第5話

「赤井さん、ありがとう。助かったよ」


二人を見送ったあと片付けを進めながら僕はお礼を言った。


「水面くんは悪くないよ〜。漫研の人たちと色々あったこと、林檎ちゃんには教えてあるからそれが原因かな〜。林檎ちゃん優しいから」


その表情からは申し訳なさが表れていた。赤井さんはやっぱり優しい子だ。


「それもそうだけど、こうして付き合ってもらって誤解されない?赤崎さんにも和田くんにも…」


赤崎さんがあんなに心配するレベルになにかあったのなら僕みたいに顔がいいわけでもないオタクと一緒にいて大丈夫かと心配になる。


「その時はその時、かな…話せばわかってくれるよ!それより聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「聞きたい事…?」


なんだろう。


「えっと…先に謝っとくね?水面くんってクラスで誰かと話してるのあんまりみないし、今もここに1人だよね?それとサークルも1人なの?」


どうやら赤井さんにも僕はぼっちに見えていたらしい。

いや、間違ってはないんだけどはっきり言われるとグサっとくるな。


「そうだよね、クラスで僕浮いてるよね……赤井さんの言う通りこのサークルも僕だけの個人サークルだよ」


前髪で目が隠れるようなオタクっぽい容姿、教室では基本的に1人。そのくせテストでは学年10位以内に入るというガリ勉オタクというレッテルを貼られているのは知っている。

そんな僕に声をかける人は少なく、友達といえる人はほとんどいなかった。

高校を選ぶ際、同じ中学から誰も行かないような学校を選んだからも理由の一つだけど。


「ごめんね…で、でも1人ってことはダンジョン&ショッピングも全部1人で作ったってことだよねっ!」

「そうだよ。おかげでプログラムと内容はともかく絵がアレなんだけどね…」


そう、僕は壊滅的に絵のセンスがないのだ。

ダンジョン&ショッピングを出した時にスレで話題にもなっていた。

出来はいいのに絵が酷すぎる。絵がよかったらもっと知名度はあがったはずだ、と。


「わたしは嫌いじゃないんだけどね!ずっとやってると愛らしく見えてくる不思議〜!」


同情してくれてるんだな。ありがとう。なんか涙出てきた


「あ。メール!林檎ちゃんからだ!それじゃ片付けが終わったらわたしたちも行こっか〜!」


携帯を確認する赤井さんを見てなるほど、と思う。


「そっか、あの場で僕だけ残ると誰とも連絡取れなかったってことか。改めてありがとう、赤井さん」

「いえいえ〜!せっかくなので連絡先交換しませんか!」


僕に断る理由などない。


「赤井さん、僕のこと学校では話したりしちゃだめだからね?」

「えっ?学校では水面くんと話しちゃいけないってこと?もしかして迷惑?」

「ち、ちがっ!」

「違うならいいよね~!じゃあいっぱい話しかけちゃお~!」


小悪魔のようなウインク付きでそう言った。

か。かわいい…


「えと、なんか言ってくれないと恥ずかしいよ?冗談は置いといて……オタクを隠したいってことかな?和田くんみたいに」


彼は学校では隠れオタクなのか。

まぁ、赤崎さんみたいな人オタクとは縁のなさそうな人と歩いてたし……


「オタクは隠してるつもりないからオタトークも歓迎だよ!そうじゃなくて僕が言ってるのは、サークルのこと。僕がメープルだということ隠して欲しいんだ」

「なるほどっ!えっちな本出してるわけでもないのに同人活動していることは隠したいってことだね!」


納得してもらえたようだけどなんでいちいちそういうこと言うかなぁ…


「あの、赤井さん?えっちな本って口に出してさ、恥ずかしくない?」


そう言った途端に赤井さんは茹でタコのように真っ赤になった。


「そそそ、そうやって言われると恥ずかしいから言わないで〜!!!ほら、早く行くよ!」


どうやら地雷だったようだ。

そんなに恥ずかしいならやらなきゃいいのに


「ま、待ってよ赤井さん〜」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る