とあるツンデレについてのお話

@rairahura

第1話

「それで こっちがエリーちゃん!」

最初に会ったのはらてとネルに連れられてレグルスの面々を紹介されてる時

意志の強そうな翠の目が綺麗で印象的だったのをよく覚えてる 火に銅の粉を入れると似たような色になるけど この目の方が綺麗な色だと思った 印象良かったのは目だけだったけどな!

「ふーん あなたが」

「そう あたしがライラ」

なんとなく歓迎されてない感じだった まあこれだけ人がいればみんながみんな大歓迎ってわけでもないだろう 仕方ない

「ネルたちが言うから加入に反対はしなかったけど 見てわかるでしょう?歓迎はしていないの あまり関わらないで頂戴」

「そうみたいだな」

これでエリーとの初対面は終了 今思い出してもお互いだいぶ印象が悪かったと思う

あんまりにも空気が悪いもんだかららてネルは居心地が悪そうにしてた


で 今はお仕事仲間を探してる最中

盗賊が森の中に拠点を作ってしょっちゅう村を襲うから行って壊滅させる 参加者は剣術士と呪術士がもう決まっててあと2人

あたしは回復役とかできないし弓でも持って行くとして回復役を待つのもなんだからレグルスの誰かに頼もうと思った

ただ場所が森の結構奥だから行き帰りに時間がかかるらしい ネルに聞いたら数日後に別のお仕事があるから無理 他のみんなもだいたいそうだった

あと声をかけてないのは会ったことないやつ それかそこに座ってるエリー

まあ間違いなく実力は申し分ないだろう 回復系の魔法も大丈夫そう いや でもエリーかあ 断られそうだな そもそも会話が成立するか

でも回復役は貴重らしいから知らないやつが参加するのを待つとなると出発がどんどん遅くなるし


思い切って話しかける

「コンニチハ エリーサン ホンジツハオヒガラモヨク」

「なによ 不自然だし気持ち悪いわ」

「お仕事一緒に行ってくれるやつを探してるんだけど」

「なんで私が」

「みんな声をかけたんだけど他はもう手が空いてねーんだ エリーなら実力は間違いないだろうし もし空いてたら頼むよ」

「・・・依頼書を見せなさい」

そーっと依頼書を渡す いつもはピンと立ってるあたしの耳はもうヘニョヘニョになってる

エリーは依頼書に軽く目を通して

「ふーん 大して難しそうな依頼でもないと・・・意外と身の程を弁えているのね」

「どう思われてるかなんとなくわかったけどそこまで無謀なタイプじゃねーよ」

「まあなんでもいいわ 仕方ないわね」

「お 行ってくれんのか?」

「あなたが無様な姿を晒したらレグルスの名に傷がつくもの それは困るのよ」

「そこまでひでーかな まあいいや ありがとう」

なんとまあ意外なことに エリーは引き受けてくれた 回復役を頼むとエリーが準備したのはでかい本 あ これは見たことある 学者ってやつだ キラキラした羽虫を出すんだっけ


そういうことで面子が揃って当日 目的地に一番近い村で剣術士と呪術士と落ち合って出発する 全員チョコボに乗って走る

剣術士が先導してるし着くまで暇だからちょっと前を行く呪術士と喋ってたけどなかなかいいやつだった エリーは一言も話さなかったけど

途中で休みつつ2日間走って行くと道がだいぶ細くなってきた ここからはチョコボは入れないから歩いて行く チョコボたちは放っておいたら厩舎に戻るらしい

この曲がりくねった道も剣術士が先導するらしくて「大変だな」って言ったら「自分が見つけた場所ですから誇らしいです」って笑った


丸一日と少し歩いたら着くかなってくらいらしい 遠いなあ

進みんで行く途中ふと違和感を覚える なんだ なにかが変だ

盗賊とやらは馬に乗って村にきてるって話だったはず どうしてチョコボが入れない?途中までだったとしても丸一日はおかしい 遠すぎる どうやって奪った荷物を運ぶ?せいぜい自分の荷物くらいしか持てない道をどうやって?無理だ

そもそも依頼は何だった?村を何度も襲う盗賊?聞いた話では今週だけで2回は来てるはず 片道だけで3日かけて?不可能じゃねーか

嫌な予感がして立ち止まる エリーも似たような考えに至ったらしく足を止める

「どうしたんですか?」

振り返って剣術士は笑ってる でもさっきよりも嫌な笑い方だ

尻尾が膨らむのを感じる

こいつあたしたちを嵌めやがった


今回のお仕事は剣術士が見つけた盗賊の拠点を壊滅させること のはずだった

でも今あたしたちの周りにいるのは数を数えるのが馬鹿らしくなるくらいのイクサル族の群れ

この間殺したイクサル共のお礼参りってとこか ふざけた真似しやがる

どうやら呪術士はぐるじゃなかったようだ 驚いた顔をして座り込んでる 役には立たなそうだな エリーは 全然動揺してなくて落ち着いた顔をしてる でも明らかに不機嫌そうだ


もしあたしがネルだったら こいつら全員まとめてぶっ飛ばせたかもしれない でも実際そうじゃないことをいくら考えたって仕方ない こう言う時は逃げるが勝ちだ エリーもじりじり後ずさりしてる

でも呪術士はまだ状況を理解できてないらしい 動こうとしない「なあエリー」

「わかってるわよ」そうは言ってるけどエリーは呪術士から目を話さない 助けたいんだろうか でもあたしの実力からして無理


何が起こったか理解した呪術士が甲高い叫び声をあげた瞬間 走り出す 道は覚えてる エリーも着いてきてる 呪術士は 来ない でも見捨てるしかない 可哀想なやつだ たまたま参加して巻き込まれたんだろうに


イクサル族が追ってくる 足を止めるわけにはいかないから弓を構える暇もない 仕方ないから近づいてくるやつには直接矢を突き刺す 飛んでくる矢は腕で受ける 飛び散った血で服が汚れるけど構ってる余裕はない

エリーも詠唱してる時間がないからでかい魔法を打てないらしい 詠唱がいらない魔法で応戦してる ただ応戦するだけじゃなくて一緒に周りの木も切り倒して奴らの道を塞ぐ 狙ってやってるんだろうか おかげで進むにつれてやつらの勢いは落ちていく でもまだ大量の足音がする 急がないと


どれだけ走っただろうか だいぶ引き離したようだ いったん立ち止まる エリーも止まった 

「近くに川があったはずよ ここからは歩いていくわ」

とエリーは呟く これあたしに言ってんのか

「怪我はそこで治すからついでに血を流しなさい」

確かにこのままじゃ臭いだけでも追われそうだ

「あと 出来る限り殺すのは控えてと言ったでしょう」

この状況で言うことかよ

「まあ努力はしますよ」

「そうして頂戴」

さすがというか あれだけ走って戦ったのにエリーには擦り傷くらいしかついてない あたしなんてもうボロボロのズタズタで体についてんのが自分の血なのかイクサルの血なのかもわからない 傷自体はエリーが出した羽虫が直してくれてだいたい塞がってる でもちょっと血が出すぎたな ちょっとふらつく ただ歩いていくくらいなら問題なさそうだ


エリーはあたしの髪を切り取って血を擦り付けてから近くの崖に放り込んだ

「これである程度は混乱させられるはずよ」

そういうとエリーはさっさと歩きだした あたしもゆっくり着いていく


川にたどり着くとエリーは羽虫が直しきれなかった傷を治していく これどうやって治ってんだろうな?毎回観察してるんだけどいまいち何が起こってるか分かんねーんだよな

それにしてもずっと走りながら戦ってたのにまだあたしを直す力が残ってるなんてすげーな この間一緒にお仕事した幻術士はちょっと戦ったら休憩しないといけなかったからそういうもんだと思ってたのに

ぺらぺら話してたら「余計なことに体力をつかうんじゃないわよ」って怒られた 怒られたけど前みたいなあたしを避ける感じはなかった

確かにまだ追手がいるかもしれないしと黙って治療を受ける


こびりついた血を流してから川を渡って エリーはちょっと休憩したらすぐに「先を見てくるわ 大人しく待つくらいはできるでしょう?」って言って進んでいった 意外 戻ってくるのか じゃあちょっと休憩 しようとしたところで物音がした 向こうから一匹のイクサルがこっちを見てる 見つかったか

イクサルが笛を吹く 仲間を呼ぶ合図だろうか まずいな 後ろのやつらは追い付きそうにないけど返事の笛は前からも鳴っていた 居場所を知られたのはまずいな 数は少ないけどあたしは消耗してるし矢はほとんど残ってないし 次は弾切れが起きない武器を使いたいもんだ


とにかくこいつの笛を止めないと状況は悪くなる一方だ 今ならエリーも見てないし 弓を構える とそいつはニヤッと笑った ように見えた イクサルの表情なんかわかんないけど

突然足元の地面が消えた そりゃこの辺りは奴らの拠点だから罠もあるだろう 油断した とにかくやつだけは殺さないとと矢を放つ 下を見ると穴の底にはあたしの背丈くらいあるとげ?が並べてある うわ見なけりゃよかった

死ぬならもうちょっとうまいもん食って楽しいことしてからが良かったなとか考えながらちょっとでもとげが刺さらないように体を丸める


あたしの体にとげが突き刺さ らなかった


「何やってるのよ!死ぬつもりなの!?」

エリーが戻ってきた さっきの笛で気づいたんだろうけど本当に戻ってくるとは 驚いたことに怒ったような焦ったような顔をしてる 大量の魔力を放出してキラキラ光ってるエリーはすごく綺麗に見えた

穴だらけになるはずだったあたしの体はエリーが出した壁みたいなもので守られて傷一つつかなかった これも魔法なんだろうか

あたしが放った矢は正確にやつの喉元をぶち抜いたようで笛の音はやんでいた

それに気づいたエリーは苦いもんでも食ったような表情をしてた 殺す以外の方法なんて思いつかなかったけど そんな顔させるくらいならもうちょっと考えれば良かったかな


助かったけど行く先にはまだイクサル共が待ち構えてる だからそれの対処を考えないといけない そいつらを避けていくとなると道がそれて人里までの日数が倍以上になる さすがにそこまでの用意はないから正面突破していくしかない 走り抜けるのはちょっと無理 さすがに出血が多すぎた 走り抜けるのは無理?でもエリーだけなら?エリーのほうを見ると同じ考えに至ったのかあたしの方を見てる 目が合ったのは初めてかもしれないな でもその目は今考え付いた選択肢をとることはないと言っていた

「ここから先は私が前を行くわ 着いてくるくらいのことはして頂戴」

エリーは落ち着き払った様子で言う 大丈夫なのか?

「あなたと一緒にしないで さっきまでみたいに詠唱の時間を取れないならともかく時間さえあればこの装備でもなんとでもなるわよ」

まあエリーが言うならそうなんだろう でも

「あたしを置いていったらもっと早く抜けられるけど?」

「馬鹿なことを次々言わないで さっきの呪術士は助けられなかったけど 死ななくて済むものをわざわざ諦めるなんてありえないわ」

さっきよりも明らかに怒った口調だ 翠の目もらんらんと輝いている レグルスってとこには茨の道を好んで歩くやつが多いらしい


「森さえ抜ければ後はチョコボを呼べる そこまで行けばもう追い付かれる心配はないわ だからそれまで足を引っ張らずに着いてきなさい」

そういうとエリーは本を広げる エリーが呪文を呟くと柔らかくて暖かい光が沸き上がってあたしの全身を包む これはさっきの魔法の壁みたいなもんか さっきよりもだいぶ厚い さっきの羽虫ももう一回出てきてあたしの周りを飛ぶ 体が軽い

「これエリーが消耗するんじゃねーのか?」

「ここから森の外くらいまでならそのくらいなんともないわよ むしろ余計に怪我をして遅れられる方が迷惑だわ 遅れたら置いていくからそのつもりでいなさい」

なるほどなるほど じゃあお言葉に甘えて


残りの距離と残ってるイクサルの量からペースを上げても問題ないと判断したらしく そこからのエリーの戦いはすさまじいもんだった

ゆっくり進んでたけどだからこそ詠唱する時間ができるわけで イクサルを見つけると本を開いて魔法を放つ 戦闘職用の本じゃないはずなのにエリーの魔法は威力も精度もとてつもなくてイクサル共は次々と倒れていく でも倒れただけで死んではいない 明らかに殺さないように調節してる これが高度な技術だってことくらい魔法の知識が少ないあたしでもわかる エリーは魔法の放つ光を浴びてきらきら光っていて あたしにはちょっと眩しかった


あたしに張った壁もとてつもなく厚くてイクサル共の爪やら矢は一切届かない あたしはそれに守られながらエリーのあとをゆっくり着いていく

それでもさっき出て行った血はだいぶ多かったようで あたしは少しずつ遅れていく 

ついにエリーが見えなくなった でも先にいるイクサルはエリーが何とかしてくれてるだろうし 行けるところまで行くしかない 木にもたれながらゆっくり進む

エリーとの距離はどんどん離れているようで 

羽虫が消えた 急に体が重くなる 体を支えきれなくてあたしは地面に崩れ落ちる

気力はあるけど体がついてこない このまま森を抜けるまで歩くのは無理だな 体力が戻るまでイクサルがここに気づかないことを祈るしかねーな


座り込むと向こうからパタパタと足音が聞こえる ついに幻聴でも聞こえたか

「遅れないでって言ったじゃないの!」

本物のエリーだ 怒った顔をしてる

見た目はだいぶ違うけどその時のエリーの姿はなぜかリオンとかネルと重なって見えた


エリーはすぐにあたしに羽虫を引っ付ける 急に体が軽くなった

立ち上がると

「次遅れたら本当に置いていくわよ」

とエリーはそっぽを向きながら言った それなら頑張るしかねーな


とはいえあたしの体はだいぶ消耗してて 羽虫が回復させてくれてもペースは落ちていく だから何度もエリーの姿は見えなくなる でもその度にエリーは戻ってきて

「次こそ本当に置いていくから!」ってあたしに言った


たぶん 言い方はだいぶきついけど 本当にあたしを死なせたくないんだろうな なんでかはわかんないけど

あ もしかして優しいやつなのかな それならだいぶ素直じゃないんだな

ちょっと笑ったらエリー(あたしが3回遅れたあたりからもう離れなくなってた)にしかられた

「笑う体力があるなら遅れずに着いてきなさい」

「はーい」


なんとか森を抜けてそのあとはよく覚えてない 起きたらベッドの上にいた

医者が言うには回復には時間がかかるけど 特に問題はないらしい

エリーの姿は見えなかったけど 無事かネルに聞いたらネルはこっそりあたしに教えた

「エリーちゃんは大丈夫だよ ・・・実はね ライラちゃんが寝ている間 エリーちゃんが何度も様子を見に来てたの」

それを言ったらエリーは怒りそうだけどって言ったらネルは苦笑してた たぶん当たりなんだろう


普通に歩き回れるようになってから あの青くてちっちゃいのを探す

いた エリーは案外近くにいて本棚で本を選んでるみたいだった

「あら 起きたのね」

「おー おかげさまで元気いっぱいのライラちゃんだよ」

「そう」

態度はやっぱりそっけないけど最初みたいなとげとげしい感じはもうしない

「本当に助かったよ ありがとうな」

「別に」

まあ仲良しこよしってタイプでもないんだろう 感謝だけ伝えて立ち去ろうとしたら

「ねえ」

驚いたことにエリーから声をかけられた なに

「この間の仕事 あなたはまだ冒険者になったばかりだということを忘れていたわ 私が油断しなければあんなに怪我をさせることはなかった ごめんなさい」

びっくりしすぎて尻尾の毛が逆立つ

確かに考えてみればエリーが一緒にお仕事をするのはレグルスのやつらだ 当然みんな強いからあそこまで手厚く守らなくてもぼこぼこにはならないんだろう でもあたしは弱かったから いつもとは勝手が違ったってところか

ものすごく小声で言い切ったエリーは明後日の方向に目を逸らしてる

「でもエリーのおかげで助かったのも事実だろ あたしだけだったら森を抜けられずに死んでた だから感謝してる ありがとう」

そういうとエリーはもっと目を逸らして

「別に 勘違いしないでほしいんだけど 私があなたを守ったのはあなたのことを心配したとかじゃなくて もしあなたが死んだりしたらレグルスの名に傷がつくからよ」

「心配してくれてたのか ごめんな」

「だから違うって言ってるじゃない」

「寝てる間何度も見に来てくれてたんだってな」

「知らないわ そんなこと」

「次はあんなことにはならねーからさ」

「当然よ またあんな怪我なんてしたら今度こそ本当に置いていくわ」

「次も一緒に来てくれるんだな」

「あなたが無様な姿をさらしたら私が困るからよ」

「照れなくていいって」

「誰が!もう知らないわ」


そう言ってエリーは立ち去ってしまった 煽りすぎたか

でもその後もエリーはあたしを追い出そうとしたりはしなかった むしろあたしが困ってたら助けてくれたり 自分から声をかけてきたりはしないんだけどなんとなく近くにいて 言ったら手伝ってくれる

あとはお仕事に一緒に行ってって頼むとため息をつくんだけどなんだかんだ手が空いてたら来てくれるとか 毎回「次はないわよ」って言うんだけど説得力ねーんだよな


つまり実はエリーは優しいやつだってわかるまで時間はかからなかった エリーに言うと「そんなわけないでしょ」ってそっけなく言うんだけどな

「照れやさんめ」

「誰のことを言っているのかさっぱりわからないわ」


しまりが悪いけどまあ そんな感じで エリーは素直じゃないけどほんとは優しくていいやつなんだよってこと


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