バイリンガル

 カタカナ=舶来、海外のものという印象は、皮田が幼少の頃から根強くある。



 隣の家の子と遊んでいるとき、カタカナはアメリカ人も読めると言い出し、母を大いに赤面させた。




 幼稚園のとき、友達に辞書に出てきそうな金持ちの坊っちゃんがいた。坊っちゃんはなんでも知っていて、ただ皮田もこの頃には既に見栄っ張りなところがあって、知識の多さを競った。



 あるとき坊っちゃんと動物の話になる。議題はどの動物が強いか。ワニやゴリラ、ゾウなど侃々諤々と論ぜられるはずだった。


 最初に坊っちゃんが出してきたのは百獣の王ライオン。これで終わる。なぜなら皮田が愚かだったから。


 「たしかにライオン強そう。でもライオンが英語で何て言うか知ってる?ライガーだよ」


 「ゑっ?皮くん、なに言ってるの?」


 「だからライオンは日本語、英語だとライガーなんだよ」


 いきなりライオンライガー論争になってしまった。


 ライオンがカタカナなのは知っている。母が獅子座なのも知っている。しかし獅子がなにかということは知らない。


 恥も知識も、知らないやつが一番強い。皮田は坊っちゃんを口論の末、叩き潰した。ライガーは当時好きだったプラモデルのキャラがそんな名前だったのを、無理矢理脳が結びつけたんだろう。


 現実の創作の区別がつかないやつ。怖い、強い。やっぱり恥ずかしい。

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