3章1話 集合、そして名乗り(1)
「お初にお目にかかります。私は第37騎士小隊の隊員、ルーンナイトのロイ・モルゲンロートと申します。以後、なにとぞお見知りおきを」
どうしてこのようなことになったのか?
ロイは自問するも、その果てに自答はない。なぜならば答えなら最初から出ているのに、ロイの頭がそれを、あまりにも急な展開すぎると、認めていないだけだから。
片膝を付き、
流石にこの状態ならば、『そこにいる方々』に動揺が滲み出ている
そしてその状態のまま、ロイは隣で自分と同じポーズを取るレナードを一瞥した。
彼はこのような場で緊張するような人間ではない。ゆえに同じポーズを一応取っていたものの、そこに焦っている感じは微塵もなかった。ロイからしてみれば、なんと羨ましいことか。
「お顔を上げてください、モルゲンロートさん。それと、ローゼンヴェークさんも」
その時、やたら爽やかで、適度に甘くて、柔和な男性の声がした。
できれば緊張している自分の顔を見せたくはなかった。が、まさかこう促されて顔を上げないわけにはいかない。
何食わぬ顔で隣のレナードが顔を上げたので、わずかに遅れながらも、ロイは恐る恐る、片膝は付いたままだが、その顔を上げた。
そこにいたのは――、
「こちらこそ初めまして。僕はエドワード・キルヒェアイゼンといいます。僭越ながら国王陛下より【白羊】の称号を授かった特務十二星座部隊の序列第1位、〈
「――――ッッ」
――エドワードを始めとする特務十二星座部隊の全員だった。
それを改めて認識した瞬間、ロイの全身にゾク――ッッ、と、敬意とも畏怖とも区別が付かない震えが走った。
一応、ロイは彼らの中でアリシアとエルヴィス、そしてフィルのことを知っている。
しかしそれを考慮したとしても、嗚呼、やはり特務十二星座部隊の全員が一堂に揃う迫力は到底言葉にできるような
頭ではロイもわかっている。途轍もないというシンプルな言葉で、この状況の説明は一応できる。
だが、途轍もなさのレベルが常軌を逸しているのだ。
学院では学部1位のレナードを倒して最強の座にいるロイ。
まず間違いなく彼が1000人集まっても、この中の誰1人にも勝てる道理はないだろう。
「そう緊張なさらずともけっこうですよ? あなたのお噂はかねがね聞いております」
ことさら優しい、同性さえ恋に落とすような落ち着いた声音で、エドワードはロイの緊張をほぐしてあげようとする。
そんなエドワードの優しさに、ロイはただただ「はい」と応えるので精一杯だった。
「さて――こうしてせっかくお話できるのです。他のみなさんのことを紹介しないというのも、モルゲンロートさんに対して失礼ですよね」
「あらあら、ふふっ、ロイさんってば、私と話した時のように、もっとリラックスしていていいんですよ?」
「では、アリシアさんとエルヴィスさんを抜かして、さぁ、残りの9人も」
にこやかな笑みを浮かべるエドワード。
このニコニコな彼の期待を裏切って自己紹介を断るなど、悪魔の心を持っている人間でも無理なのではないか。否、絶対に無理だ。
彼のあまりの邪気のなさに、邪気のある者は邪気を抜かれ、もともと邪気がなかった者はなおさら純白な気分になる。
彼の愛想の良さに全員が逆らえず、そしてついに、特務十二星座部隊の紹介が今、始まる。
「ガハハ、最年長のワシから行こうかのう! ワシは特務十二星座部隊の序列第11位、国王のヤツから【宝瓶】の称号を授かっているエクソシスト、ニコラスだ。昔は序列第3位まで上ったんじゃが、見てのとおり年でなぁ! 結局、この序列に落ち着いている老いぼれだよ。ガッハッハッ!」
ニコラスという
彼の年は外見から判断するに、明らかに60を超えていた。頭はザクザクと適当な感じに切った短い白髪である。
しかし注目するべきはそこではない。
一目見ただけで直感した。否応なしに理解せざるを得なかった。
60を超えている年齢だろうが関係ない。
己の力と技をぶつけ合う戦闘でなく、単純な徒競走、走り幅跳び、砲丸投げ、いや、腕相撲でさえロイはこの老人に敵わないだろう。
あまりにもかけ離れている実力。
そのことを本能で思い知った。
彼はまるでかなり鍛えている20代の男性と同じぐらい、あるいはそれ以上、身体が兵士として出来上がっている。
そもそも、だ。仮に特務十二星座部隊のメンバーではなかったとしても、60代の老人が七星団の上層部ではなく、最前線に立っているというが常軌を逸している証明になるだろう。
「なら、お次は1つ序列が下のわたぁしが。わたぁしは特務十二星座部隊の序列第12位、【双魚】の称号を務める
亜麻色の編み込み長髪で、同じく亜麻色の瞳のカレン。
彼女も彼女で、ニコラスとは真逆の理由でヤバイ。アリシアにも同じことを言えるが、ロイはまさか自分が、残り10年ぐらいで特務十二星座部隊に入隊できるかと、そう訊かれれば間違いなく全力で首を横に振る。
そしてそれ以上に――彼女の左腕は人間のソレではなかった。
カーディナルが着るべき正装、いわゆるカズラ、それの左腕の部分だけ服が破けているから、それは間違いない。
その明らかに人間のモノではないソレ、まるで光を空間に固定してなんとか腕の形を成しているように見えるソレには、拘束具のように銀の鎖が
「にぱぁ、同じカーディナルとして、お次はセッシーが! セッシーはセシリアなの~。ロイくんもレナードくんも、愛称で呼んでいいからね? 種族はサラマンダーとウンディーネ、シルフとノームのクオータ! 魔術適性は無属性が6で、種族の関係もあり炎、水、風、雷、土が9で、光も9で、闇が0で、時と空は5って感じ。特務十二星座部隊の序列第6位だよ♪ よろしくね~?」
かなり見た目が若い女性――否――女の子はキャピキャピした感じで自己紹介する。
髪は世にも珍しい桜色、パステルイエロー、ライトグリーン、水色、そしてベージュという、5色のグラデーションに彩られていた。
おっとりとした目というよりは常に眠たそうな目で、声はやたら甘ったるく、背が小さいくせに胸はたゆんたゆんで、男をバカにしているのか、というぐらい膨らんでいた。
トドメと言わんばかりに、着ている服は本来、カレンが着ているようにカーディナルの正装であるカズラ……ではなく、非常識なことに、それをフリフリの萌え萌えに改造した甘ロリである。
「ちなみに彼女、本当は48歳なんだけど、魔術で外見の年齢を17歳で止めていているんだ。あと、国王陛下より授かった称号は【処女】だね」
「なんでエドワードくんはそういうことバラすの!?」
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