21 白と黒の決着

 金城一真だった頃を、俺は思い出す。

 レイギと名乗る前、父がまだ存命だった頃だ。


 学校が終われば直ぐに帰り、毎日毎日鍛錬鍛錬。

 母が逃げてもソレは続き、高校に上がった頃におかしいと気付いた。


 恨みがつのり、反抗しようと思った矢先に、あいつは死んだ。

 そっから俺が落ちるのは速かった。

 殺しは、したかも知れねぇ。

 殴って伸して放置したこともあったからな。


 ワルとつるんで、ヤクザの手先みたいになって、暴力で稼いで、遊びまくった。


 嫌気が差して、上を殴り飛ばして、逃げて、それでも悪いことから足を洗えなかった。


 そんで、死んだ。殺された。


 正義の忍者様には俺の格闘技は通用しなかった。

 それだけだ。


 それでも、鍛えた技は誇りだし、これで稼いできた。


 自棄になった俺を姫サマは優しくしてくれた。

 悪いことから足を洗えた気がする。

 暴力じゃない稼ぎ方が出来るようになったし、夜もよく寝れた。


 だから、俺は姫サマを助けるよ。


 一度負けたけど、ここまで勝ち上がってきた。

 とりま、目の前のムカつく動きするやつを倒さないとな。


 俺には、相棒が教えてくれた異世界の拳法がある。

 気の込めやすいこっちの技は威力もある。

 それにさっきの反応からして、向こうの俺は知らないみたいだ。


 向こうは爆炎拳ってやつは強そうだけど、動きも悪いし姿勢もよくない。

 素人だ。


 動き回って、撹乱して、異世界の技で仕留めてやれば良い。


 けど、まずとっかかりが欲しい、な。



*****************************



 互いに、慎重になったのか。


 一真もレイギも手を出さなかった。


 一真はステップを踏みながら待つ。

 レイギは右に左にとゆっくりと歩いている。

 タイミングと隙を見計らっているのか、と一真は思った。

 何を考えている。

 何が狙いだ。


 一真がやるのは初撃をかわし、攻撃を加えて隙をこじ開ける。

 爆炎拳を先に作れば、それが気になって、使おうとして、隙が出来るからだ。

 だから、爆炎拳を作って当てるための隙を作り出さなければならない。


 ステップは意外と体力を消耗するようだ。

 一真は息を長く吐いた。


「どうした、こないのか」


 レイギが言う。

 アルブスペスの動きは変わらない。

 一真は首を振って答える。


「そっちこそ、こないのか」

「は、俺はこのまま待っててもいいんだぜ」


 体力の消耗は気付かれているらしい。

 それに気を張り続けて、集中力の低下も心配だ。

 動きが多く、未熟な一真の方が不利なのだから。


 一つ。

 一真は一つ思い着いた。

 隙を出さないように動くのではなく、隙を出してもいい。

 相手が動けなければ。


「だったら《包陣阻壁》」


 一真は前と左右を囲むよう3枚の魔術障壁を作りだす。


「はっ、またなにぃ!?」


 アルブスペスがつま先を障壁にぶつけ、左右に首を振った。

 左右に間隔が狭い壁がアルブスペスの動きを阻んでいるのだ。


「お前ッ」


 一真はステップを前方向に踏み距離を詰める。


「《徹甲・爆槍拳》!」


 壁を壊すのに1アクション。

 そこから攻撃が来る前に自身が作り出した壁ごと貫いて落とせば良い。

 そう考えて一真は右拳先に長い円錐状にの爆炎拳を作り出す。


 驚愕故か、アルブスペスは壁を壊そうとしない。


 取った。

 一真は魔法拳を叩き込む。


「こんにゃろう!!」


 アルブスペスが真上に跳躍する。

 一瞬前までアルブスペスが居た所を爆炎が貫いた。


「なっ!」


 驚いた一真はアルブスペスを視線で追って見上げる。

 白い影は障壁の縁を蹴って更にジャンプした。

 そして背後へ。


「せあっ!」


 一真は左にステップで退く。

 後ろ目にアルブスペスがパンチをしていた。


「避けるかっ!」

「くっ!」


 距離が近い。

 殴れば当たる。

 アルブスペスが右腕を引いている。

 踏み込まれている。


「オラァ!」

「がぁっ!」


 一真は左腕を外に向け振り払う。

 アルブスペスの右腕を絡めて弾いた。

 間に合った。


 アルブスペスの左拳。

 ステップで避ける。

 右拳で左拳を払う。


 アルブスペスが左膝を上げた。

 蹴りが来る。

 避け――


「水鳥脚!」

「ぐっ!」


 アルブスペスの蹴り足に一真は左手を合わせ、膝を曲げ姿勢を低くする。

 蹴りがアテルスペスの右肩を擦った。

 膝を曲げなかったら右腕を失っていただろう。

 咄嗟の成功だ。

 そして一真はこれがチャンスだと気付いた。


 アルブスペスの伸びきった脚をアテルスペスの左手が掴み、痛む右肩に押しつける。


 一真は白い脚を痛みを堪えながら右手で掴んだ。


「《はばむかべ》!」

「うお!」


 右の手でしっかり掴み、右手右肩とアルブスペスの左脚を魔術障壁で固定した。

 右肩が痛むが、機動力を奪っている。


「お、お前! 離せ!」


 アルブスペスが脱しようと左脚を動かすが、魔術障壁と右手によって動かない。


 一真自身も右腕が使えない。

 だが、問題は無い。

 爆炎拳は殴るモーションでさえ有れば、左でも使えるのだ。


「離すか! 《爆炎拳》!」

「させるか! 離せ!」


 左の拳先に爆炎拳を作り出したアテルスペスを、アルブスペスが左右の拳で殴る。

 だが脚を捕まえられて全身を活用出来ないパンチに大した威力はない。


 一真は体中にアルブスペスの痛みを感じながら、左腕を振りかぶった。


「これで!」

「ちぃっ!」


 アルブスペスが腕を引き、胸の前でクロスする。

 クロスの中央にアテルスペスの爆炎拳が突き刺さった。


 硬い魔術障壁がアルブスペスの腕装甲に打撃を加え、内部の爆炎に圧力が掛かる。

 魔術障壁が割れて爆炎があふれ出し熱と爆圧がアルブスペスの両腕を破壊した。


「もう一発」

「させん!」


 アルブスペスが右脚を上げ、アテルスペスの左肩に載せる。

 後ろに倒れ込むのに合わせ体を捻った。


「うわっ!」


 一真はアルブスペスから加えられる突然の力に耐えきれず倒れ込む。


 地面に倒れながらも、アテルスペスの右手と肩、アテルスペスの左脚は離れない。


 アテルスペスは仰向けに倒れた。

 アテルスペスの頭より上方向にアルブスペスが倒れている。

 右肩とアルブスペスの左足はくっついたままだ。

 アルブスペスの右足が離れた。


「離せ!」

「嫌だ!」

「なら! そのまま落ちろ!」


 アルブスペスの右つま先が落ちてくる。

 自由な膝を使ったバタ足のような蹴り。


 アテルスペスの左肩に蹴りが突き刺さる。


「ぐあっ!」

「ちっ、見えん! 頭を潰して、そのまま俺の勝ちだ!」


 再度アルブスペスの右足が離れた。


「そりゃっ」

「《雷震掌》!」


 一真はアルブスペスの蹴り脚に左手を合わせる。

 雷撃が脚を伝ってアルブスペスとレイギに届いた。


「がっ!」

「今だ!」


 アルブスペスの左脚を固定する魔術障壁を解除し、仰向けから半転する。

 そのまま跳ねる様にアテルスペスをアルブスペスに覆い被さらせた。


 アルブスペスの両足を自分の脚で抑え、首を左腕で掴んで起き上がらせないように。


 一真はアルブスペスを見下ろした。

 直ぐに動かないのは、安堵か。


「ち、畜生!」

「《爆炎拳》!」


 レイギの声に呆けるのをやめた一真は右腕を振りかぶる。

 拳先に赤い光球。


「すまねぇ、姫……」

「ッ!」


 一瞬だけ、一真は躊躇って、右拳を振り下ろした。




 神前戦儀、最終決戦。

 勝者、ゼクセリア。



 ここに、決着。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る