藍のない問題

エリー.ファー

藍のない問題

 春を作る前に夏を作ってしまった。

 どうしよう。

 そういうことを神様が言っていた。

 馬鹿じゃないか、と思う。

 だって、そうではないか。

 私は何度も言ったのだ。結構季節というのは順番が必要であるから、丁寧に考えてくださいと。基本的に一度せってしてしまうと後から直せるようなものではありませんから、後悔することになりますよ。と。

 間違いなく、私は言った。

 結果は、これである。

 何なのか。

 これはなんなのか。

 私は思う。

 こんなことがあってよいのかと。

 神様なのだから、そのあたりの所はちゃんとしてもらわないと困るのだ。

 そう言えば、回覧板は回したのか。

 ほら。

 やっぱり回していない。

 布団は折りたたんでしまったのか。

 ほら、やっぱりしまっていない。布団と床との間に湿気が溜まるということを何度も何度も説明したというのに、全く理解していない。

 私からすると、こんなにも気を回す相手もいないのだが、こう、ミスが続くと。

 なんとも、という感じではある。


 神様という生き物のことを知らない人間が多いのだ。

 だからその隣にいたところで、何か意味のあるアドバイスをするわけじゃなし。

 下らない注意ばかりしている。些末ではないか、そんなことは。そのあたりのことを何度も何度も繰り返されたとして、それに意味があるのか、と問いただしたくなる。

 というか。

 仮にも。

 神様なのだろうし。

 そこはしっかりと敬ってもらわないと困るのだ。

 私にも一応、立場というものが存在し、それを維持するための立ち振る舞いを常に考えている。どうしてなのだろうか、そこまで頭を悩ませているといこと自体をそもそも理解してもらえていないような気がする。

 神様は。

 何者なのだろうか。

 本当に。

 自分ではあるのだが。

 なんであるべきなのか。

 分からない本当に。


 回覧板が回ってこない。

 本当に。

 町内で運動会があるとか、そういう話を聞いていたのに、どうすればいいのか。

 会費を集めるだとか、ゴミ置き場のネットを買い替えるだとか、そんな話を幾つも聞いている。だというのに、回覧板が来ない。

 悪魔だからか。

 我が悪魔だからか。

 確かに隣に住んでいる者は、神ではある。つまりは、余り仲が良くないとされている関係である。

 実際はそうでもないのだ。でも、やはり人間に仲良くしている所など見せてはいけないし、見せるべきではないと思っている。敵対しているものは、これからも敵対していることにしなければ成り立たないものというのが数多くあるのだ。

 イメージ商売とはこんなにも面倒なものなのか、と今更なながらに呆れてしまう。

 茶番劇と言えば茶番劇だが、これで世界の均衡がともたれていると思えば安いものではないか。しわ寄せを受けるということはそれだけ期待されているということなのだ。致し方あるまい。


 神様。

 神様。

 どうか、お母さんの病気を治してください。

 お母さんがまた元気でお料理を作れるようにしてください。

 あたしもこれからは絶対に良い子にします。

 本当です。

 だからお願いします。

 悪魔でも神様でも、人間でも誰でもいいので、お願いします。

 お母さんを元気にしてください。

 お母さんとまた一緒に暮らしたいです。

 お願いします。

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