決められし残しもの

神城 希弥

enigma object

第1話 日常の終止符

 1/8 金曜日


「はぁ……冬休みももう終わりか」


 中学校生活最後の冬休みも終わり、時間の速さを感じながら携帯ゲームをいじっている少年がいた。まだ冬休みを感じていたいのか、いつもは登校している時間になってもゲームをしている。飽きているのか同じことの繰り返しなのか、無表情の彼の姿はとても楽しそうには見えない。


 このまま休んでしまおうか、と考えた瞬間にインターホンの音が鳴った。


加涌かわく、一緒に学校行こうぜ」

 向こうからよく聞いた声が聞こえた。俺はゆっくり起き上がり、そいつの対応をした。

山鹿やまがか。待ってろ。準備する」

「今から?」

「大丈夫。8:20には間に合うさ」



 俺の名前は加涌かわく響平きょうへい。特出することのない男子中学生だ。少し違うとすれば、人一倍ゲーム時間が長いという事だ。それ以外は比較的男子中学生の平均にいる。


 俺は冬休みの間、何もなかった訳ではないが、ほとんどゲーム三昧で外に出る機会が少なかった。そのためか、外に出ることに抵抗を感じている。


 そして今チャイムを鳴らした奴は、同じクラスの山鹿やまが たかし。ゲームという点で知り合った中学最初の友達である。

 山鹿は俺とは違い、筋肉質で背が高い。俺からは山鹿の体を憧れの存在のように捉えている。


「さて、行きますか……」

 響平はゲームの電源をオフにして、持っていたものをそこら辺に投げ捨てて、少し迷いつつ久しぶりの外に出た。


 ◇◇◇◇


 学校は冬休み前のときとそう変わらず、騒がしかった。当然俺は、みんなと話せるほどの中心的人物ではなかったため、騒がしくしている所をそっと通り、自分の席に荷物を置き、山鹿の席に向かった。



「このエリアの謎ヤバイよな?」

 俺はいつも持ってきてる自作のマッピングを広げて、山鹿達と一緒にやっている脱出ゲームの攻略を考えていた。


「多分、エリア自体が謎を解く鍵になってて……。おい加涌、紗菜さな見てみろよ」

 そう言われた俺は、紗菜の方を向いた。紗菜はこちらを睨み付けながら見ていた。

「お前ら冬休みに何があったんだよ?」

 何もねぇよ、と言いその場は誤魔化した。


 ◇◇◇◇


 始業式も終わり、今日はもう学校にいる必要がなくなった。


「なぁ、加涌。そういや今日、唯斗ゆいと来てなくない?」

「確かに見てないかも」


 その人の名前は経堂きょうどう 唯斗ゆいと。いつも学校に来ているゲーマー仲間なのだが、何故か今日は来ていない。


「きっと冬休み気分が抜けてないんだよ」

「そんじゃ、加涌も一緒に凸らない?」

「お、面白そうじゃん」


 担任に話を聞いてみたが、連絡がなく無断欠席だったらしい。なので、家を知っている俺達に経堂の様子を見てほしいと頼まれた。


 ◇◇◇◇


 唯斗はきっとカップラーメンを食べながら、ゲームをしているだろう。と俺たちは歩きながらそんな予測をしていた。だが、そんなに彼は劣等生ではなかった。いったいこの冬休みに何があったのだろうか。


「確かここだったよな?」

 彼の家は3階建ての立派な一軒家だ。親が稼ぎ上手なのか、家はとても広く、内装も美しく文句の付けようがない家だ。


 玄関のインターホンを鳴らしても出てくる気配はなかった。

 どうせ居留守だろ。そう思いドアノブに手をかけた。扉は閉められてなく、いとも簡単に開いた。


「あれ? あいつってそんな不用心な方だったっけ?」

「唯斗はこういう部分だけは劣ってなかった気がしたんだけど……」

 何かがおかしい。俺達の中に恐怖が生まれた。

「寝てるとか?」

「寝てて鍵閉めないはヤバイ」

「ならゲームに集中してるとか?」

 あり得なくない。そう言い、家の中に入っていった。


 特に家の中に異変はない。

「唯斗の部屋に行ってみよう」

「加涌強気だな。なら行こうか」

 何が起こるか分からない。そういう恐怖がずっとある。サプライズって訳でもなさそうだし、誕生日パーティーとかにも見えない。あんまり考えたくないが、もう亡くなってたりとか……。だがそれにしては異臭がしない。

 と、3階の一番奥の彼の部屋に着くまで考えていた。だが、そんな考えは彼の部屋の前で打ち消された。


「ん? これって、唯斗の好きなの匂いだよな?」

「そうだな。なんだよ、食ってるだけかよ。ふー、ビビったぜ」


 山鹿は安心しているが、俺はまだ生きている姿を見ていないため安心していなかった。そのため、喜ぶ勢いで扉を開けたのではなく、恐る恐る慎重に扉を開けた。

 その部屋の中を見た瞬間、山鹿の顔が豹変し、家中に響き渡るほどの悲鳴を上げた。


「これは…………」


 そこには、経堂唯斗の変わり果てた姿があった。

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