フォロワーを半分にしなきゃ爆破される話
伊藤テル
恐怖はSNSから始まった
恐怖はSNSから始まった。
『一ヶ月以内にフォロワーを半分にしろ。しなければ家を爆破する』
最初は馬鹿みたいなイタズラのDMだと思っていた。
しかしその発信主が俺の住んでいる家の写真をアップロードした時、寒気が走った。
家まで調べ上げるヤツは頭のおかしいヤツだ。
俺はすぐさまそのDMに、
「このツブヤイターを辞めたらいいのか? 辞めればフォロワー半分よりも良くないか?」
と返信したが、この文章への返答で完全に狂った相手だということを知ることになった。
『オマエがツブヤイターを辞めたら後味が悪いだろ、フォロワーを半分にするだけでいい』
いやどう考えても家を爆発させるほうが後味悪いだろ、と思うのだが、こういう輩に正論は利かない。
下手に刺激をすると、すぐさま行動に移してくると思った。
現にもう家を特定するという行動を移しているわけだから。
俺はツブヤイターという文字を呟くSNSで、インフルエンサーをしている。
趣味だが仕事。
商品の宣伝の依頼が舞い込み、ツブヤイターで宣伝するとお金がもらえるので、仕事の意味合いのほうが最近は強くなっている。
きっと宣伝してお金がもらえるという循環への妬みが理由だろうけども、正直理由だってあって無いようなものだろう。
こういう輩はたいした理由無く人を攻撃してくる。
勝手に被害妄想に陥って、攻撃してくるヤツもいる。
でも大体は言葉だけだ。
言葉だけなら所詮文字なので耐えられる。
文字を発表することは指で簡単にできるから。
でもコイツは足と時間まで使ってきている。
ここはもう素直に従うしかない。
警察に相談しようとも思ったが、コイツが俺をどう監視しているかどうか分からないし、そもそも警察への相談は無意味であることを俺は知っている。
親戚に警察官がいるので、知っていることなんだが、警察は”何か”が起きなければ基本的には動かない。
何なら『インフルエンサーをやっているなんて危ないですからねぇ』とこっちに非があるように喋ってくるものだ。
大きな影響力がある人に対しては、注意喚起も含めて、早めに動くこともあるが、たかだかフォロワー5万人のインフルエンサーには動かない。
というわけで俺は正攻法で、言われた通り半分にすることにした。
が、まずはルールを知りたい。
急に逆鱗に触れてダメでした、爆破されました、じゃ笑えない。
とはいえ、いつ逆鱗に触れてしまうか分からない相手。
慎重にルールを聞き出すことにした。
「分かった。フォロワーを半分にする。半分にしたら爆破されなくて済むんだよな。あとは細かいルールを教えてほしい。これをしたらダメだ、とかを、できるだけ細かく教えてほしい。そのルール通りにやるから」
まずは理解したという言葉を入れる。
次は爆破の反芻、改めて確認。
そして本命のルールのところ。分かりやすく”したらダメ”なことだけ聞く。
”してもいいこと”も聞こうと思ったが、あまり聞きすぎると文章が分かりづらくなる上に、いいことはある種無限に出てくるモノだから禁止だけを聞く。
最後は貴方に対して従順ですよ、反発心は無いですよ、の、念を押しておく。
さて、どう返ってくるか。
『好きにしろ』
……出た出た、一番困るヤツ。
オマエは好きにしろ、俺も好きにするから、の意味だ。
急に逆鱗に触れる可能性が最も高い。
でももうそこは信じてやるしかない。
いやまあこんなヤツ、絶対信じられないんだけども。
でも、きちんとやらないと爆破してきそうということだけは信じられる。
というわけで俺は早速行動に移した。
【フォロワーを半分にしないと家が爆破されます。フォローを外して下さい】
反則のような呟きだが、好きにしろと言われたので好きにした。
これで良心のある人たちはフォローを外してくれるだろう。
……と思ったことが俺の最初の間違いだった。
SNSをやっている人たちには良心よりも強いモノがあったんだ。
それは好奇心。
そりゃそうだと事が起きたあとに思った。
フォローバックしない相手をフォローするということは、そのフォローした相手を好奇の目で見ているということだ。
結果を言うと、フォロワーはむしろ増えた。
急に変なことを言い出した人間として、好奇の目が増えてしまったのだ。
一体どうすればいいのか、やっぱり人の興味を引いてはいけないということだ。
一ヶ月で間に合うかどうか分からないが、一つ案が浮かんだのでやってみよう。
それは今まで依頼を受けた宣伝の、過度な宣伝と、馬鹿が書いたようなキモいポエムだ。
宣伝という行動は決して好かれる行動ではない。
それが自分の創作物ならまだしも、金をもらうためだけの宣伝。
もう既に報酬をもらい終えたものでも、構わず宣伝することにした。
まるで依頼を受けているかのように、たくさん宣伝して、嫌な気持ちにさせよう。
あとは馬鹿が書いたようなキモいポエムを大量にタイムラインに流す。
愛だの平和だの、何かあれば空を見上げ、海に感謝するような安易でキモいポエムだ。
すぐに両親を想い、親友と歩みだし、恋人と寄り添うような安易でキモいポエムだ。
ただし変な宗教に入ったように思われてしまうと、逆に好奇の目が増えてしまうので、そこは慎重にしなければ。
宣伝とキモいポエムの二枚看板。
あとはそうだな、ウザいほどのリア充アピールもいいかもしれない。
リア充のキモいポエムは、かなりキモいので、フォロワーが減るだろう。
さらに宣伝で得た金で遊んでいる感も出したい。
フォロワーを稼ぐ道具として扱えば、嫌な気持ちになってフォローが外れるかもしれない。
こうやって俺は地道に頑張り、5万いたフォロワーは3万まで減ったが、あと5千人がなかなか減らない。
あと一週間で5千人。
一体どうやったらいいんだ。
フォロワーを稼ぎ道具扱いするなんて、かなり酷いことしているのに。
もしかしたらここまでやってもフォローしているヤツなんて、爆破してやると言ったヤツと一緒なのかもしれない。
行動に移すか移さないかの違いだけで。
いやそんなこと考えていても仕方ない。
どうすればいいのか。
とはいえ稼ぎ道具扱いしてから、一気に減ったことも事実だ。
やっぱりフォロワーを減らすには、金関係が一番いいのかもしれない。
でもどうやって。
金でフォロワーを増やすことはできても、減らすことなんてできるか?
アカウントを買ったり、最近は100万円プレゼントみたいな手法もある。
……そうだ! 100万円プレゼントだ! この方法があった!
・
・
・
『よくフォロワーを半分にした。オマエを認める。もう爆破するなんて言わないし、またフォロワーを増やしたっていい。僕はまた別のヤツへ行く』
最後の別のヤツへ行く、が、怖すぎるが、でもまあなんとか達成し、危機的状況は去った。
フォロワーを全盛期の半分になったからって2万5千人いるし……いやまあ実際は200人しかいないけども。
そう、200人。
俺は一気に200人に減らしたのだ。
さて、また200人から自分らしく楽しくツブヤイターをやっていこうかな。
ちなみに、俺がやった方法は裏アカの鍵アカに呟いておこうかな。
まあこっちのアカウント知っている人たちも、みんな知っていると思うけども。
何なら俺のことを全く知らない人も知っているくらいだ。
それくらいバズった。
バズったけども、フォロワーは減った。
その方法は、10万円プレゼントだ。
有名な人たちに比べて少ないのはご愛敬。
俺はリツイートして”フォローを外した人”に10万円プレゼントすると呟いた。
結果、フォローが面白いように外れていったのであった。
……多分、俺のことが昔から本気で好きだった人は、こんなものに参加しなかっただろう。
きっと最初の”フォロワーを半分にしないと家が爆破されます。フォローを外して下さい”の時に外してくれていただろう。
あの時は結果的に増えたが、あの時に減った古参のフォロワーが確かにいた。
だから俺は、あの時に減った古参のフォロワーをフォローした。
貴方たちのような良心のある人たちと一緒にSNSを楽しみたいから。
そしてこのリツイート企画に参加した人たちとは一緒にSNSはしたくない。
だからこの10万円と10万円当たるかもというワクワクは、こっちからの手切れ金だ。
爆破すると言ったヤツ共々、俺の目の前から去ってほしい。
(了)
フォロワーを半分にしなきゃ爆破される話 伊藤テル @akiuri_ugo5
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます