フライデー・マーダー

ぎざ

第1章 9月14日 土曜日(1)

 まったく、俺の唯一の定休日である土曜の朝、どうして出勤しなくてはならないのか。何故かというと、最近毎週金曜の夜に休まず出没する無差別殺人鬼「フライデー・マーダー」の事件を捜査しなくてはならないからだ。こいつが人を殺さなければ、俺は毎週土曜の特撮「仮眠ライダー」をリアルタイムで見ることができるのに。

「がはは、本当だよな。俺も朝八時からやってる、「暴れん坊症候群」を見るのを楽しみにしてたんだけどな、ここ数日例の殺人鬼のおかげで俺も休日出勤だよ。レコーダー買うしかねぇなあ!」

 と、捜査一課の切り込み隊長、真田さなだ浪人なみとが豪快に笑う。

「ちょっと、何言ってるんですか! レコーダー買う前に、犯人を捕まえて事件を解決してくださいよ!」

 と捜査一課の紅一点、伽藍洞がらんどうみさきちゃんがたしなめる。今日もばっちりメイクでおめめがパッチリ。すごい気の入れようだ。

「それで、昨日の被害者は? これで何人目だっけ?」

「昨夜の23時頃、場違ばちがい街の歩道橋下で発見されました。従井したがい稲穂いなほ、25歳、会社員。全身を強く打ち、首の骨が折れたことによるショック死です。階段の上から背中を押され、転げ落ちたと思われます」

 捜査資料を渡しながら、舎人とねり練紀ねりのりが要点を説明してくれる。「昨夜の被害者で5人目です」

 つまり、通算で5回目の休日出勤ということだ。早く犯人を逮捕したいところだ。何故ならば来週は仮眠ライダーの最終回だから。

 私情はさておき、だ。毎週金曜の夜に殺人事件が起きているので、昨夜も厳重なパトロール体制が敷かれ、不審者は情報が共有され、名前や住所がリストアップされ、防犯カメラの映像を確認しながら監視していた。にも関わらず、カメラにも姿を見せず、証拠も残さず既に5人もの命を奪っている。最終回を楽しみにしている場合ではない。

「1人目から5人目の殺害時刻に、現場付近にいた不審者のリストをくれ」

「はい。と言っても、1人目から5人目の全ての現場に姿を確認された者は1人もいません」

 渡されたリストに書かれていた不審者は、いずれも何かしらの前科がある者だらけだ。が、この中にいない可能性もある。初犯で5人もの人間を殺しているなんて、ヤバすぎる。

「ただ、5人が5人とも、同一犯によって殺されたとも言えないよな。被害者に共通項があるとも思えない。無差別殺人だぜ」

 共通項は、金曜の夜に殺されている、ということだけ。性別も出身地も生活スタイルもまるで違う。あぁ、もう一つだけ共通しているとしたら、それはウチの管轄内の事件だということだ。

 東京都 真柄さながら遅馳おくればせ署の管轄の地域で殺人事件が発生している。殺害方法はバラバラだが、その2つは揺るぎない共通項だ。

 今回のように、物証の少ない連続殺人事件の場合、どこかしらに共通項を見出す必要がある。そこに犯人の意思が見て取れる。犯人の見えない足跡を見定める必要がある。ただの無差別殺人ならその推理方法では犯人を捕えられないが、それはそれである。俺は共通項を探す捜査方法をとる、というだけだ。捜査一課には他にも刑事はいる。捜査方法が違えばそれだけ犯人を捕らえる網の種類も変わる。チームの誰かが捕らえればいい。

「じゃあとりあえず、今回の事件の現場に行くとするか。岬ちゃん、バディよろしく」

「はっ! よろこんで!」

 そんな居酒屋みたいに返事されても困る。これから人が殺された現場に行くのに。

「側から見ていると、ただのデートだな。普段そんなに化粧濃くないくせしてよ! こいつの前だと気合い入っているよな、伽藍洞のやつ」

 真田が笑って送り出す。岬ちゃんは「ベーッだ」と舌を出して威嚇した。

 普段の岬ちゃんを知らないが、化粧控えめなのかな。俺はもう少し化粧が薄い女の子が好きだぜ。門崎かんざき紫外しほかさんみたいな。

 捜査一課紅一点の岬ちゃんの普段を知らないなんて、どういう事かと言われてもおかしくない。それはなぜかといえば、俺は捜査一課の非常勤、私立探偵の厭生いとう弗篤フィート、その人だからだ。

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