第25回『ゼロ・グラビティ』
【ストーリー】
医療技師を務めるライアン・ストーン博士は、スペースミッションに初めて参加した。ライアンは船長を務めるマット・コワルスキーに連れられ、宇宙遊泳をするが、その最中に、宇宙ゴミがシャトルに衝突し、シャトルは壊される。
そのため、2人は宇宙に取り残されてしまうのだった。
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こりゃ、すごい。
91分と、近頃の映画にしては長い上映時間ではないが——
最初から最後まで、声の出演を除いて役者は二人だけ。
サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーの演技は、賞賛に値する。私がこの映画を見たのは映画館だったが、何だか美術館で一流の絵を見て帰ってきたような感覚だった。
宇宙を、空(くう。神。一元性)だと思ってもらったらいい。
無。
重力なし。
酸素なし。
水なし。
生命は、独力では生きられない。
無慈悲。(あくまでも人間エゴから見た観点で)
もちろん、主人公たちが事故により宇宙に放り出されても、神様が助けになんて現れない。ただただ、起こることが粛々と展開していくだけ。
それが、空であり一元性。
それが、神の仕掛けた、大がかりなゲーム舞台。
善も悪もない、徹底した「無」を根源とするエネルギーで、すべての可能性をコレクションしている。
空は、この宇宙が平和になればいい、なんて考えていない。
逆に、悪くなれとも思っていない。
何も、考えていない。
要は、どうでもいいのだ。
●起こることだったら、何でもいいのだ。
人間が選択して、その結果起こることなら、何でも。
今回の事件も、そんな人間の営みの中でのハプニング。
宇宙は何とも思っちゃいない。
ただじっと、完全中立なエネルギーで二人が死ぬか生きるかを見つめているだけ。
(見つめているというより、二人を含め世のすべてが宇宙だから)
最初、「宇宙はキレイ」と思っていた主人公たち。
これは、我々で言うと人生がうまくいっており、大きな問題がない状態。
途中、事故により絶体絶命の環境に置かれてから、こう言う。
「宇宙なんかキライ」
対岸の火事だと思っていた、ニュースで聞くだけと思っていた他人事の『不幸』が、自分や自分の家族の身に降りかかった時のようなものだ。
今まで、それなりに好きだったこの世界が、急に意地悪なものに見え出す。
宇宙は、私の事なんかどうでもいい、愛してない。
そんな、寂しくやるせない気持ちになる。
●当たり前だ。
宇宙はあなたなんか、愛してない。
気にも懸けてない。
だって、あなたが宇宙自身だから。
あなたが神だから。
物語後半。
死ぬか生きるかの壮絶な体験を山ほどした主人公は——
最後、ある境地に至る。
●誰も、悪くない。
私たちはこの世界で、自分の不幸を何かのせいにすることがよくある。
親のせい。友人のせい。社会のせい。
今回の場合だと、宇宙船が壊れるような事態に至った他人の様々な人為的ミス。
もっと言うと、無重力の宇宙のせい。
最初、主人公は様々なものを呪う。でも、何かのせいにして絶望している間に、あることを思い出す。
サンドラ・ブロック演じるライアン博士は、自分の意識の奥底に巣食っている、ある記憶に気付く。それは、亡くなった自分の娘のことである。
幼稚園の休み時間、遊んでいて転び、首の骨を折って死んだ。
母親としての彼女の胸を占領した思いは、なぜ? だった。
なぜうちの娘が死ななきゃいけない? 娘が一体何をした?
そういう、感情である。
死と生の境をさまよいながらも、どこか冷静になった主人公の魂のある部分が、そこに気付く。
宇宙は、何もしない。
ただ、あるだけ。
何があっても、見ているだけ。
冷たいほどに、ハッキリしている。
散々宇宙空間の恐怖に翻弄されて、ライアン博士は気付く。
世を恨むことのバカバカしさに。
宇宙を責めることの意味のなさに。
だって、相手には何の意図もないのだから。
何も考えていない者を責めても、仕方がない。
世界は、ただそうであるだけ。
今起こっていることを受け入れること以外、することがない。
娘が事故で死んだのも、誰も悪くない。
今の状況だって、そう。
理由なんか分からない。恐らく、そんなものはないだろう。
ただ、今そうであるというだけ。
だから、何かを責め、何かのせいにして苦しむヒマがあったら——
今、どうするのか。
それをこそ、考えないと。
自我も一切の感情すらない「空」の絶対的存在性の中で、人間とはいかに小さいか、思い知らせる映画だ。しかし、私は思う。あの無慈悲で容赦のない宇宙空間で、主人公が「生き延びた」というドラマが生み出されたことは——
●見た目には、宇宙は絶対的で恐ろしく、人間はか弱いように描かれているが、実は「宇宙より、人間の意識の力(思いの力)のほうが強い」ということを教えてくれる映画。
そうだ。
本来「無」だった世界に、変化の世界が生まれ、「有」は形あるがゆえに弱さという宿命を負った。
しかし、その弱さはやがて「強さ」となった。
それは、何の意味もないこの宇宙を、あえて絵の具で色付けするように宇宙に「意味づけ」をすることのできる力……を備える『空とはまた違うタイプの神』である人間が、世界を華やかにしたのだ。
生き延びたライアン博士は、弱い自分の中に強さを見た。
それは、絶対である宇宙が持ち得ない力。
情熱という力。生きたい、という力。
これからの彼女は、外のものに翻弄されることなく、目に見える現実の中に、その力を開放させていくことだろう。
今の時代において、魂の気付きを得た多くの方もまた、自分が宇宙で一見小さな存在でありながら実は神であり、大いなる力を持っていることを思い出していくことだろう。
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