7.職業、盾術の本気
3日後。
「ごめんなぁ石田、攻撃防ぐの間に合わなくて…」
『なあに、大丈夫さ…』
そう、ミノタウルスの投擲から石田を守ろうと駆け出した俺だったが、流石に距離的に全然間に合わず、石田はミノタウルスの攻撃を諸に受けて死んでしまっていたのだ。
『そうだ凪、俺がいなかった3日間の戦果、聞かせてもらおうか』
「ああ」
俺は石田に今までのことを説明した。それは主に、あの時の出来事や、俺の職業についての話だ。
石田がミノタウルスにやられた後、次に狙われたのは勿論俺だった。
てっきり斧を投げてくるのかと思ったら、なんと奴は突然俺の方へと走って来たんだ。石田がやられて俺が1人になったからかもしれない、もう直接殴り殺しに来た。
逃げようとも思ったが、ミノタウルスは予想以上に速かった。だから、俺は逃げも隠れもせず、前に盾を構えてその場でうずくまった。
『うずくまったのか?』
「ああ。とても、怖かったからね」
そしたら、どうなったと思う?そう、いつまで経っても奴が盾に衝突して来なかったんだ。不思議に思って、俺は盾の横から顔を出して、前を覗いたんだ。
…するとどうたろう。ミノタウルスは、すぐ目の前に立っていたんだ。
『ホラーだな。それで、次はどうしたんだ?』
「またうずくまったんだよ。怖かったからね」
再び俺はうずくまると、なんと奴は、俺が構えていた鉄の盾をその豪腕で無理やり引き剥がし、森のどこかへ投げてしまったんだ。
『賢いな』
「ああ。奴らには知性があった」
既に俺は満身創痍だった。冒険者なのに、装備はただのお洋服で、マスクをつけてるだけの不審者だった。
『最初からだろ』
「いや、盾をとられた」
俺は死を覚悟した。目の前のミノタウルスは、腕を大きく振りかぶると、勢いよく俺を殴った。そして、攻撃を防ぐこともできないまま、俺は思いっきり殴り飛ばされた。
「でも、何故か死ななかった」
『何だと?それで、逃げてきたのか?』
「いや、怖くてうずくまってた」
俺はうずくまりながらも、もしかして何か新しいスキルをゲットしたのかもと、急いでスキル一覧を見た。そこには、新たに[盾術・耐久、盾術・頑丈]の二つのスキルが増えていた。
これらのスキルは本来、盾の耐久性と頑丈性を大幅に上げるというだけの、タンク系職業の超基本スキルだ。
「そこで俺は一つの仮定をした。このスキル、何故か盾だけでなく、″俺自身″にも適用されている…と」
『いと卍』
だから俺は、ようやくうずくまるのをやめて立ち上がった。
『それは最初からやっとけ』
そして再び渾身の力で殴られた。それでも俺は死ななかった。これで俺の考えは確信に近づいた。予想通り、盾へのスキルが、俺に適用されていると。
『バグじゃね?運営には報告した?』
「するわけあるか。修正されるわけにはいかないだろ」
『ナイス凪』
ミノタウルスも、まるで化け物を見るかのような目で俺を見てたね。貧弱な人間ごときが、どうしてまだ生きているのかと。
殴られる度多少の痛みはあったが、死なないとわかった俺は、調子に乗って気ままにミノタウルスが投げた斧を集めだした。
『そりゃまたどうして』
「強そうだし、金になりそうだし」
そしてステータス画面を見た俺は、気づいたんだ…。俺のHPが2割を切っていたことに。
『ダメージは受けてたんだね』
「ああ。流石に受けてた」
『それから、どうしたんだ?』
殺されるとわかった俺は、怖くてうずくまった。
「そしてミノタウルスに殺された」
『なるほど。それで、今に至るわけだ』
「…一つ思ったんだけどさ、このゲーム、結構痛覚あるよな」
『それな』
ある日夜が明けると、東京に半径50m程の巨大な円形の更地が現れていた。円の中には、幾つかの建物も建っていたが、どれもただのボロボロな古い廃墟だ。昨日までその場所に建っていた全ての建物が、消えた。
『こんなことが、ありえるのか?』
『本当ですよね。最初見たときは隕石が落ちたのかとか思いましたが、そういう痕跡もなかった』
『昨日までは、何の変哲も無い町の一部だったというのが、まるで信じられませんね』
一般人が入ってこないようにした上で、色々な機関の人たちがわんやわんやと調査に来たが、ここで何が起きたのか、まるで検討がつかなかった。
ツイッタアのトレンドは、[#消えた東京]や[#ミステリーサークル]など、この現象に対するタグで溢れ始めていた。かつて、これほど不可解な事件が、日本で起きたことがあっただろうか。
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