苦虫の味がするガム

 とにかくシイタケが嫌いだ。あの味、臭いがキツイ。これを食べられる人が言うには、皮田わたしの意識する部分は気にもならないとのことだ。逆にサンマのハラワタが非常に好みで、苦手とする人の言う臭みや苦味が皮田には気になるものではない。


 昔は食べらなかったが今は好きなもの、というのがトマトだ。どうにもあの酸っぱさが苦手だった。ところが学生にもなる頃、急にイケるようになった。酸味が気にならなくなったためだ。そうすると逆に旨味の存在に気付く。以後、煮込みに一味足りないと見るやとりあえずトマトをぶち込む、といった具合に重宝している。


 どうにも歳を食うと感覚が鈍ってくるように思う。トマトの最初口にして前面に押し出された酸味。子供のころの鋭い舌はそこで味について門前払いにされていたが、その第1関門を抜けたところで旨味に気付かされる。


 人付き合いも似ている。剣道の関係で主張が強くて周囲からうるさがられる人がいた。悪いことに酒席で大いに乱れる人であったから、なおさら平時でも相手にされなくなる。

 ただ剣道を見るとどう見てもうつけの試合運びではない。相手の心理を読むのに長けたもの特有なクレバーさで堅実な勝ち方をしている。

 それを念頭に辛抱強く彼の話に耳を傾けるとだんだんうるささに慣れて神経が鈍り、言葉の中身や行間に気を付ける余裕が出てくる。すると彼がきつい言葉ながら的を射たことを言っているのがわかる。今まで食えぬと嫌悪していたトマトに、噛みしめてわかる旨味があった。


 結局彼は多くの人から愛されるタイプにはなれなかったが、少数からは単なる厄介者では受けられない信頼も勝ち得た。

 人も物も好き嫌いを慎重に判断したいと思いつつ、やはり皮田わたしの舌はシイタケの前では幼少の繊細さを取り戻してしまう。

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