41.ビターン
この時、タルトは不吉な予感を察知していた。何か嫌な予感、言うなれば直感が、鈴木(凪)を敵の攻撃から避けさせていたのだ。
『鈴木、次は上!』
俺はすかさずジャンプする!ぐばっ!!
上半身に敵の槍がクリティカルヒットし俺は長い廊下を後方に吹き飛んだ。
『え、鈴木!』
漸く攻撃を当てた奴はニヤリと笑みを浮かべ再び槍を掴んだ。ここまで百発百中だった彼女の直感が、何故外れたのか。
奴の動きが彼女の予測を上回ったのか、それとも何かやられたのか、そんな疑問がナイトに浮かぶ中、その致命的な原因に、タルトだけが気付いていた。
『違う…違うの』
タルトは青い顔で呟く。
『上に来ると思って…』
そう、俺たちはすれ違っていた。『次は上!』…それは避ける方向ではなく、槍がくる位置を示していたのだ!
『残りは、あと2人だ』
奴がゆっくりと、慎重に迫ってくる。タルトとナイトに武器はない。奴は槍を構え、投擲する体勢をとった。長く細い通路、槍の投擲、相性が良すぎる。
『ここまでか?』
ナイトがそう呟いた時、2人の背後で何かが動く気配があった。
『次はお前だ!』
風を切り裂きながら、ナイトを狙った槍は一直線に高速で迫る。
その時、俺はナイトの前に立ちはだかった。
『鈴木!生きてたのか!』
ナイトが驚きの声を上げ、タルトも謝る。
『鈴木生きてたのね。さっきは紛らわしい言い方をして、ごめんなさい』
「なあに、いいってことよ。次からは避ける方向を、言ってくれよ」
飛んできた槍は思い切り俺の胸あたりにジジジッと音を立てながら衝突している。
仮に攻撃を食らっても死なない事を確信し防ぐという行動に集中した俺は、その場からピタリと動くことなく奴の槍を防いだ。
奴が鎖を引っ張ると、直ぐに槍は奴の手元に戻っていった。
『本当に、これを食らっても死なないというのか?』
「ああ。やっぱ大丈夫だった」
!?
『何故ここに!』
俺は奴の真横に現れた。奴は俺を槍で刺そうとしたが、俺も奴の槍を掴んでいるので、満足に振るえない。
『お前の野郎!掴んで来たのか!』
「ふっ、俺がこの槍を掴んでいる限り、お前はこの槍を満足に使えない」
『くそぉ!』
『やるな鈴木!勝てるんじゃないか!』
「ふっ、まあな」
奴が思い切り槍を振り上げると、槍を掴んでいる俺も一緒に宙に振り上げられる。そのままビターンと槍と共に床に叩きつけられた。
「ひー」
ビターン ビターン
「ひーーー」
繰り返し槍と共に床に叩きつけられる。
『鈴木ー!』
『きゃー』
俺は確かに敵の攻撃を防げたし食らっても生きていた。だが、俺たちは、攻撃力に欠けていたのだ。
針で飛ばす毒の魔法?否、実は先ほど防具の隙間を狙って撃ったのだが、効いている様子がなかった。魔法の障壁でもあるのだろう。
柄じゃないが今の俺には、槍を掴んで2人が逃げる時間を稼ぐくらいしかできない。あの2人は全然戦力にならないので居てもあまり意味ないし。
ナイトも武器さえあれば戦えると言ってたが、仮に奴の槍を奪ったとしても、今までの兵士と同じなら、奴らの武器は倒すと消える入手不可設定の武器だ。
ビターン!ビターン!と振り回され、あちこちに叩きつけられる。ゲームでは力の強い筈の俺を、奴は更に上回っている。
「逃げるんだ!タルト!ナイト!」
朦朧としながらも、そう叫んだ。
その光景を見ていたタルトは、何もできない自分が悔しくて手や足とかにギュッと力を込めてプリンのように震えながら立っていた。
『鈴木はタンクでしょ、貴方も似たようなもの…戦士なのに戦えないの?』
悔しさを抑えるように、そして僅かに責めるようにナイトに問いかけた。
『鈴木は…ただのタンクじゃないって本人も言ってたじゃないか。見てればわかる。それに武器がないから戦えないって言った』
『風水師の私でさえ少しは役に立ってるのに…戦士のくせに』
『板でもあれば戦えたんだ。武器がなくても戦える鈴木がレアケースだ』
半分は八つ当たりだった。鈴木一人に戦わせている事、だからといって参戦したら殺されて死ぬかもしれない事、タルトはロールケーキの様に頭を悩ませた。
その時、タルトは再び何か予感を感じ取った。決して不吉な予感ではない。
『ねえ、今なんて言った?』
『あ?武器がなくても戦える鈴木がレアケースだと』
『違う、それより前』
『おいおい、ネタバレ早いって。お前も笑ってただろ…がどうした?』
『どんだけ前に戻ってるの。ついさっき言ってたこと』
『まさか。板でもあれば戦えたのところか?』
『武器って剣とかじゃなくて板なの?』
『まあな』
『頑丈な板じゃないと駄目?』
『いや、板状なら何でも俺の武器だ』
その予感は、具体的なものに姿を変えた。それでもそれはポッ◯ーの様に細く、そして折れそうで不安定な希望的観測だった。
それでも、これしかなかった。
『急いでついてきて』
タルトはナイトを引っ張って、鈴木とは反対方向に駆ける。
鈴木は、悲しそうな顔でこちらを見ている気がした。
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