第5話

ラビィナの家に向かう途中、私は彼女の家はどんな外観なのだろう、と想像をしていた。

ラビィナは魔族で魔法が使えるし、見た目も魔女っぽいからホラー映画とかに出てくる怖い館に住んでそうだなあ。

──と、思っていたのに。


「ここなの」

「は? ここぉ!?」


東京にもあるようなタワーマンションに住んでいた。

ひどい。こんなのあんまりだ。私のワクワクを返せ! 魔族なんだからこんな近代的な建物に住んでないで古びた屋敷とかに住んでいてよ! それかせめてボロっちくて壁が蔦で覆われてるアパートとかが良かったよ!!


「なにこの建物!? なにゆえラクシニアにタワマン!?」

「最近ラクシニアは他国の──特にニホンの文化を取り入れているからこういう建物が増えてきているの」

「取り入れないで! せっかくのラクシニアの文化を日本なんかの文化でぶち壊しちゃダメ!」

「オートロックで便利なの」

「やだああああ!! オートロックとか言わないでえええ!!」

「マジ卍」

「やめろ!! マジでやめろ!!」


ラクシニアに日本の文化を輸入したやつをぶん殴ってやりたい。可愛らしいケーキの上に脂っこいステーキを乗っけるような行為をしやがって。


「ほらほらさっさと来るの」

「うえええ……せめて部屋は魔女っぽいと良いなあ……」

「レイカはラビィナに何を望んでいるの」


ラビィナに引っ張られ、私は渋々マンションに入る。

ラビィナの部屋は最上階にあるらしい。服装もお嬢様っぽいし、やっぱりラビィナはお金持ちなのかも。

エレベーターに乗り、最上階へと登っていく。

ここには私とラビィナしかいない。つまり、二人きりだ。


「ところで、ラビィナの両親って家にいるの? もしかしてまだ仕事中?」


よく考えたらラビィナは子どもだ。子どもが親の許可なしに見知らぬ大人を自宅に泊めるなんて許されない。私がそんなことをしたらパパに叱られる。

もしどっちかが自宅にいるのなら、ちゃんと経緯を伝えて宿泊の許可をもらわなければ。

そう簡単にもらえるとは思えないけれど……。


「──ラビィナの両親は50年前に死んだの」

「ご、50年前って!?」


私が生まれる前じゃないか。

ちょっと待て、もしかしてラビィナって……私より年上!?


「レイカ、まさかとは思うけど……ラビィナのことを年下だと思ってたの?」

「う、うん……だって、小さいし……」


そう言うと、ラビィナは呆れたようにため息をつく。


「馬鹿なレイカなの。魔族は人間よりも長命で、特定の時期に成長が止まることがあるの。そんなこともわからないの?」

「いや、長命だろうなとは思ってたけど……成長が止まるなんて知らなかったよ」

「個人差はあるけど、基本的には15歳から30歳の間で止まる人が多いの」

「へえ、結構範囲広いね」


永遠の若さを望んでいる人にとっては嬉しいことかもしれないけれど、15歳あたりで止まったらお酒とか煙草とか購入しづらいだろうなあ。未成年飲酒とかで捕まりそう。


「成長が止まらない魔族もいるの?」

「少数だけどいるの。ラビィナの従兄弟がそうだったの。ほんと、顔も手も皺まみれで髪の毛は細くごわごわしていて……醜いの」


ラビィナはうんざりとした表情でそう言った。

彼女は劣化に対して嫌悪感があるのだろうか。


「ちなみにラビィナは15歳の時に成長が止まったの。ま、元々背が小さい方だったからもっと若く見えるかもだけど」

「へー……でもさあ、胸はやたら成長してない?」


見た目年齢15歳にしては胸が大きすぎる。私より大きい。胸だけ成長が止まらなかったとか?


「元々こういうサイズなの」

「嘘だ……」

「ラビィナの家系は胸が大きいの」

「嘘だ……私を騙そうとしている……」

「ちなみに低身長はお父さん似なの」

「嘘だそんなことー!!」


魔族、規格外すぎる。子どもの頃からこのサイズって、絶対肩凝りすぎて辛かったでしょう。


「魔族ってすごいなあ……」

「人間が雑魚すぎるだけなの。劣化がはやいし、ちょっとしたことで死ぬし、魔法も使えないし……」

「それが人間にとっては普通なんだよ」

「人間の普通は魔族にとっては普通じゃないの」

「そう、だね……」


それでも、ラクシニアの人たちはお互いの違いを受け入れて暮らしているんだよね。

すごいなあ。


「何見てるの」

「う、ううん。なんでもない」

「言っておくけど、実年齢は絶対に教えてやらないの」

「聞かないよ?」


そんな話をしているうちに、エレベーターは最上階に着いていた。


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