第11話 至福の一時
2/14 土曜日
今日はバレンタイン。様々な事件で精神がキツいだろうに、態々俺の家にまで足を運び、チョコを渡して来ようとする人がいる。紗菜と山原だ。
山原は本来バレンタインチョコを渡したい人がいる筈なのに、強いな。と思い、だが決して声には出さずにインターホンに対応した。
「お前ら受験とか大丈夫なのか?」
「うち、単願やからもう終わったし」
紗菜がどや顔しながら言う。
「てか寒いんですけど。入れて貰えません?」
自分勝手過ぎる……。でも確かに雪降る時期に外に居させるのは可哀想だな。
そう思い、来客者2人をリビングに招き入れることにした。
◇◇◇◇
「久しぶりにあがったけど、相変わらず広いなあ」
「アポ取ってないのにこんなに綺麗! 普段からこんな感じなの?」
うるさい……。あ、そうだ。
「山原よ。いきなりだが、最悪な事聞いて良いか? 1個だけ」
「良いよ。変なのじゃなければ答える」
変なのの範囲がわからん。これでこの質問蹴られるのは嫌だな。
山原を廊下に出して質問した。
「あの話になるんだけど、トイレから出た時椅子とかあったりした?」
山原はうーんと首をかしげ、顎に手を当て目を細め、いかにも『今悩んでますよ。思い出してますよ』という顔をしている。なんともアホっぽい。そして可愛らしい顔だ。
「あった、と思う」
曖昧だな。じゃあ、椅子の話はあったって事で話を進めてもいいだろう。
「OK。それを踏まえて俺の推理を聞いてほしい」
◇◇◇◇
山原に俺の推理を聞かせた(前回の推理)。だが山原は不満そうな顔で「すごいね」と言ってくれたが、その顔を見た俺もあまり満足しなかった。
「何か引っ掛かる点があるのか?」
「うんまぁ。あんまり関係無いのかも知れないけど」
「教えてくれ、いや教えてください」
「あはは。まぁ本当に小さいことだからあんまり気にしなくてもいいんだけどね」
と言い、一息おいて話してくれた。
「私、お手洗いに閉じ込められた後で石上くんの悲鳴を聞いたんだ。あぁ、思い出すだけで泣きそう。他に質問はない?」
「あぁ、悪い。もうこの話はしない。そして、なんでいるんだよ、紗菜」
「急に連れ出すから、無いとは思ったけど、もしかしてな事があるかもしれないやろ! あとは、聞いてたらなんかやめられなくなってもうて」
横をみたら扉からひょこっと顔を出している紗菜がいた。あんまり聞かれたくなかったけど、仕方がないか。
さっきの会話は紗菜のせいでスッと流れていってしまった。まぁこいつらがいなくなってから考えればいっか。
そのあと山原達から持ってきていたチョコレートケーキを振る舞ってくれた。俺はそれを勢いよく飲み込んだ。もちろん、毒や異物なんて入っていなかった。
◇◇◇◇
雑談やらゲームやらをしてたら、もうすっかり暗くなり、2人を家に帰した。
2人が帰ったのを確認して、さっきの話を思い出した。
『閉じ込められた後で石上くんの悲鳴を聞いた』
つまりということは、玄関から入って1階で待機。って考えれば良いんだよな。でもそんなに推理に変更はないな。
あれ? ちょっと待て。なら、もしトイレに入らなかったらどうなってたんだ? 犯人と出会って殺されて……。って事か?
そういえば、シラの殺人も今考えると山原を狙ったものにも考えられるな。
『コノ席ハ、ミスヤンバラ?』
という事は、山原は狙われてるということなのか。やっぱりあの冬休み絡みか。
でも、そうなるとなんで俺は狙われないんだ? 俺はあの件に関与してる。だが、俺を狙っているようには感じない。
取り敢えずここまでか。でもまぁ、山原にはあの
◇◇◇◇
2/14 未明
漸く届いたね。
ほんと。待ちかねたよ。
さて召し上がるとしようか。
そいつは袋を空け、注文していたピザを手に取り、すかさず口に入れた。
美味しい。そう思わないか?
うん。やっぱりピザは最高の料理だよ。
この耳にチーズを入れてる所がまた良い。
2枚重ねて贅沢食いする……うっ!
そいつは途端に苦しみだし、倒れた。
その勢いでポケットにあったスマホが手元に出た。
助け、助けを呼ばなくちゃ。
そいつは素早く緊急通報119を押した。
「はい、119番消防指令センターです。火事ですか? 救急ですか?」
「た、たすけ、て、て」
力一杯声を出したんだけど、聞こえたかな?
でも、僕にも小さく聞こえたから多分届いてないよね。
「もしもし?」
その頼りない声は、通話先の方には届いておらず、結局救急車は来ることなく、そいつは倒れた。
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