第59回『エイプリルフールズ』

【作品紹介】


 大ヒットとなったテレビドラマ「リーガルハイ」シリーズの製作陣と豪華キャスト陣が集結した群像コメディー。うそをつくことが冗談で済まされるエイプリルフールを舞台に、人々が軽い気持ちで放った小さなうそが大きな騒動を引き起こしていく。



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 できたら、本当に4月1日に見たかった映画。

 しかしそうもいかず、鑑賞日は一日遅れの4月2日。

「リーガルハイ」が大好きな私としては、そのスタッフと出演陣が結集したこの映画に興味をもった。私が映画館へ足を運ぶ動機としては、これだけではちょっと弱いが、あと「衝動的に映画館へ行きたくなったが、見てしまったものをよけて見てないものから選ぶ際、これしか見たいものがなかった」ということもあった。

 だから、めっちゃ期待して行ったわけではない。



 でも、結果としてそれがよかったんだろうね。

 お昼間、仕事の原稿の見直しに精魂を使い果たし、挙句レイトショーで見るという暴挙に出たのだが、全然眠くなったりはしなかった。

 うん、面白かったと思うよ、この映画。

 最初は、全然つながりのない登場人物たちがブツ切りに登場する。

 前日睡眠をちゃんと取っていないと、整理ができないほどの登場人物たちをケースごとに把握しておく必要に迫られる。5~10分ほどかわりばんこでそれぞれのエピソードが描かれていく。

 いつかどの物語も交差するんだろうな、ということは分かっていても、なかなか混じりあわないじれったさ。でも、その待たせ加減がうまい。一気にすべての事件と人間関係が結びついていくタイミングが、早すぎず遅すぎず。

 過去、伏線が交わるのが遅すぎる! と感じたのがクリント・イーストウッド監督の『ヒア・アフター』。(笑)



 結構な数の人物が登場し、並行して進む物語も2つや3つどころではない。6つほどの、全然違う場所でまったく関係のない人物たちのドラマが、最期には見事に絡み合う。まるで、ものすごく美味しいラーメン屋で、麺をすすってるみたい。まぁ、スープが麺にからむわからむわ!

 これだけ風呂敷を広げて、これ全部伏線回収できるのか……? と心配したが、実に見事にすべてにオチをつけた。まぁ、やっぱり人はそれぞれ感じ方が違うので、この作品を「ゼンゼンダメ」として評価しない人もいる。

 もちろん、そういう意見もあっていい。ただ、私に関しては「見事」だと思った。

 邦画がそれほど嫌じゃなくて、TVドラマ的なノリを映画館で見てもさほど抵抗はないという方には、おすすめできる映画ではある。



 私は、かつて自費出版で小説を書いている。

 内容は、あるひとつの事件を、複数の登場人物からの視点で色んな角度で見ることで浮き彫りにしていく、という手法の作品だった。

 そういう、人物が複雑に絡み合い、その伏線の回収で読者をうならせる、というタイプの作品は、実に緻密で繊細な内容が要求される。ひとつでも読者に「ここの前後関係や展開はおかしい」と思わせてしまっては負けである。だから、お話の面白さだけではなく、緻密な計算もそこには求められる。



 皆さんは、こういう「複雑さとそのパズルを最後に見事に解いて感心させる」タイプの物語が生まれる時って、作者はどうしてると思いますか?

 物書きの人にインタビューして回ったわけではないので、他の人のことは分からない。だから、これは私だけの話ではあるのだが——



●インスピレーション(内的気付きのようなもの。霊的な受信)が9割。

 残りの1割は、思考を用いて全体の整合性の検証。



 たとえて言うと、彫刻であらかた形をざっと掘り、残りの細かい仕上げを小さいノミできれいに仕上げる、っていうイメージかな。

 皆さんは多分、推理小説とかどんでん返しなどの意外性のあるドラマとか、散りばめられた伏線がきれいに回収されていくタイプのお話って、作者が「一生懸命頭で考えて組み立てている」って思ってませんか?

 私のことだけいうと、そんなことしない。

 どんなに複雑なお話でも、ただただインスピレーション。

 逆に、私は頭で考えて話を作れ、と言われても無理。

 水谷豊が「小説の神様が降りてくる小説家」の役を演じた映画があるが、まさにそれ。「お話の神様が降りてくる」感じ。それさえ来れば、複雑な話も分かりやすい話も、皆同じこと。

 ただ、純粋に神がかって降ろしたお話は、今の時代の法律や制度・常識に合致しない部分があったり、話の整合性に不備があったりするので、そこに手を加える。



 私は、映画の脚本家さんと話したことはない。

 でも、素敵な映画の脚本(原作も)って、「神様が降りてくる」感覚に近いものをお持ちじゃないのかなぁ、って思ってる。

 チャネリング、っていう言葉がスピリチュアル界にある。そんな言葉を知らない人たちに、こちらの流儀の言葉を当てはめるのは失礼だが、読者に説明するのには「チャネリング」というのが分かりやすかろうと思うので、確信犯でそう表現した。

 優れた芸術は、高次元へのアクセスに大なり小なり関係しているのだろうな。



 それにしても、戸田恵梨香の演技力には脱帽する。

 彼女はそもそもの「きれいどころ路線」よりも、奇人やクセのある役路線にハマってきている気がする。こうなったら、日本版ジョニデを目指して、これからも変わり者の役路線を突っ走ってほしい。

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