第4話 貴族商人の少女 マリア・フランチャイズ
護衛の冒険者が絶賛しながら迎えてくれた。
「流石Sランク冒険者さん、ここまで強いとは思っていませんでした。見事です」
「ん? あぁ……」
そう言えば、本当はSSSランク冒険者だと伝えていなかった。
今までSSSランク冒険者だと伝えて面倒な出来事に巻き込まれる事が何度もある。
ベルトはこのまま、黙っておくことにした。
「実は依頼主が挨拶をしたいとお待ちでして……お会いなさいますか?」
言外に「会わない方がいいですよ」というニュアンスだった。
「流石に挨拶を断るわけにはいかないだろうな」とベルトは苦笑しながら答え、「確か、商人だったな」と確認する。
すると冒険者は「たぶん、驚くと思いますよ」と付け加え、馬車の扉を開いた。
「貴方がSランク冒険者? おかげで命拾いしました」
ベルトは動揺した。
馬車の内部にいたのは女性だった。いや、女性と呼ぶには若すぎる。
少女だ。年齢は10代前半にしか見えない。
金髪碧眼。縦ロールの金髪に透き通った青い瞳。
そして、身なりの良い服装から推測するに――――
「……貴族か」
貴族とは、自国文化の守護者でもある。
例えば――――
必要があれば、他国に飛び、貿易の交渉を行う。
優秀な人材や技術に海外流失の疑いがあれば事前に防ぐ。
貴重な素材が減少すれば保護をする。
つまり、貴族であり、商人でもあるという事は十分にあり得るのだ。
狭い馬車の中、少女は立ち上がる。
そして、スカートのすそを掴むと頭を下げた。
「私、マリア・フランチャイズといいます。お見知りおきを」
「……俺、いや私の名前は、ベルト・グリムです」
ベルトは、慣れない口調で自己紹介をする。
「私は、たまたま立ち寄っただけです。お礼を述べられる程の事はしていません」
「またまた、ご謙遜を。あなたは私の命の恩人ですよ」
ベルトは、こういった商人とのやり取りは苦手だった。
商人や貴族連中は常に本心を隠して、いかに相手を出し抜いて得をするか? そんな事を考えているからだ。
なりよりも問題は、それを隠さない所だ。
正々堂々と出し抜いてやると自信満々な連中は、まるで別次元の生物のように見える。
だから――――
「すまないが、俺は冒険者だ。交渉は得意ではないので、単刀直入で頼む」と言った。
ベルトの言葉にマリアはニヤリと笑う。
そうかと思うと、次の瞬間にはキラキラと目を輝かせていた。
「それでは単刀直入に、あの黄金を身にまとってたモンスターはなんと言う名前なのですか?」
「黄金? あぁギガ・オークの事か」
「ではでは、そのギガ・オークと言うのはどのくらいの規模で出没するのですか?」
「ん? 出没……あれは相当珍しいモンスターだ。俺は年に1回程度、遭遇するくらいだな」
「年に1回、素晴らしいです!」
「……」
どうも話が読めない。
「お前は何を企んで……いや、貴方さまは、何を……」
「そんなに畏まらなくてもいいですよ。普段どおり話してくれても不敬なんて責めません」
「そうか、ソイツは助かる。じゃ、お前は何を企んでいるんだ?」
「そうですね」とマリアは窓から外を見る。
「ベルトは、ギガ・オークを倒した後に、金の鎧はどうしていますか?」
「……どうもしない。俺たちは5人パーティだった。あれを持って帰るには……少し重すぎる」
「そうですか……ちなみに私の目利きでは、あの金塊の値段はSランク冒険者年収10年分くらいですね」
「10年分? そんなに高額なのか!」
ベルトは驚き、ギガ・オークの亡骸を見た。
「私が考えているのは、冒険者ギルドを通さずに商人と冒険者が年間契約をする事なのです」
「冒険者の年間契約?」
「ぶっちゃけ、私たち貴族も商人も冒険者に依頼するのにギルドへ仲介料なんて払いたくないのです!」
「それは、随分とぶっちゃけたな……」
「えぇ、私たち貴族が商人ギルドの後ろ盾となり、直接的に冒険者と交渉を行う新たな機関を作るのです」
「なるほど、いろいろ揉めそうな話だ。聞かなかった事にしておきたいな。……それで? ギガ・オークの金塊と何が関係があるんだ?」
「うふふ」とマリアは笑みを零した。
「Sランク冒険者が10年分の金塊が毎年取れるなら大もうけじゃないですか?」
「いや、確かにそうだが……誰もやらないのは現実的に難しいからだ」
「それを可能にするための新機関なのですよ。すぐに金塊の輸送運搬を行えるようすればいいのです」
「言葉にするのは簡単だが……」
「いえ、簡単です」とマリアは言い切った。
そして、こう続ける。
「ベルト、貴方が私の新機関所属の冒険者1号になるのです!」
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