第6話 おっぱい星人_1

赤ちゃんはママのおっぱいが大好きだ。


授乳はお腹を満たすだけではなく、赤ちゃんの免疫を高め母子との信頼関係を築く。


要するにママの胸の中は赤ちゃんにとって安心基地であり、人類皆もともとはおっぱい星人だったと言う事だ。


さて、いしづみの園にも沢山のおっぱい星人がやって来る。中には、取り敢えずそれっぽければ何でもいいと言う強者も居る。


10日前にやって来た2歳の悠人くんは、私がこれまで会ってきたおっぱい星人の中でも別格の超絶おっぱい星人だった。


「おっぱいぱーい、おっぱいぱーい♪おっぱいおっぱいおっぱいぱーい♪」


朝、悠人くんは自作の歌を口ずさみながら両手をパタパタさせ食堂にやって来る。


保育士が子供達にミルクを注ぎにやって来ると、悠人くんは保育士の腕を掴み何時ものおねだりをする。


「ぱいぱーい♪ぱいぱーい♪ぱいぱい無いの?」


保育士はにこやかに応える。


「ごめんねぇ。先生、おっぱい出ないんだよ」


すかさず悠人くんは保育士の胸を目掛け手を伸ばし確認しようとする。


「ぱいぱいある。ぱいぱいある。」


「先生のお胸は固いよ。おっぱいじゃないんだよ」


「ぱいぱいある!ぱいぱいでる!!うおおぉおおん」


この10日間、毎朝この光景が続いている。


これは後から聞いた話だが、この子が初めて来た日の入浴の時間、保育士が少し目を離した隙にある騒動が起きたらしい。


「おい!乳汁呑爺て知ってるか?」


風呂に浸かりながら博が唐突に話し出す。


隣に居るのは小太りの文彦くん。大人しくて、いつもオドオドしている彼は悪餓鬼共の格好の餌食だ。


「乳汁呑爺ていうのはな、越後の妖怪でな。大晦日の雪の降る晩に外に出ると小汚ない大きな唇の爺が話しかけて来るのよ。乳汁くれや...乳汁くれや...とな」


博はニヤニヤして文彦くんの乳を掴む。


「乳汁呑爺は、こんな白くて大きなおっぱいが大好きなんだよ。おっぱいくれ、おっぱいくれ、おっぱい、おっぱいって追いかけてくるんだ」


周りに居る子供達は、また始まったと呆れ顔で見ている。


「やめてよ、博くん」


文彦くんは博の手から遠ざかり力無く言う。


「ほーら、聞こえるぞ。おっぱい、おっぱい、おっぱいぱい...」


博は調子に乗ってまだ続ける。


すると、脱衣場から微かに歌が聴こえて来た。


「おっぱいぱーい、おっぱいぱーい♪おっぱいおっぱいおっぱいぱーい♪」


ガラッ!!


浴室の扉が開かれると、そこには刈り上げマッシュの可愛い乳汁呑爺がオムツ一丁で立っていた。悠人くんだ。


「わぁ!ぱいぱい♪ぱいぱいあるぅ、いっぱいあるぅ♪いっぱいぱ~い♪いっぱいぱ~い♪」


悠人くんは両手をパタパタさせて浴室に入ってくると、さっそく自分好みのそれを探しながら浴室を闊歩し始めた。


「おいおい。保育士の奴、何やってるんだよ」


博は浴槽から上がると悠人くんの元へ駆け寄る。小さな子供達は保育士と共に別の浴室を使っているはずだ。


「わぁあああ!!」


悠人くんは両手を前に突き出しキラキラした目でこちらへ突進してくる。


「ぱい、ぱぱいぱ~い♪」


悠人くんが飛び込んで行った先は博の胸の中では無い。文彦くんの豊満で柔らかいおっぱいだ。


「えぇぇええ!?ちょっ、ちょっとぉ」


文彦くんが勢いに圧されてのけ反ると、間髪入れずに悠人くんが乳首に吸い付く。


ギャハハハハハ


一同の心無い笑い声が浴室にこだまする。


「やめて、やめてよぅ」


文彦くんは顔を真っ赤にして悠人くんを引き剥がそうとする。しかし、どんなに力を入れて引っ張っても悠人くんは離れない。


「しょうがねぇなぁ。ほらクソガキ、まんまの時間は終わりだ」


流石に見ていられなくなった博が加勢する。指で悠人くんの口とおっぱいの間に隙間を作り圧を抜こうと試みる。


「んっ!?」


博が眉間にシワを寄せる。まったく指が入らない。


一同も尋常ではない雰囲気に気付く。


「痛いよー、痛いよー」


誰かがタライで水をかける。数人が加勢して悠人くんの体を引っ張り出すと、脱衣場に居た子達も駆け付け文彦くんの体を引っ張る。


「せ~のー!!」


誰かが掛け声をかけると、一同は一斉に力いっぱい引っ張る。


「ぎゃぃやあああァあああああ――――!!」


文彦くんの悲鳴が耳を劈く。


「お前ら、やめろ!引っ張るなってば!圧を抜けって!!乳もげるって!!」


博が再度、悠人くんとおっぱいの隙間に指を入れ圧を抜こうとする。すると少し空いた隙間から血が水鉄砲のように吹き出した。


「こいつ...思いっきり噛み付いてやがる......」


血が吹き出したのを見て、びっくりした皆は一斉に二人から手を離す。


「いやああああああっ――――!」


解放された文彦くんは悠人くんをぶら下げたまま走り出し、湯船にダイブした。大きな水しぶきが上がる。


「おい!生きてるのか?」


誰かが窓を開けて湯気を逃がすと、湯船には文彦くんと悠人くんがうつ伏せで浮かんでいた。


「やばい...死んでるのに、死んでる....」


私が聞いた騒動の内容はここまでだ。分かったのは悠人くんがおっぱいに命をかけていると言う事だ。

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