英雄クエスト発生!:翌日までに毒沼除去、住民を十五人以上(居住区付き)を達成しろ!

SSSスローライフを送る狐耳娘

「おはよーございます! 今日も一日がんばりましょうー!」


 おー! と雑草まみれの庭で腕を天高く振り上げる可愛い俺は真贋幹也。現実世界では夜二二時から~朝七時まで週六勤務で働いていた、日本では一般的なアルバイトリーダー三十五歳だ。一部からは『連勤の幹也』と呼ばれていた。


 ——ってちょっと待て、おい、カメラどこ行くんだよ!


 可愛すぎる声出してんのが、おっさんだって分かった瞬間、カメラを青空に向かって動かして「次回!」みたいな字幕でごまかすのやめろよ! 毎日頭が温かいお客さんを相手にしてきた俺でも流石に心に刺さるぞ。


 俺が何故異世界でこんな可愛い新人声優みたいな声を出してるのか、詳細は面倒くさいから後だ。まとめると俺は一年前に「極彩色の魔女」ってやつに無理やりこの異世界に飛ばされた一人ってこと。


 なんやかんやあって今はここ「隠れ家YADOYA ~人生疲れた方御用達~」を経営している。俺のように心に深い傷を負った者を癒せるような、人生をやり直しさせるような癒しの宿屋の女将として、毎日生きている。と言っても働いてるのは俺だけだけど。


 そう俺は女将だ。


 おい、カメラ戻って来いよ、いつまで青空撮ってんだよ。


 大丈夫だって、期待は裏切らねーよ。自分で言うのも妙だがめっちゃ可愛いから。


 ほら、このとろけるようなクリーム色のストレートっぽいけど、髪先がゆるふわなロングなヘアー。瞳孔に「★」マークでも常に浮いてそうな、大きなきらきらとした瞳と整った目鼻立ち。


 そして頭がお花畑な残念ヒーラーに無理やり着せられた、ふわふわなで動き辛い洋服とエプロン。


 この異世界にステータスって概念はないけど、俺の見立てだとこれ魅力MAXだよ。


 なんでかって? そんなもん他の異世界にも現実世界にも山ほどいるってか?


 いや、いねーよ、俺はジョブチェンジしようとしたら、担当者の勘違いで狐のようなふわふわな獣耳と、毛ざわり最高の先っぽが白い尻尾までくっつけられた幼女なんだぞ! ジョブチェンジどころか性転換だぞ、性転換!


 どんな人間でもへこむぞ普通!


 中身が三五歳のおっさんじゃなかったら、全宇宙どころか全異世界が平和になってるレベルの美少女だわ。


 作画もめっちゃすごいじゃん? ぬるぬる動いてるよきっと。髪の毛とか、服の書き込みとか。


「——はあ」


 なんで俺は毎日このくだりをやっているんだ。


 俺が真贋幹也だというアイディンティティを守るために、この茶番をやってもう何日になるか、空に黒い流星を見た日だったから、まだ一週間程度か。


 俺は大きく伸びをして——伸びをしても小さすぎてさほど変わりはないが——今にも崩れそうなおんぼろ宿屋に戻ろうとした。


「野菜でも取ってこよ」


 甘すぎずけれど真の通った凛とした声が自分にも響く。声も可愛すぎだろ。なんで俺の目の前にこんな美少女いないわけ? 俺が美少女になったら意味ないじゃん。


 性転換したショックを今日も癒すため、自分で植えた野菜をスープにして朝ごはんにしよう。


 身体が小さい分、少食になったことは非常に楽だ。


 洗物も少ないし、何より金がないので消費が少ないところが良い。


「お客さんは今日もいないし歌い放題だな~」


  性転換したショックのせいか、土地柄のせいか分からないが、死ぬ気で一心不乱に畑を耕したら、季節関係なく、植えた野菜が採れるようになったのもここが便利な理由だろう。


 ふんふんふんと鼻歌を歌いながら、トマトっぽい野菜や、インゲンっぽい野菜をもぎ取る。


 フレッシュでなかなか悪くない。こんな時、狐耳勝手にぴょこぴょこと動く。自分で触るよりも他人の獣耳を触りたいもんだ。




1-1 SSSスローライフを送る狐耳娘


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