ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ～願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む～

４章１０話 １１時００分 シーリーン、完全に幻影魔術に囚われる！（２）

「Die Flügel（飛翔する） eines（天竜の） Wyvern（翼は） schnitten（疾風を） den（切り） Wind（裂き）,（、） und（遊泳） die（する） Flossen（水竜） eines（の） Lindwurm（ヒレは） schnitten（大河を） das（掻き） Wasser（切る）.

Das（嗚呼、） höchste（いつの） Wesen,（時代） das（も） Schrägstriche（斬撃を） erzeugt,（創造する） war schon（至高の） immer（存在は） ein Drache（竜であり）. Bitte（どうか） geben（我が腕） Sie（にも） diesen（その） Vorteil（恩恵を） meinem（与え） Arm（給え）.

Wie ein（天竜の） Wyvern（如く、） und ein（水竜の） Lindwurm（如く、） schieße（此処で） ich（我は） hier（至高の） einen（斬撃を） Schrägstrich（撃ち放つ）.

【竜、（シュレイクストリッヒ・）咆哮波動の（ウィ・エイン・）如き（ドラハン・）飛剣】（ガボル）!!!!!」

　刹那、ジェレミアは魔術で斬撃を前方に飛ばして、それは大気を切り裂く音さえ響かせる。

　半透明で三日月型の無数の刃。それはまるで舞踏のように、術者の正面に縦横無尽に咲き乱れた。結果、前方約１００mの木々が倒れ、岩が砕かれ、そして、魔術防壁を瞬間的に壊されてシーリーンは脚を巻き込まれてしまい、それを使い物にならなくされる。

「～～～～ッッ!!?　…………キャアアアアアアアアアアッッ!!!　～～～～ッッ!!!　アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……ッッッ!!!!!」

　まるでカマイタチを連想するほどズタズタだった。

　最悪最低以外のなにものでもない。彼女の色白の脚には３０は下らない一直線の赤い傷が刻まれて、まるで主人のイジメが終わったあとの奴隷のようにみすぼらしい脚になってしまう。魔力に反応して咄嗟に防壁を展開していなかったら、確実に骨ごと両脚を切断されていただろう。

「ん～～？　あたり一面、見晴らしがよくなったねぇ？　一言で言うなら、伐採。そうは思わないかい、シーリーン？」

　鼻にかかる声で上機嫌なジェレミア。

　しかしシーリーンは地面を這って――、

「まだ……っ、あと、せめて１５m……っ！」

　匍匐（ほふく）前進でシーリーンは前に進む。たとえ無様でも、彼女はそんなことを気にしなかった。

　みっともない？　優雅じゃない？　そんなこと、知らない。

　シーリーンは今、勝利を掴もうとしている最中なのだ。そのための努力が、戦術が、熱意が、見栄えよくなくてもカッコよくないわけがない。

　ゆえに彼女は内心で叫ぶ。脚が崩れ、地に倒れ、土で汚れたとしても――ッ、ジェレミア・シェルツ・フォン・ベルクヴァインを倒すのだ――ッッッ!!!

「おやおやおや～？　無様だねぇ、キミィ！　おしりをこっちに向けて、犯してほしいのかい？　まぁいい、獲物を前にして舌なめずりするなんて三流のすることだ。では――、

Im Spiegel（映る、映る、） reflektieren（鏡に映る）.

Die Kunst（これは）, die Realität（芸術、） in einen（現実） Albtraum（を悪夢） zu（に、） verwandeln（世界を） und die（虚構） Welt（に） in Fiktion（堕とす） zu verwandeln（虚ろの技法）.

Es gibt keinen（その世界には） Sonnenuntergang（夕日もなく）,（、）――……」

　ジェレミアは詠唱を開始する。だが、仕方がないこととはいえ、やはりその詠唱は少し長い。

　その隙にシーリーンは地に這ったまま背後を向き、魔力を込めた人差し指を敵に向けた。

「ッッ、【魔弾】！」

　薄暗い山では目立つ、淡い燐光を放つ【魔弾】が迷いも躊躇いもなくジェレミアに迫る……はずだった。

　だが――、

「はい残念」

「……キャア！」

　しかし【魔弾】はシーリーンの指先たった５cmのところで盛大に爆発した。

　その衝撃で彼女は勢いよく後方に吹き飛ばされて、地面をまるでゴミのように転がり続ける。

「ア――ッハッハッハッ！　オレはキミみたいなバカとは違うのさ！　一度、使い慣れた魔術のモノなら、零砕された詠唱のスピードに普通の詠唱じゃ敵わないって、そう理解した以上、キミの使える全ての魔術の【零の境地】を脳内にストックしておくのは当然だろう？　なんせ、キミの魔術は５つしかないんだからねぇ！」

「――――っ」

「どうしたんだい？　悔しかったらなにか言ってみたまえ！　まったく、思い上がりもはなはだしい！　たった５つの魔術でブラフなんてできるわけがないだろうが！」

　ジェレミアはシーリーンのことを煽る、煽る、煽りまくる。

　だが、彼女はそのような挑発に、もう、いちいち反応なんてしなかった。

　なぜならば――、

（これで、勝利の条件は整った……ッッ!!!）

　――全て計算どおりだったから。

　すでに、ジェレミアを倒す計画が終わったから。

　それに気付かずジェレミアはまるで高笑いのように詠唱を――、

「さぁ――フィナーレだ!!!

Es gibt keinen（その世界には） Sonnenuntergang（夕日もなく）,（、） kein Abendessen（ディナーも）,（、） kein Klavier（ピアノも）,（、） keine duftenden（香しい花も） Blumen auf（なにも） der Welt（ない）!!!

Fühle（誰） nur（の） die Lügen（温もりも）, ohne die（感じぬ） Wärme（まま） von（、） irgendjemandem（偽りだけを） zu spüren（感じ給え）!!!

――――【 幻 域 】（ファントム・ヴェルト）!!!」

　ついに放たれるジェレミアの幻影魔術。

　時属性の魔力と空属性の魔力が大気中で消費され煌々と瞬き、その瞬きは組み合わさり、まるで芸術の領域に入っていると言っても過言ではない複雑な術式と化す。

　そしてその緻密なそれは、他のそれとさらに組み合わさり、こうして１つの魔術が完成する。

　その世界には夕日もなく、ディナーも、ピアノも、香しい花もなにもない。

　誰の温もりも感じぬまま、偽りだけを感じ給え。

　この詠唱は確かに、幻影魔術の要点、本質を捉えていると言えるだろう。

　この魔術に捕らわれた者は現実を感じることが不可能になり、逆に幻しか感じなくなってしまうのだから、そのままと言うべき詠唱だ。

　そして、それはシーリーンにとっても同じこと。

　幻影魔術に囚われた以上、誰であろうと等しくジェレミアの世界で殺され続ける。

　しかし――、

　――たった１つだけ、現実世界に干渉する術（すべ）が残っているとしたら？

　だからシーリーンは幻覚に耐える。

　ほんの１０秒程度でもかまわなかった。

　重力が逆になって空に落ちていくような感覚に。

　口から身体がめくれて、肌が内側に、内臓が表に出る感覚に。

　実際に現実では起きていないのだが、白目を剥いて、口から泡を吐いて、鼻からドバドバ血を流して、鼓膜の表面を木工に使うカンナによって薄くスライスされて、肌の表面にクモやらムカデやらヒルなどの虫が這いずり回る感覚に。

　必ず訪れる勝利のために！

　たとえ狂ったとしても耐えてみせるのだ！

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

　頭の中に直接、ジェレミアの嘲笑が流れ込む。

　それを聞いた時、シーリーンは直感した。これは幻影魔術じゃない、と。ジェレミアが五感を弄っているわけではない、と。

　事実、これは幻影魔術といえば幻影魔術だが、まだ発動過程の状態だ。

　スムーズに幻覚を見せるためのプロセスと言えば伝わるだろうか。

「――――」

　だから、シーリーンはジェレミアに１つだけ感謝した。

　これでやっと、シィもロイくんに、あの時のキミの痛みをわかってあげられる、って言えるからね、と。

　そう思いつつも――、

　シーリーンの意識は闇に落ちていき――、

　１人残ったジェレミアが――、

　完璧に【幻域】が発動したと確信すると――、

「クフフ……、アハハ……っ、アッハハハハッハアハハハハハハ――ッッッ!!!!!　これでオレの勝ちだ！　事前に対策できていない状態で、幻影魔術を突破なんてできっこない！　あとはシーリーンがギブアップするまで、あの下品でいやらしい肉体で遊び放…………ん？　……な、っ、なん、だ？」

　おかしい、と、ジェレミアは周囲を見回す。

　様子が変だった。

　いや、シーリーンに限って言えば別段、不思議な点は見受けられない。

　間違いなく幻影魔術に捕らわれているし、その証明のように、今も地面に糸が切れた操り人形のように倒れている。

　だから、おかしいのはシーリーンという個人ではなく、戦場そのものだった。

　規模は小さいが、確かに地面が揺れている。そして、その揺れが徐々に、無視できないほどに大きくなっている。

　まるで土と土が擦れ合いながら崩れるような音が、徐々に――否――恐らく、もう時間は残されていない。

　轟音はかなりの猛スピードで近付いてくるし、空を見上げると、鳥たちがいっせいにどこかへ飛んで行ってしまっている。

　そして、ゴ……ッ、ゴゥ……ッ、轟……ッ！　という音が接近してきて――ッ、