第58回『風に立つライオン』
【ストーリー】
ケニアで医療ボランティアに従事した実在の医師・柴田紘一郎氏の話に、さだまさしが着想を得て作った楽曲から生まれたヒューマンドラマ。ケニアの病院で働くことになった日本人医師が、心と体に深い傷を負った患者たちと向き合っていく。
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実はこれ、試写会が当たって、本来ならタダで行けた映画だった。
見に行こうとしていたのだが、その時になってたまたま出版する本の再校が!
急いだ方がいいようだったので、泣く泣く試写会をブッチした。
何となく凧の糸が切れたみたいになって、「もうこの映画はいいや」みたいな思いになっていたのに、数日たってからなぜかフラフラッと体が動き、この映画を見に行っていた!(笑)
やっぱり、試写会を逃しても、自腹切ってでも見る運命だったのね……
不思議な縁を感じる作品である。
上映時間は139分と長い。
評価は、結構バラつきのある映画だろう。
私は昼寝をしてからレイトショーに臨んだのだが、おかげで寝ずに集中しきれた。思わず勢いで 『139分があっという間で、引き込まれる映画です!』と言ってしまいそうになるが、そこは自分にブレーキをかける。
私のコンディションが良かったから、寛大に前向きに見れた部分もあろうと思うので、人によってはウトウトしたり、あるいは「こういう感動させよう系の見せ方をされると冷める」かもしれない。まぁ、そういう人は最初から見なければいいのだが。
でも、個人的には得るところがあった。
この映画に関しては、言葉数を沢山並べるほど本来の思いからは遠ざかっていくように思うので、(私の文章としては)簡潔に述べたいと思う。感想は色々あるが、あるひとつのシーンに関してだけ。
主人公の医師、島田(大沢たかお)は、腹部の痛みを訴える主婦を診察した。
検査の結果、がんであることが分かる。島田は大学病院にベッドの空きを探したがなく、その上手術の予定も半年先まで埋まっているという。
今すぐ手術すれば助かる見込みだったため、大学病院をあきらめ腕の良い専門医を紹介するが、その主婦は夫と一緒になって『大学病院以外では手術は受けない』の一点張り。
島田はヒマを見つけてはその主婦の家に通い、説得を続けた。
しかし、夫婦は頑として受け付けなかった。
半年後、やっと大学病院に空きが出来た時には、もうすでに手遅れになっていた。
その主婦のお通夜にやって来た島田に、夫は怒鳴る。
お前が妻を殺したんだ!
けんもほろろの対応をされ、お通夜会場をあとにする島田。
心配で彼についてきた同僚 (真木よう子) に「大丈夫ですか」と聞かれー
「ご主人も、本当は分かってらっしゃるんですよ。私が奥さんを殺したんじゃないって。でもね……人間、何かのせいにでもしないと、辛すぎることってあるんですよ」
私は、この映画の主人公の持ち前の明るさとやさしさの秘密を、ここに見出したような気がする。この発想ができる人間は、強さと優しさを兼ね備えることができる。
一般的なスピリチュアルや自己啓発などは、まずこう言う。
現実は、すべてあなたが生み出している。
すべての責任は、自分にある。
他人や何かのせいにしないで生きよう。
人のせいにしない生き方、というのがよく奨励されている。
しかし、それもケースバイケースという柔軟性が指導者にないと、どんな時でも「真理や法則のゴリ押し」となり、相手の気持ちに沿った指導ができなくなる。
本当につらい人に、そしてその人が「何かのせいにする」時、いきなり相手の間違いを指摘するのはオススメできない。まずは、「何かのせいにさせてあげること」。
落ち着けば、自ら考えを正すだろう。それを待ってあげずに、早い段階で相手を否定し正解(正論)を説いてしまうので、プライドを傷付けられた相手は素直にアドバイスを聞き入れない。
その状態になったら、カウンセラー(スピリチュアル指導者 )の負け。
この映画の一連のお話は、実在の人物をモデルにしている。
私は、この医者のもつ優しさこそ、スピリチュアル指導者や宗教家・覚者などと言われる人に見習ってほしい。
(ちなみに覚者は人間の理想モデルではない。覚者=優しい・思いやりが深い、は成り立たない)
確かに、スピリチュアル的な一般論としては、どんな時も 「人のせいにしちゃいけない」。でも、そこを「何かのせいにすることを、一時的にはゆるす」という度量を持てるなら、素晴しい。しかも、自分に向けられたものをゆるすのは難しいが、この医者は相手の持って行き場のない怒りを、自ら引き受けた。
これが、人としての器の大きさであって、決して覚醒したかどうかになんか関係ないのだ。
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