルトたちも後に続く。


 中はテーブルと椅子。テーブルの上には少しの資料が置かれている。




 「さてさて、それでは依頼の詳細をおこないましょう」




 「……うむ」とベルトは頷いた。




 「さて、みなさんも知っての通り、第五迷宮は人工都市オリガスの地下にあります。今回の依頼は、その地下である第五迷宮の調査です」




 「うむ……それで、どうやって第五迷宮へ行く?」とベルトは質問した。




 第五迷宮は、その上に都市を建造した事で封印されているような状態だ。


 入り口がどこになるのか? その情報すら公開されていない。




 「実は年に3回だけ第五迷宮の扉が開かれる行事があるのですよ。通称ダンジョン祭です」




 「あぁ、聞いた事はあるわね。都市の発展と平和を祈って、優秀な闘技者を2名が神の依り代としてダンジョン内を走り抜ける祭りでしょ」とマリア。それから――――


 「もっとも、それもギャンブルの一環として行われるのだから、さぞかし神様も困る儀式でしょうね」と皮肉混じりに笑った。


 マリアの言う通り、この都市の中心にそびえ立つ闘技場。


 そこは、闘技者と闘技者の戦いを公共競技ギャンブルとして行う場だ。


 この都市はギャンブルによって繁栄したと言っても良い。


 現在では、闘技場以外でも簡易的な賭博施設があちらこちらに、ゴロゴロと存在している。




 「つまりダンジョン祭の日に開かれる第五迷宮潜り込んで来い……と? 無理だな。警備が厳重すぎる」




 ベルトは首を振った。それから、こう言葉を付け加える。




 「都市の代表者に話は通していないのか? ギルド単体の権力が通じなくとも、魔王絡みの案件ならば、その上にいる国々の代表すら動かせるだろ?」




 しかし、今度はソルが首を振る番だった。




 「もちろん、祭りのドサクサに紛れて第五迷宮に潜り込むのが不可能なのはわかっています。ギルドが冒険者を潜り込ませたってバレた方がおそろしい。それに上層の方々から都市の代表者へ調査依頼の話は行っているのですが……」




 「答えはNOでした」とソルは言った。


 「それはどうしてなのかしら?」とマリア。




 「もしも、第五迷宮に魔王が潜んでいる可能性があるというなら調査を断るよりも受けたほうが、いろいろと得なはずよ。それに魔王軍が地下から進軍を開始するなんて噂が流れるだけでも娯楽都市としては大打撃。私なら調査を受けるかわりに十分な見返りを求めるわ。それこそ……


 もし、本当に魔王軍がいたとしたら人工娯楽都市オリガスをそのまま移転できるくらいには……ね?」




 マリアは、まるでイタズラを見つかった子供のように舌を出した。


 その一方でベルトとメイルは「……」と無言だった。


 メイルは政治が入り混じったマリアの話についていけず無言。


 ベルトは嫌な予感がしていたためだ。




 「僕も、ただのギルド職員なので政治的な話になってくるとわかりません。わけワカメの門外漢ってやつですよ。そこでギルド側の総意としては、ベルトさんには正攻法で挑んでもらうと――――」




 「それは無理だな」とベルトは強い口調で遮った。




 「年3回選ばれる優秀な闘技者を実力で勝ち取れというのならば、不可能だな」




 「え? それは? いつもの副業……いえ、本業を3ヶ月も休めないと心配されているのなら、ギルド側が全面支援を……」とソルは言う。


 断られる可能性も考えていたにしても、ベルト強い口調に動揺している。




 「そうよ。別に店が気になるなら、フランチャイズ家の竜騎兵ドラグーンで日帰りもできない事は……」




 しかし、ベルトが出した次の言葉は、その場にいる者たちに取って予想外の言葉だった。




 「いや、違う。単純に俺は闘技者に勝てないという意味だ」




 単純戦闘なら勇者よりも魔王よりも強いと言われた男。


 そのベルト・グリムが勝てないと発言したのだ。

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