3章4話 シャーリー、そして現代知識(1)



 実はエルヴィスが殲滅させたグールの1体当たりの強さは大体、ロイが以前戦ったガクトと同じか、彼より少し下程度だった。

 そしてそれを踏まえて、すでに死んでいるからこれ以上は死なない、という情報が加算される。


 畢竟、エルヴィスがいなければ、彼の師団の小隊長クラス以下の騎士、魔術師の6~8割程度はほぼ確実に殺されていただろう。

 それほどまでにエルヴィスの身体的、加えて精神的なチカラは絶大だ。


 ゆえに、自明なことが1つある。

 それは即ち――、


Verwandte相対する mich und Welt世界.


Es gibt時の keine Gnade流れに im Fluss慈悲 der Zeitなく, die alleそれは Existenz遍く dazu bestimmt存在に hat, mit異なる unterschiedlichen速さで Geschwindigkeiten起源と終焉 zu beginnen運命 und zu enden付ける.

 

Daher故に hallt die rebellische目指して Arie響き渡る, das Gebrüll反逆の des Narren詠唱、, das in das領域 Reich Gottes tritt踏み入る, dem Licht愚者の entgegen慟哭が.


Die人は Menschen理不尽な widersetzen現実に sich der抗い、 Unvernünftigkeit,苦しみ、 leiden,嘆き、 trauernそれでも und träumen 進み続けて dennochその先の weiterhin栄光 von Ruhm夢想 jenseitsする.


Sei dirそれが bewusst神ではない, dass es die縛られた Essenz derer者たち ist, die nicht本質と Gott自覚 sindせよ.


Alles時の Bewusstsein流れに schrie意思は, alsなく、 wäreそこ er eingesperrtなにかの, weil er im意味を Laufe見出す der Zeitから keineこそ、 Absicht全ての hatte意識は und dort捕囚の einen如く Sinn叫んで fandいた.


Der Dummkopf終わることへの verspürt畏敬を Angst胸に und抱き、 Verehrungそれでも des Endes刃向かう, singtように aber愚者 immer noch唱を Arien詠み, um Widerstandこの瞬間、 zu leisten, undこの場所で、 verlängert刹那 den Moment永遠 für immer引き延ばす.


Verwandte相対する mich und Welt世界.


Selbst一瞬 wenn Sie den引き Moment延ばした verlängernところで, gibt es終焉が immerあることに noch ein変わりは Endeない.


Der Narrしかし、 weigertそれでも sich愚者は jedoch死滅を immer拒み、 noch zu sterben祈り und betet捧げ zu Gott続ける. )


 声に出す必要はない。

 静かに心のうちで唱を詠む。


 時流を加速させるの魔術を使うのに、わざわざ安全地帯で脳内にストックしてから戦場で追憶する、という方法を取る必要はなかった。

 特務十二星座部隊、序列第4位、【巨蟹きょかい】、時を司る魔女たるシャーリー・ヘルツにとって、この魔術の詠唱に相応なのは追憶ではなく零砕なのだろう。



「詠唱――――

  ――――零砕」



 ガラス玉のような空色の瞳が敵軍を睥睨へいげいして、花の蕾のように可憐で、艶やかな薄桃色の唇が小さく開く。

 魔術を使い空に浮かぶシャーリーが呟いた瞬間、彼女と彼女の部下たちは、人の世にりながら人とは異なる疾さで戦争の最前線を駆け巡る。

 

「――【世界ビシュラーニゲン・からミッセーバー・観たボバテッテ・加速するフォン・私、ヴェルト・

アッブレムセン・からヴェルト・観たボバテッテ・減速するフォン・世界】ミッセーバー――」


「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」」」」」


 さて――特務十二星座部隊内部において、エルヴィスの序列は第5位だ。

 ゆえに自明の事実として、序列第4位のシャーリーはあの聖剣、デュランダルの使い手よりも強くて、物理的に世界に与える影響が絶大、ということになる。


 個人の力量で、子どもが蟻を踏み潰す程度の軽々しさで、気兼ねなく時間に干渉するあたり、世界そのものよりも神様に愛された存在。

 この惑星で産まれて死んできた数多の命、何百万人の中に1人しか発芽しない才能の持ち主。


 序列第2位のアリシアにも引けを取らず、シャーリーもまた充分に化物と称される魔術師であり、時属性の魔術を得意とする彼女は以前、魔王軍の暗殺部隊と戦ったアリスが使った【世界から見た加速する私、私から見た減速する世界】の詠唱を零砕しようが難なく使える。


 しかも、それだけではない。

 アリスが自分自身だけに、制限時間付きで発動したのに対して、シャーリーは自分が受け持つ師団の前衛の7割に、ほぼ制限時間なしで発動できるし、現にしていた。


「「「「「VAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」


 咆哮、怒号、雄叫び、勝鬨。いかようにも言い表せるそれが天に響いて地を揺らす。

 シャーリーは己が時属性の魔術の才覚を証明するように、地上で戦う師団の団員たちの時流を操作して、彼らは常軌を逸した速度、想像を絶する動きで、進軍の足踏みで地鳴りさえ起こし、魔王軍に対して地震さえ連想させるような力強い攻勢を魅せ続ける。


 万の位に及ぶ自軍と、同じく万の位に及ぶ敵軍の正面衝突。

 圧巻。荒々しく、雄々しく、攻撃的で、暴力的で、圧倒的で、その光景は戦争とはいえ、人の営みと呼ぶにはあまりにも無秩序、カオス的だった。


 特に、シャーリー師団の敵軍にとっての絶望性は、戦争ではなく一方的な殲滅、という言葉選びでさえ優しい表現に思える。

 ほとんどの味方に対して時流操作のアシストができる魔術師の存在なんて、敵からしたら絶望そのものとさえ言える存在だ。


 敵からしたらあまりの強さ、異様さに、発狂もやむを得ないシャーリーの支援魔術はさらに続く。


 相対的に自軍にかかっている時流を加速させているためだろう。

 10秒間分の騎士たちの雄叫びが1秒間に圧縮されて聞こえてくる。まるで壊れた蓄音機ちくおんきのように。他には、全体で10m前進するにしても、その分の足踏みが圧縮されて行われるから、誇張抜きに地面が激動する。まるで壊れてガタガタ小刻みに動く玩具おもちゃの人形のように。


 自明だ。

 加速した騎士たちを傍目から見ると、その動きは病的で、狂気的で、魔王軍の魔物からしても、不気味で恐怖を抱くのも仕方のないことだった。


 戦意喪失という言葉すら希望に満ちている感じさえするその現実。

 発狂による死の受容さえ、目の前のシャーリー師団から逃げられる分、救済に溢れている感じすらするその世界。


 その現実、その世界は、シャーリー師団、ひいては王国、国王陛下にあだを為す者たちに一切合切の慈悲も容赦も与えなかった。


「確認――やはり私めたちの方が有利のよう。しかし、油断は禁物。相手が根を上げるまで、戦争は続くのだから」


 魔術を使い滞空しながら、シャーリーは再度、地上の戦況を睥睨した。

 今もなお、シャーリーの視線の先では、まるでジオラマのように、1万にも届きそうな自軍と敵軍の戦力が、度重なる斬撃と魔術を互いにぶつけ合っている。


 彼女の言うとおり、シャーリー師団側が魔王軍に対して有利に戦えているのは必然と言っても過言ではなかった。

 時流操作の恩恵を受けている師団の団員たちから見れば、敵は止まっているも同然だ。そして逆に敵からすれば団員たちはみな一様に、神速で剣を振り下ろしているのである。


 戦々恐々にして、阿鼻叫喚の地獄の具現化。


 だが……、と、シャーリーは静かにいぶかしむ。

 彼女は遠視の魔術を使い先刻、ここから一番近いエルヴィス師団の方を確認してみたのだが、『推測』が当たったようだった。


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