サッちゃんとツキやんの太平洋戦争

確門潜竜

第1話ああ堂々の輸送船…

 佐伯司令官は、護衛空母大鷹の飛行甲板を歩きながら、

「ああ堂々の輸送船…」

と軍歌を口ずさんでいた。その表情は、さばさばしていた。続けて、

「私は、連合艦隊を率いる者になりたいと思っていたものだよ。退役後に、それには及びもつかないが、大艦隊の司令官になれるとは思ってもみなかったよ。」

 少しはしゃぐような司令官を見て、参謀の倉田は苦笑するとともに、

“野村中将が夕張に移ったのが、嬉しいのだな、余程。まあ、私も同じだが。”

 二人の周囲には、97艦攻、99艦爆、零戦52型、93中練が翼を休め、台車に載せられた21型電波探信儀があちらに向けられたり、こちらに向けられたりされていた。どうも具合が悪いと思ってのことだろう、それを移動させようとしたところ、航空機の整備員から、機体の整備の邪魔だと文句を言われたので、21電探の担当者達が言い返していた。

 インドネシア独立記念日出席の帰路、野村中将は護衛艦隊旗艦護衛空母大鷹などに乗っていられるかと無理を通して、軽巡洋艦夕張に、出港後に乗り換えた。それまでの間、佐伯と倉田は、彼の恨み節を連日聞かされまくっていた。だから、倉田も佐伯の気持はよく分かった。 

 自分は船団護衛の重要性をかねてより主張していた、自分の考えが通っていれば、こんな改造空母や戦時標準船改造空母ではなく、改雲龍型護衛空母で護衛がされ、米潜等を返り討ち、一掃していたろう、これを快く思わない奴らが自分を殺すため、自分をインドネシアの往復をさせて、あわよくば海の藻屑にしてしまおうてしている、だから、こんなポンコツな艦船からなる護衛艦隊をつけたんだ等々の恨み節、八つ当たりを散々聞かされてきた。倉田が、あの場で正反対の主張をしていた野村と同席していたことも知らず。

「チョロチョロ、邪魔なんだよ。ろくに役に立たないもんなぞ、海に捨ててしまえ!」

「うるさい!こっちだって好きでやってるんじゃないわ!それに、この前は役にたったろうが!これでアメ公をとらえていなかったから、お前らごと飛行機が銃撃で燃えていたろうが。」

 整備員と電探員との争いに、倉倉田は苦笑して、”そろそろ止めせるか“という表情で佐伯に敬礼して争いの場に走った。佐伯は、答礼しつつ、柔やかな微笑を浮かべていた。

 客席改装航空母艦の大鷹、海鷹他戦時標準船改装の航空母艦六隻、同じく戦時標準船改装水上機母艦十隻、巡洋艦・砲艦十二隻、夕張等軽巡洋艦四隻、内二隻は重雷装艦二隻、旧式駆逐艦四隻、水雷艇四隻、丁型駆逐艦八隻、海防艦二十隻と周囲の独航船も含めた百隻を超える輸送船、各種零戦60機弱、紫電改数機、強風各型20機強等航空機約220機弱のヒ100船団はインドネシアから、一路日本に向かっていた。

 米国は、この船団を壊滅させることを、最重要課題の一つとしていたし、3度にわたって大部分の物資を日本に運ぶことに、米海軍の攻撃を受けながら成功させた、この船団は、米海軍にとって、その名誉にかけて、今回こそ撃滅させなければならない存在だった。しかし、ハルゼーが怒鳴りまくりながらも、その名誉を英国艦隊に与えざるを得ない状態にあった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る