レジーナ編「砂塵に散った想い」 第11話

 翌朝全員を集めて行われたチーム分けは、やはり予想通り困難を極めた。と言うのも、傭兵など荒事を優先して依頼を受けていた者、そうではなく生産系の依頼を飯の種にしていた者はスムーズにいったのだが、どちらも出来る者とどちらも出来ない者、この両者の比率がかなり多かったのだ。

 どちらも出来る者はまだいいのだが問題はどちらも出来ない者で、彼らは遺跡調査を主な仕事にしていた、まだ冒険者に成り立てで経験が浅いなどの理由から戦いの知識も生産の知識も持ち合わせていなかった。だからと言って遊ばせておく訳にもいかず、どうしても入れるならどちらに向いていそうか、を一人一人考えていく事になった。

 傭兵部隊の総ての人員を二つに分け終わった頃には、東の空に輝いていた太陽は西に沈みかけていた。どちらのチームも出発は明日の昼と決まり、明日の砂漠越えに備えて全員が早めに休む事になった。

 そして翌日。真昼の太陽が眩しく砂漠を照らす中、我々はニンバス将軍の目を盗んで来てくれた何名かの兵達に見送られフーリの町を出発したのだった――。



「改めておさらいだ。コレアロの町の特徴について教えてくれ、リーブス」

「はい!」


 サークに促され、先頭の方にいたまだ若い赤毛の若者が元気良く返事を返す。彼は冒険者として過ごした日は浅いが、ルリア出身でルリアの地理には詳しいというのでこちらに来て貰った。


「ええと、コレアロの町は北東のクラシス、北のユレット、北西のマールの三つの町からのラインが一つに集まる中継点です。ただオアシスがあまり大きくないので、ここに集めた物資をオアシスの大きなフーリに運び北の貿易の拠点とする。フーリが北の要と言われる所以はそこですね」

「大勢を収容するにゃ向かねえ町ってとこだな。恐らくカスターは北の三つのラインを通してその都度兵を送り込んでるんだろう」


 顎に手を遣り考え込む仕草をしながら、サークがコレアロのある方向を見つめる。陽炎の立ち上る地平線の彼方には、未だ町の姿は見えない。


「コレアロの周囲にも壁はあるんだろう?」

「はい。ルリア北部は砂嵐の多い地域なので、その防止の為に総ての町に壁が設置されています」

「それを潜る為の門は、当然閉ざされているだろうな……。そろそろ教えてくれてもいいだろう、サーク。この人数で、コレアロをどう攻める気だ?」


 私が問い掛けると、何故かサークはキョトンとした顔になる。そして、気まずそうな顔をしてこう言った。


「……あれ? 俺、まだ言ってなかったか?」

「聞いてない! お前、勿体振って言わなかった訳じゃなかったのか!?」


 命懸けの戦を前にしてのあまりに間の抜けた言い分に、思わず語気が強くなる。こいつは……完全に器を認めたら認めたでこれか!


「悪かった、すっかり言った気になってた。ついでだから、ここにいる全員に発表する。今回俺達が行うのは、コレアロの町に侵入してのゲリラ戦だ」

「コレアロに侵入? どうやって……あ」


 疑問を口にしかけて気付く。普通ならば、高い壁に囲まれたコレアロに人知れず侵入するなど困難だろう。しかし、サークならば出来る・・・・・・・・・のだ。


「……お前の魔法を使って、砂の中を通って侵入する。そうだな?」

「正解。但し半分に減ったとはいえ、これだけの人数を一度に通すのは無理だ。まずは少数の先発隊を選んでその人数だけで侵入し、コレアロの元々の住民の安全を確保したら門を開いて残りを招き入れ、敵を襲撃する。町の中なら路地も多いからな、なるべくそこへ追い込んで各個撃破が望ましい」


 成る程、サークが何故敢えて冒険者の後方派遣とコレアロ攻めを同時にやる事にしたのか解った。その作戦ならば、あまり大人数で挑むのは却って小回りが利きづらくなり都合が悪くなる。


「今回昼に出発にしたのは、そうすれば到着が夜になるからだ。人目を避けて動くには、夜の方が向いてる。で……アントニー、ちょっと来い」

「は、はい!」


 サークに呼ばれ、アントニーが人波を掻き分け前へと顔を出す。自分が何故呼ばれたのか解らないらしいアントニーに、サークはあくまで軽い感じで問い掛ける。


「お前、どう思う?」

「へ? な、何がです?」

「だから、どんな奴が先発隊に相応しいかだよ。定員は……そうだな、十人ほど。お前が決めてくれ」

「へ!?」


 突然の無茶振りに、目を丸くするアントニー。しかし私自身、これは意外と悪くない人選なのではないかと思う。

 先の戦、私ですら考えなかった奇策で我々を勝利に導いたのは他ならぬアントニーだ。彼の意見は参考に値すると、そう考えたからこそサークはアントニーに選択権を与えたのだろう。


「え、ええと……後で恨みません?」

「恨まない恨まない。ほれ、言ってみ?」

「じ、じゃあ……」


 いつかのように忙しなく視線をさ迷わせながら、アントニーが暫しの間押し黙る。そしてやがて、考えが纏まったのか口を開いた。


「ま、まず、住民の安全を確保するまでは敵に僕達が動いている事を気取られないようにしないといけませんよね。となると、あまり体格のいい人は不味いと思います。隊長は細いからギリギリというところですが、その、ウォルターさんくらいになるとちょっと……。そ、それと、不測の事態が起きた時に備えて、ある程度戦える人間だけで構成すべきだと思います。理想は前衛で戦える人五人、魔法を扱える人五人。こ、この配分の理由は、全員前衛だと大勢に囲まれた際にもちませんし、だからといって弓は市街戦には不向きなので連れていくなら魔法使い、それに加えて聖魔法を使える人も二人くらいは欲しいなと思った……から、なんですけど……」


 最後の方は若干自信なげに、そう言ってからアントニーが周囲を見回す。……以前のような奇抜さはないが、十分理に叶った編成だ。


「アントニー、お前は何か兵法でも学んでいたのか?」

「い、いえ! 戦記ものの小説は好きでしたが、きちんと学んだ事は……」


 私の問いにそう答えたアントニーに、それであれだけ考えられるのか、と感心する。今からでも本気で兵法を学ばせれば、もしかしたら優秀な軍師に化けるかもしれない。


「ありがとな、アントニー。よし、それでいってみるか。砂の通路作りに俺は絶対いなきゃなんねえから、あとそんなにごつくなくて強いっつったらやっぱレジーナは外せねえか。それから……」


 アントニーの意見を元に先発隊のメンバーを決めていくサークを見ながら、私は体の中に緊張感が高まっていくのを感じていた――。

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