第82話 僕も……
「デーッデンッ。第一問っ! 前に拓実君がわたしのイヤホン拾って帰り道に届けてくれたことあったでしょ?」
「あぁ、あった……ね……?」
それが?
「あの時、拓実君はずっと隣の車両でイヤホンいつ渡そうかと窺っていたけど、わたしは全部お見通しでした。何で分かったでしょうか」
あーぁ、そう言えばそうだったなぁ。何で分かったんだか不思議だった。何で分かったんだ? こっちが聞きたいんだけど?
「チッチッチッチッチッ……」
うわ。答えに窮している内にタイマーカウント始まった!?
「ブブーッ。残念、タイムアーップ。正解は、わざとイヤホンを落として拓実君に拾ってもらって追わせていたからでしたぁー」
「はぁっ? わざとぉ?」
「そ。デーッデンッ。じゃあ第二もーん!」
「第二問早っ」
「はい、ちゃっちゃと行きますっ。第二問っ。わたしは朝早く学校に来ていました。なぜ? チッチッチッチッチッ」
「あ、あーっ。え、えーっとっ、それは……取り巻きから離れて一人になる時間が欲しかったからっ! これは正解でしょ」
「うーん……ブブーッ。半分不正解っ!」
「半分不正解? じゃぁ、半分は正解ってことでは?」
「いや、半分不正解ですっ! ざんねーん。デーッデンッ。第三問っ!」
「だから早っ」
「ちゃっちゃと行きます。わたしは朝、拓実くんと音楽を聴いてる時間が幸せでした。なぜ? チッチッチッチッチッ」
「あ、それは音楽が好きだからっ!」
「ブッブーーッ! 半分不以下略ぅ」
「えぇっ〜」
「デーッデンッ。次、第四問はラスト問題ですっ!」
「ちょっ。答え合わせはっ!?」
「答え合わせは後ほどまとめて。はい、第四問っ! わたしは常々ジンピカちゃんだけには絶対負けたくないと思ってますっ! なぜ?」
「それは……多分だけど、美女同士の対抗心って言うか、確執みたいな?」
「ぬっ!? ちょっとよく聞こえなかったからもう1回っ」
「え? こんなに近いのに聞こえなかった? 対抗心とか、確執?」
「そこは聞こえてた。その前のところっ! はい、もう一回」
「美女同士の対抗心?」
「ムホッ。前半の頭のところ、もう1回ください」
「美女同士の?」
「チッ。そうじゃなくて、今の頭のところだけっ!」
「美女?」
「んふぅ〜」
腰砕けみたいになる羽深さん。相変わらず変。美女ってしょっちゅうみんなから言われていそうだけどなぁ。
「凄く良かったけど、不正解っ!」
そこまで引っ張っておいて結局不正解かよっ! 何じゃそりゃっ?
「さぁ〜、それでは全問不正解の拓実君には罰ゲームを受けてもらいますっ!」
罰ゲームだってぇ? 何をさせられるんだよぉ。怖いなぁ。
羽深さんは顔を真赤にして両手を広げて真正面に向き合って立っている。
「罰ゲームは、わたしがギュッとしてもらう刑ですっ」
「!?」
何てっ? ギュッとするって言った、今?! マジで言った? いや、聞き違いか?
つーか、それ罰ゲームじゃなくてご褒美だからっ!
あっけに取られて羽深さんを眺めていると、流石に照れくさいのか耳まで真っ赤になってプルプル震えている。
「ギュッとしてもらう刑でっす! ワタシがっ!」
「してもらう? ワタシが?」
罰なのに?
「は・や・くっ」
真っ赤な顔して両手を振りながら抗議してくる羽深さん。かわい過ぎる。
あり得ない展開にドッキリとか仕掛けられてないか疑心暗鬼で周囲の様子を見つつ、何もなさ気なので恐る恐る羽深さんに両腕を回す。
すると羽深さんの腕も僕の背中に回ってきて、僕の心臓は急加速で早鐘を打ち始める。
羽深さんの肩が震えているのがダイレクトに伝わってくる。
やっぱ嫌なんじゃないのかなぁ。これってむしろ羽深さんにとって罰ゲームになっているのでは……?
「あの……これ、大丈夫かな……羽深さんは……」
「むぅ……名前!」
「あ、ごめん……ららちゃん?」
「だって拓実君1問も正解しないんだもん。だから仕方ないでしょ」
仕方ないの? 僕にとってはご褒美なんだけどなぁ……。
「じゃぁ……取り敢えず罰ゲームは終わりにして、答え合わせとか……」
「しょうがないなぁ……そんなに正解を知りたいんだぁ……拓実君がそこまで知りたいって言うんなら教えてあげなくちゃかなぁ」
もったいぶってるけど、まぁ、これはあれだ。確実に羽深さんの方が一方的に言いたい時の奴だ。
僕は羽深さんから離れようとするが、僕の肩口に顔を埋めたままの羽深さんからの締め付けが強くて離れられない。
「ぐへぇっ」
肋骨折ってるかもしれない僕は、思わず変な声が出てしまう。あ、もしかしてこの締め付けが罰ゲーム?
「それじゃぁ、このままで答え合わせ……」
答え合わせっていうか、すでに全問不正解って言われたんだけどな。
「んじゃぁ、答え合わせお願いします……」
また締め付けられないようになるべく殊勝な感じでお願いしてみる。
「答えは簡単なのに……どうして分かんないかなぁ拓実君は……。正解は……拓実君のことが好きだからに決まってるでしょ」
そう言って羽深さんはまた顔をギューッと僕の肩口に埋めてしまうのだが……。
ちょっと待て。今何と? 好きって言いませんでした、今?! えぇっ!?
記憶を巻き戻して羽深さんの言葉を反芻して一言一言確認してみる。
あれ……久しぶりに夢見てるのかな、これ。臨死体験中か? ICUで意識不明中に見ている夢なのか?
「時々目が合うのも、一緒にバンドやりたかったのも、夏祭りに一緒に行ったのも、足が痛くなったのも、デートに誘ってもらったのも、何もかもっ! ぜーんぶ拓実君が好きだからじゃないっ! もうホンっと嫌になるくらい
「はふ……いや、ららちゃん……悪いけど、僕のほっぺつねってもらえないかな」
信じられん。夢のまた夢でしかありえない。
ほっぺたつねってもらって確認したいと思ったら、脇腹を思いっきりつねられた。
「イテッ!」
それはもう思いっきり。
「しょうがないからボーナスクイズ。ここで見事正解できたら何と500ポイント!」
いや、すでに罰ゲーム中では? て言うか、むしろ今ボーナスステージなんですが。
「そのポイントって、意味が……イテッ」
言いかけたところでまたつねられて最後までは言わせてもらえなかった。
「問題! 拓実君はわたしのこと、好き? 嫌い? どっち?」
ぬほぉっ!?
更なる驚きのあまり固まっていると、相変わらず真っ赤っかな顔を上げて瞳を潤ませた羽深さんが僕を見つめてくる。
心臓がヤバい。このまま昇天しそう……ていうか今もう既に天国か。
「どっち?」
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