第3章 9月14日 土曜日(3)
8月16日、金曜日。
1人目の被害者、
8月23日、金曜日。
2人目の被害者、
8月30日、金曜日。
3人目の被害者、
9月6日、金曜日。
4人目の被害者、
そして昨夜、9月13日の金曜日。従井稲穂は殺された。歩道橋の上で背中を押されて。
まとめられた確定情報をさらにまとめ、解決の糸口を考えるのだが、なかなか閃かない。
ブラックコーヒーを飲み、寝ぼけた頭をリセットして、点と点を結ぼうとするが、一番結びつけたい「金曜日」と「遅馳署管轄内」が宙ぶらりんだから始末が悪い。
「厭生さん、どうですか?」
後ろから突然話しかけられてびっくりしたが、声でわかる。舎人練紀巡査部長だ。若くして捜査一課に入ったエリート。歳は俺より年下だが、資料を作らせたら彼に敵うのは門崎さんくらいじゃなかろうか。いかにもインテリ系なスチールのメガネを光らせて、手にコーヒーを持って、隣の椅子に腰を掛けた。
「ぼちぼち、いやぁ、ぜんぜん、だ」
「伽藍洞さんは、いないんですか?」
「あぁ、彼女は5人目の被害者のご遺族に話を聞きに行くって、赤口さんと出掛けたよ」
俺は被害者のご遺族に話を聞いても、共通項が増えるとは思わなかったから、ここでホワイトボードとにらめっこをしている。
「ここだけの話ですが、厭生さんの小耳に挟んでおいて頂きたい話があるんです」
「それは、真田さんたちも知っている情報か?」
「いえ、ですが、時間の問題かもしれません。真田さんに14歳の息子さんがいるのをご存知ですか?」
「いや、知らないな」
ってか、あの人結婚してたのか。
「既に離婚をしていて、息子さんを預かっている状況です。
まぁ、確定情報だろうけど、真田さんもこの署の管轄内の社宅に住んでるんだろうから、この辺で目撃情報があったところで、特に問題は無いようにも思える。
「それがですね。真田さん、事件が起きた時間には、息子さんと一緒に家にいたってこないだ言っていたんですよ。嘘をついているんです。何か探られたくない腹があるんだと思うんです」
嘘、ね。
嘘は、『確定情報』になりうる。
しかも、犯人の動機に繋がる、大事な
「あ、こないだの打ち上げ会の時の写真です。ここに写っているのが、真田
舎人が取り出したスマホの画面には、居酒屋で笑い合う捜査一課の面々が映っていた。土日に行われたのだろう。俺は知らないからだ。真田さんと、隣に小学生くらいの子供が、見たことのあるヒーローのポーズをして、格好つけていた。14歳にしちゃ、子供っぽいな。ところで、舎人の隣にいるこの女性は誰だ? 見たことない顔だが。門崎さんではない。
「あぁ、これ、伽藍洞さんですよ」
「え?」
今日会っていた岬ちゃんと、この写真の女性とを頭の中で何度も見比べているが、目の大きさ、輪郭、鼻の筋など、ほぼ別人と見えた。
「最近お化粧を頑張っているみたいで。特に厭生さんが出勤してくる日はガッツリしてきてますよ。ほんと、僕らからしたら別人ですって」
僕らからというか、俺からもそうだ。
その時、俺の頭で何かが閃いた。
そうか、そういう事だったのか。
点と点が繋がり、像を浮かび上がらせる。
犯人の背格好や性別、特徴があらわになっていく。
「この写真、後で俺に送っておいてもらえるか。確認したいことがある」
「あ、はい。あ、僕がこのこと言ったって、伽藍洞さんと真田さんには内緒ですよ」
「わかったよ」
苦いコーヒーを飲み干し、今頭の中を貫いたルートを忘れないように、キーワードをメモする。
キーワードは「土曜日」と「休日出勤」だ。
俺はホワイトボードをキレイにしてから、遅馳署を後にした。
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