白野透子の周辺事情

ZENINAGE

プロローグ 白野透子

 白野透子は地味だった。

 彼女自身そう思っているから、他人にそう言われても気にしないし、地味だと言われたことをもって自分のスタイルを変えようとも思っていない。高校生なりの知恵と知識とおこづかい、そして少しの勇気をもって、精一杯に華々しく生きようとしている同級生たちを否定するわけではないし、そういう生き方ができる人を羨ましくも思っている。透子自身はそのスタイルが合っていないだけだ。

 彼女が生きるに当たって努力していないわけではない。

 勉強は学校どころか全国模試レベルであってもできるほうであるし、見た目の華奢さからは驚かれるぐらい、運動だって普通にできる。

 それでもなお、彼女は地味だった。特に服飾のセンスに、それが現れていた。

 透子が自分のために選ぶ服は、どれもこれも致命的に華がなかった。黒か濃紺の単色、あるいは彩度が低い色の組み合わせがほとんどで、ぱっと人の目を引き付けることはまずない色彩の服を透子は好んでいた。

 そんな地味な服であっても、着ている人間に華があればまた違った魅力を醸し出すのかも知れないが、透子は自身の姿も実に地味だった。

 ごく普通の黒髪をショートに切りそろえた姿は、平凡さという点では実にに合っていた。身長体重も全国女子の平均値から1パーセントも外れてない普通さで、男子女子が気にする三部位も慎ましやか、強調される部分はなかった。

 ある意味最も印象に残るのは顔だった。目鼻立ちは整っているといってよかったし、肌は日ごろの努力で女子の理想的な状態を持っていると言えた。吊り目がちの三白眼は彼女のコンプレックスではあるのだけれど、見る人が見ればその瞳に魅力を感じるかもしれない。

 そんな魅力的と言える顔の印象を一発でぶち壊しているのが、今時貴重かも知れない、厚くてまん丸なレンズを太いまん丸のフレームにはめこんだ、マンガから出てきたような瓶底眼鏡だった。厚いレンズはほとんどの角度から彼女の目を見えづらくし、まん丸のレンズとフレームは整っているはずの顔のラインをその地味な髪型と相まって印象薄いものにしていた。様々な美点がその眼鏡ひとつで台無しになり、目立たぬ髪形と体型に彩りの感じられない服飾センスを組み合わさることで、彼女の印象、すなわち地味さは完成される。

 その容姿がよく言えば落ち着いた内面を作ったのか、彼女は奇矯で派手なパフォーマンスで己をアピールするようなこともなく、静かに毎日を過ごしていた。趣味は読書。ある特定のジャンルを偏読することなく様々な本を読んでいる。これも彼女の目立たなさに繋がっていた。

 透子はそんな自分を、卑下でも謙遜でもなく自分に合っていると思っていた。そんな自分ににふさわしい地味な人生を送っていくのかな、とも思っていた。ひと波乱ぐらいはあってもいいかな、それくらいの気持ちもあった。


 自身の周辺事情が、そんな平凡な人生を許してくれてなかったということに気付かされたのは、彼女が高校二年生も半分を過ぎた十一月の上旬、学園祭も終わり、秋から冬へと移り変わる、夕焼けが美しいある日のことだった。

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