38.留置場
◇ ◇ ◇
頑丈そうな鉄の防具を着けた兵士のような男に連れられ、薄暗い天井に灰色の壁の大部屋、留置所の様な場所にやってきていた。
牢屋のような鉄格子の小部屋が幾つも並んでいるのが伺える。
『この部屋に入れ、003番』
会議室らしき場所で色々受け答えを終えた俺こと凪(偽名:鈴木)は、いつの間にかこんな扱いを受けていた。
色々な事を質問されて色々な事を答えた。この世界がゲームである事や、俺はそのプレイヤーである事も試しに説明してみたが、奴らNPC共は疑いの目で俺を見ていただけだった。
それにしてもワールドゲームの開発社の技術には毎度驚かされる。あれほど高度な人工知能を開発していたとは。ヴァロルドたちの対応を見る限り、恐らくハイレベルな自己学習能力も有しているのだろう。
兵士に指示された鉄格子の小部屋に入ると、扉が施錠される。
『暫くそこで、大人しくしていろ』
そう言い残し、兵士は何処かへ行った。
「暫くってどのくらいだよ…ていうかマジで困った…」
ふと暗い部屋を見渡すと、他にも2人の人間がいることに気付いた。
『なあなあ、大人しくしていろだってさ。大人を形容詞化したのが大人しくだけど、不思議だよなぁ。大人は大人しくないのに』
声のした方を見ると、片目の目元まで黒髪の男がこちらを見上げて、いきなり長文で話しかけてきた。
「ちょ、待って、端的に言って」
『そうか、それじゃ端的に言うよ。あんたは理不尽にも牢屋に捕らえられたとき、大人しくしてるタイプか?』
「…待ってくれ。悪いけど先に質問させてくれ」
俺が何故か3番と呼ばれている事、そして目の前に人間が2人いることから、もしかしたらこの2人も俺と同じプレイヤーなのではないか?という一筋の希望を感じた。
「2人は、ワールドゲームって知ってるか?」
俺は目の前の男…と奥にいる黒髪の女の、2人に問いかけた。
因みに後でわかった事だが、この女の髪型はボブというらしい。しかしながら俺の頭の中のボブは黒人のスキンヘッドだったので、初めは驚いた。
『…あんたは理不尽にも牢屋に捕らえられたとき、大人しくしてるタイプか?』
「ん?」
『あんたは理不尽にも牢屋に捕らえられたとき、大人しくしてるタイプか?』
「なっ…」
まさか、こいつらもNPCだったというのか…。絶望だ。ゲームの世界から出られなくなって、やっと人間に会えたと思ったら。人間は俺しかいないというのか!
「絶望だ!」
『ねえ』
「何だ?俺はいま絶望してるんだ」
奥にいた女の方が話しかけてくる。
『その人…ふざけてるだけ』
女は、目の前の男を指差して言った。
『おいおい、ネタバレ早いって。お前も笑ってただろ』
『…笑ってない』
・・・どういうことだ?
『私たち、知ってるよ。そのゲーム』
「何だって!?」
『俺たちも、ワールドゲームのプレイヤーだってことよ』
「だ、騙したのか!??・・・俺がもしお爺さんだったら心臓が危なかったぞ?」
俺は彼らに、諭すように言ってやった。
「ここに来たのがお爺さんじゃなかったことに、精々感謝するんだな」
男は、呆れた顔で呟いた。
『いや、普通お爺さん来ないだろ…』
その時、大部屋の出入り口が、ガチャっと解錠され開く。
『早く入れ、4番!』
あの兵士の声が、廊下から聞こえた。
『待っとくれ…腰が悪いんじゃ』
!!?
入り口からは、兵士に連れられてヨボヨボのお爺さんが入ってきた。
『よし、こっちの部屋に早く入れ!』
お爺さんは周りを見回すと、漸く自分が何処に連れてこられていたのか気づいたようで、突然兵士に怒り出した。
『なんじゃ無礼者!わしは、この施設の局長であるぞ!腰の悪いわしを御手洗いに誘導しているんじゃなかったのか!!』
『本当だ!よく見たら局長でございますね!誠に申し訳ありません!』
『全く…近頃の兵士はたるんでおる。貴様はボケておるのか!?わしじゃないんだから』
『は…はあ』
物理的にたるんでいる局長の自虐ネタ。一度返し方を誤れば、兵士の首など瞬く間に飛ぶだろう。近頃の兵士は、命懸けなのだ。
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