SSSな魔法剣士とヘラクレスオオカブトの戯れ

「とりあえず関わらない方が良いですよね」


「あたしはどちらでもいいけど」


 俺は目を合わせないように彼女の前を通りすぎる。


 彼女は一瞬、俺たちを見たが何事もないように目を伏せ、


「待ってください」


 やっぱり話しかけてきた。


「この先は吸血鬼が住まう城。お二人は何用ですか」


 背伸びしたような喋り方で、少しハスキーが混ざった独特な声である。


「私たちは吸血鬼に呼ばれてきました」


 はい、と熊さんリュックから取り出した例の血文字を見せる。


「ひぃ、え、血? さ、さげてくださいい!」


 血が苦手なのかすぐに目をそらしてしまった。


「はあ、はあ、吸血鬼に呼ばれたんですか?」


「はい、実は——」


 かくかくしかじかで、とこれまでの経緯を手短に説明する。少女は顎に手を当てじっと聞いていたが、うんと頷く。


「宿屋の女将さんとバイトさんだけでは心もとないですね、どんな危険があるか」


「そうですね、でも話し合うだけかもしれませんので」


「どうしてもというなら、ついていくのもやぶさかではないです」


「お気になさらず、多分私たちでも大丈夫ですから」


 何故か草むらでごそごそしている相沢さんを横目に見つつ、少女へ笑顔を返す。


「戻る頃はきっと夜になっています。夜は野犬も出るし、女将さんは私よりも幼い。これは由々しき事態です!」


「ほら、ヘラクレスオオカブト!」


「ひゃいっ!」


 突然少女の目の前に出されたのは、大きさ五十センチはあるであろうヘラクレスオオカブトだった。ちなみに現実世界ではこの半分にも満たない。


「むむむむ、むしはちょっと——いますぐそれ、それ、なげすててください!」


 腰の剣に手をかけながら、相沢さんへと少女は注意する。


「そっか可愛いのに」


「大きすぎて半端に気持ち悪いんですけど」


 パッと手を離すと巨大ヘラクレスオオカブトはブゥウンという羽音を立てながら、あろうことか少女の方へ一直線に向かっていく。


「にゃ、こ、こないでええ!」


 腰から剣を一本抜いたき、妙にぬるりとした液体が目についた。腰の小袋からU字型の火打石を取り出して、剣に叩きつけると火花が生まれる。


 火花は剣を包む液体に燃え移り、瞬く間に刀身は炎に包まれた。


「我、第一から第三の術式を開放、刀身にその武装を宿せ、インフェルノブレイド!」


「ま、まじゅつ——?」


 始めて魔術って見たけど、油を塗りたくった剣に火打石を叩きつけることなんだ——ん、それってただの火あぶりソードじゃん。


「いや、きえて、いやなの、いやー!」


 ぶんぶん分と目を瞑りながら一心不乱、少女は森の中でファイヤーダンスを踊る。大きめのヘラクレスオオカブトは悠々と空を飛び森の中へと消えていった。

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