ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
1章5話 21時21分 アルバート、緊急事態宣言を発令する。(3)
1章5話 21時21分 アルバート、緊急事態宣言を発令する。(3)
「ファンタジア教と竜の聖書教は今では分裂してしまったが、現在進行形で聖書を教えとしているという点では一緒だ。聖書の解釈には様々なモノがあり、それは安易に決め付けてしまっていいモノでは絶対にない。が、少なくとも、全ての宗派に共通している解釈、価値観も、幸いいくつか存在した。そして――」
「――その中には、形に囚われるな、真実を見ろ。という教えが含まれます」
たとえば、宗教に馴染みが薄い元日本人であるロイには難しい価値観だが、あらゆる宗教の信徒は教典の教えを基本的には第一に優先するのが当然だった。なぜそうなのか、と、一度でも訊いてしまえば、逆にあなたの方こそなぜ当然ではないのか? これは神の教えだぞ? と、追及される。それほどまでに価値観、否、価値観のさらにその土台として信徒には普及している。
必然、形に囚われるな、真実を見ろ。なんて、無信仰の人間にとってはただの文章、ただの文字だとしても、ファンタジア教と竜の聖書教の信徒からすれば、それは世界を創造した神様からの言葉。従うのが道理――否――真理ですらあった。
「然り、今、宗教大臣が言ったとおり、ファンタジア教にも竜の聖書教にも、そのような教えがあり、その解釈も同じときている。つまり――」
「――件の死神を、厳密には死神ではなく悪魔と公表。宮廷と七星団はその悪魔の討伐に成功する。なぜ大聖堂の結界を手薄にしたかと訊かれれば、大聖堂は形であり、宗教の本質は信徒の信仰の深さにあると主張。悪魔に打ち勝つことで、我々は教えを遵守したさらにその上で、より信仰を深めることにも成功して、結果的にはプラスになった、と、そういう筋書きですか?」
法務大臣はアルバートに真意を問う。
翻り、アルバートは憮然とした様子で続ける。
「死傷者が出る以上、結果的にはプラス……なんて認めたくないがな。しかし、万人を納得させる方便なんて上等な代物、この世界には存在しない。つまり、次点として我々が求めるべきは1の納得を切り捨てて、99の納得を得られる辻褄合わせに他ならない」
「――――」
「無論、流石に大聖堂のことを形、と言ってしまえば、顰蹙はさらに大きくなる。ゆえに、この件については死神を討伐終了し次第、余と宗教大臣で都度都度の調整を行う。暫定的な結論として、法務大臣は宗教的歴史的文化的建造物及び芸術品保護法を以上の詭弁でやり過ごし、防衛大臣は大聖堂に向かわせた小隊のうち、数個を第1特務執行隠密分隊の応援、または死神の包囲、または別のポイントの結界に向かわせるように」
「「「御意」」」
防衛大臣、法務大臣、宗教大臣の3名が同時に返事する。
そして、次はここに呼集された枢機卿数人に問う番だった。アルバートは視線を向けたその先にいる者の真意や思考、心を見透かすように底知れない双眸で彼ら彼女らを一瞥する。
「ここにはファンタジア教の枢機卿が2人、竜の聖書教の枢機卿が3人集まっている。今話し合ったことをこれから実行するが、その上で発生するであろう問題点を述べよ。ただし、問題点は精神論ではなく理論に限る」
アルバートが言う。
すると、すぐに枢機卿の1人から反応があった。
「最終的に辻褄合わせがどのような形になるかは知りませんが、
それも国王という身分の者の宿命だった。大前提として、国民は全てを失いたくない。全てを持っていたい。なにかたった1つでも
「要するに、噂された時点でアウト、ということだな。しかし、一度、人の噂になったモノを止めることはできない。となると、箝口令以上に必要なのは、すでに、死神の討伐を計画している段階でそれを考えていしました、という証拠だ。今の時点で、理由があったから宗教をやむなく蔑ろにした、そのような物証、資料でも書面による伝令でも制作しておくのだ」
訊かれる前に答えを用意しておく。基本的にこの会議室で話し合われたことが庶民に漏洩する可能性は限りなく低いが、それでも万が一ということがある。だからこそ、急に問い詰められれば焦り、動揺し、ミスをしやすくなるから、例えるなら予習しておく、ということ。
が、枢機卿の1人はそれに少しだけ納得できなかった。
ゆえに、改めて王の真意を伺うため、慎重に追及する。
「つまり、箝口令は敷かない、と?」
「いや、準備はしておけ。両方を同時に進める。ただし、箝口令を敷いた理由について国民に詮索されると面倒だ。政治的な判断の結果、箝口令を敷いた、というシナリオではなく、国民に広まるとあなたが信じる宗教の価値が揺れ動きます、という建前も用意しておけ」
その後も、たった1つの油断も慢心も許されない空気の中で会議は進行していった。
それを見てアルバートの背後に控えたエドワードは思う。国王陛下は超一流ではなくただの一流だ、と。しかし、だからこそこのお方は有能だ、と。
たとえば、アルバートが持つ防衛の知識も異常なほど高度なモノだが、彼が防衛の一流なのに対し、超一流の防衛大臣はそれを上回っている。
たとえば、アルバートが持つ宗教の見識は常人には及び付かないほど凄絶なモノだが、彼の宗教学が一流なのに対し、超一流の宗教大臣はさらにそれよりも宗教学に詳しい。
が、しかし、防衛大臣の宗教の見識はどんなに努力してもアルバートに届かず、宗教大臣の防衛の知識はどんなに足掻いてもアルバートに届かない。
結果、それぞれの分野で一番になれなくても、アルバートは総合力で一番になれる。
防衛大臣だけで防衛以外のことを理解できるか?
否だ。
宗教大臣だけで宗教以外のことを整理できるか?
否だ。
一点特化の人間の場合、それはそれで重宝されるが、やはりこういう時は
あらゆる角度からモノを見て総合的な判断ができるから一番適任、という意味で。
と、その時だった。
「? 国王陛下?」
アルバートの様子がおかしかったので、エドワードは彼に呼びかける。
しかし無反応。
いや、様子がおかしかったのはアルバートだけではない。防衛大臣も、宗教大臣も、総務大臣も、枢機卿の5人も、七星団長であるアルドヘルムも、全員が微動だにしない。
動けているのはエドワードだけだった。
「恐らく、これはシャーリーさんの時間停止魔術……」
死神を倒しに行ったのだろうか、と、エドワードは一瞬考えるも、すぐに頭を横に振る。
少なくとも自分がシャーリーだったなら、時間停止よりも時間の巻き戻しをキャストして、どの程度の規模だとしても死神による被害を、それが発生する数分前まで再生するからだ。
このような状況なら、攻撃よりも先に防御、回復をして然るべきのはず。
なのに、それが行われていない。
つまりそれは、シャーリーが時間を停止するような状況に遭遇した、ということになるはずだった。
「――――まさか、シャーリーさんでも苦戦するような敵が、まだ王都の中に?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます