僕はいつまでも見えない先輩を追い続ける。

雨倉日和

第1話 テンプレみたいな日常

イラつくほどに眩しい太陽。

首元を流れる汗。

うるさい数学の教師の声。

あぁ、これだから夏は嫌いなんだ。

夏なんてなくなればいいのに。


「なぁ、その『全てを恨んでます』みたいな顔やめろよ」


ふいにどこからか声がしたので、視線だけを移動して声の主を探す。

「あぁ、なんだ……瀬川せがわか」

見つけた。隣から僕を偉そうに見ている友人を。

「偉そうに見てはいないけどな」

「ところで、どうしたんだよ? 授業中に話しかけてくるなんて……お前らしくもない……。あぁ、そうか。いつもみたいに金貸してほしいんだな?」

「それこそ俺らしくねぇよ! 俺、お前に金貸してくれなんて1回も頼んだことねぇんだけど!? おい、その『僕は分かってるよ』みたいな感じだすのやめてくれるか!? だから、さっきから何一つ合ってないんだって!」

何やら瀬川がごちゃごちゃとうるさい。

無視すると余計に瀬川は興奮しだした。

「お、おい!? その言い方だと、俺が無視されると喜ぶやつみたいじゃねぇか!!」

「どうでもいい話なんだけどさ、否定すると余計に怪しくなるのって不思議だよな」

「どうでもよくねぇよ!? 何なの!? お前、俺のこと嫌いなの!?」

「…………」

「そこは否定して欲しかったなぁ!!」

瀬川は今にも泣き出しそうだ。僕のせいじゃないだろう、多分。

「瀬川、倉井くらい。私語は慎むこと」

数学の教師が不機嫌そうに僕達を見て言う。


どうやら今日は運が悪いらしい。


・・・


瀬川せがわ理久りく。男。高校1年生で、確か部活はバスケ部。王道のイケメン。

特徴はなんか本当によく分からないけどモテているということ。コイツの何がそんなにいいのだろうか。僕には分からない。

「瀬川、お前のせいだぞ」

「いや倉井のせいでもあると思う」

そんなやつと今生徒指導室で2人きり。

違う、そうじゃない。ラブコメみたいなドキドキ展開が待ってるわけじゃない。おい待て、瀬川と僕で変な妄想するのはやめろ。

「お前のせいで……」

「ま、まだ言うか!? どんだけ根に持ってんだよ!! たかが、反省文書かされるだけだろ!?」

僕は瀬川のせいで変な妄想をされるんだぞ? そんなBLがあってたまるか。

「書き終わったかー?」

そう言って人懐っこそうというか気弱そうな笑顔を浮かべて入ってきたのは、担任の山本やまもとだった。

「はい」

僕は立ち上がると、手元にある書き終えた反省文を山本に渡した。

「く、倉井!? いつの間に…」

「お前と話してる間」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!! 今書き終えるから!」

瀬川は原稿用紙に大きく『すみませんでした』と書くとそれを山本に渡した。あ、これ絶対後で怒られるやつだ。

「じゃあ、帰ろうぜ! 倉井!」

「……ああ」

瀬川につられ、鞄を手に取り生徒指導室を出る。

「どこか寄らね?」

「分かった、1人で寄れよ」

「行かねーのな」

瀬川は最初から断られるのを分かっていたかのように笑った。

流石王道野郎だ。無意識で恥ずかしくなるような仕草をする。

「あ、倉井見ろよ。あの子可愛くね?」

「ん」

何となく瀬川が指さす方向を見てみる。

その先には女子がいた。残念ながら僕にはそれ以外の単語が見つからない。

「可愛いか?」

「可愛いだろ、俺のタイプだな」

お前のタイプは聞いていないが。

「ふーん……」

「反応薄いなぁ……それでも健全な男子高生かよ?」

「むしろ健全すぎるくらいだろ」

そうして瀬川と他愛ない話をしていく。

先輩と後輩ならどっちがいいだの、ハーフはどうだの、果てには魔法がどうのこうのというメルヘンチックな話までした。

こんな平和すぎる日常がずっと過ぎていくのだと思っていた。


彼女と出会うまでは。


・・・


彼女と出会うまであと3日。









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僕はいつまでも見えない先輩を追い続ける。 雨倉日和 @rain_no_life

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