SSSスローライフの崩壊?
「やあ、ミキネさん。こんにちは、今日はお日柄も最高潮じゃないかい?」
「そ、そうですね、領主さん」
俺の目の前で白馬に乗っている身なりの良い整った顔立ちの男は、この一帯を仕切っている領主だ。ちなみに相沢さんを追放したのもこのパーティーである。この一帯を褒美として受け取ったようだ。
「それで期日は明日だが、この様子だと苦労しているようだね」
苦労ってお前のせいじゃねーか。と声を出して言いたいが、これだけかわいい獣耳娘がそんな、はしたない言い方をしてはいけない。可愛さを保つのが俺のポリシーだから心の中だけで突っ込む。
「いえ、大丈夫です。明日までには必ず」
「ふ、健気だね」
ふぁさと髪をかき上げると、着いてきていた後ろの女子二人がうっとりする。早く帰ってくれねぇかな。
「でもいいんですね、私が勝ったらこの一帯の土地は私が貰いますよ?」
「ああ、勿論だ。僕は多くの人間を救ってきた。嘘は一度も言ったことがないのが取り柄だ」
「しね、くそ英雄が!」
相沢さんはがるると牙をむきながら、地面に胡坐をかき、皿に残ったスープを口に付けて無理やりすすりつつ暴言を吐く。とてもヒーラーとは思えない仕草だ。清楚なヒーラー女子をイメージしている人には大層申し訳ない。
「おやおや、奈々菜さん。この宿で癒されていたんですか?」
「しね、くそ英雄が!」
「相変わらず暴言だけはスゴイですね、ヒーラーと言っても全く仕事をしなかった自分が悪いんじゃないですか」
「しね、くそ英雄が!」
「食料ばかり多く食べて、役に立ったことと言ったら、僕が足を踏み外して谷に落ちたときに、蘇らせてくれた程度じゃないですか」
「大分、役に立ってますね……」
「しね、くそ英雄が!」
仕事しないと言っていたが、相沢さんの話では可愛いと思って手を出したら——自分で言うな——性格が思いのほか残念だったってことで、気まずくてて追い出したんじゃないか、確か。
「それにあの時もそうだ。僕が昔の仲間の女剣士に刺された時も、蘇らせることしかしなかった。本来ならば清楚ヒーラーに慰められるべきなのに……」
「しね、くそ英雄が!」
こいつ結構死んでるんだな……相沢さんが抜けたらこいつ間違いなく死ぬぞ。
てか相沢さんもそろそろ壊れた玩具みたいに同じ単語投げるのやめような? 地味に効いてて領主涙目じゃん。
「まあまあ、それで今日のご用は何ですか?」
このままでは領主が口を開くたびに放送禁止用語で、ピー音ばかりにされそうだったので、俺は二人の間に割って入る。
「あの女……結構かわいいからって——いや、ごほん。念のための約束確認ですよ。ミキネさんが僕のお嫁さんの一人になる事の確認をね」
「私が負ければ、ですよね」
「この状態で手があると?」
領主の広げた手は今にも崩れそうな宿屋を表しており、目線を外に向けると広大な荒れ地と毒の沼が広がっている。
さらに指をさしたその先には古びた古城がある。あそこには吸血鬼が住んでいて誰も近寄れない。
「さあ、明日までに毒の沼を消して、住民を十五人以上にして彼らが居住する家も建てなさい。できなければ、僕のお嫁さんの一人になる。この条件で勝手に僕の領地で生活していたミキネさんを許してあげようというんです。本来なら死刑ものです」
ルールもない辺境の領主は何処もこんなもんか。弱者に弱みに付け込みやがって。
「ええ、約束は明日の今ほどのお時間。まだ二四時間はありますから」
にっこりと領主に微笑み返すと、領主は「おお」と顔を崩して、ふふんと再び笑う。
「その強がりがいつまでもつか——では、また明日。僕のミキネさん」
こういうときだけ姿が元に戻らねーかな。馬をテイムして、強化バフもりもりにして、領主を襲わせてやるのに。
去っていく領主の背中に向けてもはや放送禁止用語ばかりで、何を言っているのか分からない相沢さんが肩で息を切らしながら、やっと俺の方に振り向いた。
「さあ、どうやってあいつの命を取る?」
「取りませんよ」
神に仕える者が言うセリフがそれか。
「だってそうでもしないとミキネちゃんアイツの手籠めにされちゃうよ。面食い野郎が」
「丁度今日で仕込みが終わりそうだったんですよね。問題は少し残ってますけど、そこは後で考えるとしてまずは食器を洗いましょう、あと暴言を地味に混ぜるのも良くないので禁止です」
「よっしゃ、待ってろよ、あのくされ★★★が、てめえの★★★をこの神聖なるセイクリッドステッキで★★★にして★★★できなくしてやるからよ! 女と★★★なんて想像する事すらおびえさせてやんよ!」
「はあ、しゃべり方はせめて元に戻してくださいね」
両手で中指を立て、舌を出しているるヒーラーを見ながら俺は肩で息をついた。
こんな奴と同じ世界の出身だとは思われたくない。
1-3 SSSスローライフの崩壊?
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