15.防戦一方
前方では、ビータイガーは警戒態勢をとったままこちらを睨んでいる。
俺はふとステータスボードを開きレベルを見てみると、レベルが3から5に上がっていた。
マジか。これだけで、まだ3だったとはいえ、ここまで上がるものなのか。
「…チビスケ、俺はどうしてもレベルを上げたい。お願いだ。めっちゃ手伝ってくれないか」
『ふむ、本気で上げるのなら、最強プライヤーである俺の自称貴重な時間を、更に使うことになるのだが…』
チビスケは俯き、淡々と言う。
『お前を強くして、一体俺になんの得がある』
「そうだな…」
俺は一考し、答える。
「確かに俺は敵を前にするとすぐうずくまるし、今もただのEランク冒険者だ。でも、俺はあいつを、卍を助けたいんだ」
『卍を、助ける…いや誰』
「だから俺はお前のような、最強プレイヤーを目指す。そう、本気で目指してみたいんだ」
『…ほう』
「それに、チビスケにも損はさせない。職業盾術に興味があるから、来てくれたんだろう?俺が最強になったら、最強の盾術を見せてやる」
俺はその場で立ったまま目を瞑り、チビスケの方に右手を出す。
「だから、もしめっちゃレベル上げ手伝ってくれるなら、この手をとってほしい」
それから数秒後、俺の右手に、暖かい大きなチビスケの手がのせられた。
「ありがとう、チビスケ!」
俺が目を開けると、またなんか目の前に、俺の右手に大きな手をのせたビータイガーがいてこちらを見ていた。
『ウ、ガァァァァ!』
「あら、こんばんは虎さん!」
ビビりすぎて最後声が裏返った。
ビータイガーの右腕から爪の先までが薄っすらと水色に輝く。魔力を込めているのだろうか。直後、蒼く輝いた右腕が勢いよく目の前に迫る。
まずい、こいつこのまま俺を殴り殺す気だ。残りHPは残り3割、先ほどと同じように攻撃を受ければおそらく死んでしまうだろう。受けるか、受け流すか、とにかくダメージを軽減しなければ。
洞窟内にドカッ!と音が響き、土煙がまう。
『凪!大丈夫であるか!』
「…ああ、ギリギリな」
俺は、寸前の所でビータイガーの重い一撃を、両手で掴むように受け止めていた。
『ウ、ガァァァ!』
今も物凄い力で押してくる。受け止められているのは盾術の補正もあるのだろうが、それでもギリギリだ。
俺はその体勢のまま、弱点を探るべくスキル魔物図鑑へのアクセスを試みようとすると、視界にビータイガーに重なるように小さな半透明の二重の円が現れた。どうやら視界に魔物を入れていると、すぐにその情報に飛んでアクセス出来るらしい。
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[ランク]B
[魔物名]ビータイガー
[性格]敵対生物
[主な生息地]始まりのダンジョン
極めて残忍な白い虎のような魔物。頑丈な鋭い爪と牙を持ち俊敏性も高く、魔力操作に長けている。また、とても好戦的な性格のため形振り構わず異なる生物を襲う
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困ったな。弱点らしきことは書かれていなかった。役立ちそうな情報としては強いて言えば、魔力操作が得意というやつくらいか。それにしても…
『魔法弾!』
チビスケが再び魔法弾を発動し周囲に魔法の球を出現させると、ビータイガーは警戒して又しても高速なバックステップで瞬時に奥へ下がっていった。
「チビスケ。もし俺がこいつを一人でどうにか出来たら、手伝ってくれ」
『…なるほど。つまり、今は手を貸さなくて良いのであるな?』
「ああ、手は貸さなくていい。…あーごめん、ちょっと最後に一個だけ回復ポーションだけ貸して」
『なんだよ』
「一生のお願い」
『こんなとこで使うのか』
俺はチビスケが投げた回復ポーションを受け取り、それを飲み干す。人工甘味料の味がするな。今度、運営に無添加のポーション作れって要望出しとこう。
「俺は、砂糖の味だけで十分なんだ」
『・・・?』
2割程まで低下していたHPが全回復する。少しレベルの高い回復ポーションだったか。怪訝な顔でこちらを見ているチビスケに感謝だ。
戦いにチビスケを巻き込まないように、ゆっくりと広い空間の方へと歩いていく。何度も攻撃を耐えられたからか、ビータイガーは奥の方でこちらを見ながら、警戒するように唸っていた。
…俺は先程、一つ疑問に思ったことがある。ビータイガーは、こいつは、本当にそこまで凶暴なのか?好戦的なのか?と。職業が盾術だから、中々死なないから、感覚が麻痺しているだけなのかもしれない。それでも俺には、こいつが魔物図鑑に書かれているほど凶悪には思えなかった。
確かにこいつが、冒険者を次々と殺しているのは事実だろう。それでも、好戦的というよりは、怯えているだけのような、そんな気さえしてしまった。
「…なぁ、お前は本当に、好戦的で、残酷なやつなのか?」
『ウ、ガァァァァァァ!』
「ひぃぃやっぱ怖い」
『おい!うずくまるな凪!立て!』
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