SSSの残念ヒーラー水遊び

 次にやってきたこの一帯は雨風に晒され、放置されたままの土地である。家があったであろう形跡は崩れた木材で分かるのだが、どれも形を残してはいない。


「さてここにも同様の術式を施しておきました」


「いつの間に——というか、くそ英雄が来る前に全部終わらせておけば良かったじゃん」


「いえいえ、期日ギリギリじゃないとどんな汚い手で、また村をボロボロにされるか分かりませんからね。下準備さえしていればすぐですよ」


 俺は術式に手を当て、「ロック解除、1から一二六工程まで順次解放」と同様の起動呪文を唱えた。


 すると荒れ地に書いてある術式へ、水が流れるように薄緑色の光が次々と走っていく。


「あ、そこ危ないですよ」


「え?」


 相沢さんはぼーっと発動する地面の術式を見ていたが、気が付いたときにはもう遅い。


 彼女のローブを完全に下からめくりあげるように、太さ一メートルの巨大ミミズが顔を出した。いや、正確には顔を出してはいない。なんせ相沢さんのワンピース型のスカートの中でもぞもぞしているのだから。


「ちょ、とよっとまって、なにこれ、え、ぬるぬるして、ふとももに——すごい、きもち、わっ——もー!」


 怒りあらわにしたと同時に巨大ミミズは再び土の中に潜る。


「ひどい、ひどすぎるよ……下着までびしょびしょ……」


「ご、ごめんなさい、まさか術式の上に立ってるとは思ってなくて」


「うう、あとで洗濯してよね。ぬるぬるで気持ち悪いよお……」


「は、はは」


 これ中年男性の姿で術式起動してたら、クソ英雄を殺す勢いで俺も殺されていた。初めて性転換に感謝したぜ。ありがとう性転換。ありがとう幼女。


「さて地面が見えないほどのグランドイーターたちに任せれば数分で終わりますね」


 その勢いで毒沼の処理が終わった蛙たちを生息地に送り返し、水源をさらに透明度の高い生活用水に変えるため、ドクターフィッシュを召喚準備する。


「相沢さんドクターフィッシュって知ってます?」


「聞いたことない」


「これがジェネレーションギャップか……!」


 一時流行ったが、今の高校生は知らないんだろう。三五歳と十七歳の差は深すぎる。深すぎたせいで美少女ロリッコ狐耳娘の口調をすっかり忘れてしまったじゃないか。


「人の古い角膜食べて綺麗にするんだって、それの異世界版かな」


 よし、気を取り直して術式を起動する。


「え、肌とかも綺麗になるの?」


「なります、能力値最大にしてますから」


 徐々に魔術が発動し、水の中に繋がった術式がぺかーと光る。


「ほんと!」


 俺が止めるまでもなく、相沢さんはブーツを脱ぎ捨て、水の中に足を突っ込む。


「あ、気持ちいい。毒沼だったとは思えない」


「相沢さん、あんまり無茶しない方が良いですよ」


「え?」


 この「え?」ってどこかで聞いたわーと思ったが矢先、想像通りの水の中に相沢さんは引っ張られた。


「ちょ、ちょまて、こら! なんでドクターフィッシュこんなでかいんだ! マグロか? マグロなのか! それよりもでかいんじゃないの? 助けてー! ヘルプ、ヘルプフィッシュ!」


 少し面白いから放っておいてやろうと思ったが、涙目だったので、テイマーの力によって相沢さんを開放する。

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