1章4話 旅行延長、そして別荘(2)
「では、僭越ながら、わたくしが別荘の中を案内させていただきます。先ほどのスキルで底上げした魔術のおかげで、このコテージの内部の構造は完璧に頭の中にございますので」
「それを使えば鬼ごっこや隠れん坊では常勝無敗ですね」
「お嬢様、残念ながらこのスキルは家の中、それも、自分がここで奉仕するんだ! と、心の底から思えないと発動しないスキルなのでございます……」
「なっ、なら、紛失物を探したり、盗賊から家を守ったりすることはできるはずですよね?」
「はいっ、今度は正解でございます」
「よし!」
マリアとクリスティーナは他愛もない微笑ましい会話をしながら、移動を開始し始めた。
シーリーンとアリスが友達になったように、イヴにリタとティナという友達ができたように、彼女らにも身分を超えた友情が芽生えているのだろう。
そんな2人のことを眺めながら、ロイたちも彼女らのあとを追って移動し始める。
そして、最初にクリスティーナが案内したのはキッチンだった。なぜここを最初に案内しようと思ったのかというと、恐らく単純に、リビングから一番近かったからだろう。
「見てのとおりキッチンでございます。わたくしはスキルと魔術を使えば調理器具がなくとも料理できますが、どうやら包丁やホイッパーなどはもちろん、お皿やフォークやスプーン、ナイフも備え付けられてございません」
「えっ、なら今日の夕食はどうするのかしら?」
「問題ございません、アリスさま。わたくしの魔術で木製にはなりますが、木から食器を作り出すことが可能でございますので」
で、次に案内されたのは風呂場だった。
「魔術でコテージを隅々まで調査した結果、ここのお風呂は市街地の宿と同じく温泉になっております。水代がお得でございますね」
「この浴槽、本当に広いよ! お兄ちゃんと一緒に入っても2人、脚を伸ばせるぐらいだよ!」
「う……ん、たぶ、ん、こ、こ、にいる全員……で入って、も、ゆとり……があ、りそう、だよね……」
イヴははしゃぎ、ティナはオドオドしながらも賛同する。
ちなみにリタは湯船に手を突っ込んで湯加減を確かめている。
さらに、次にクリスティーナが案内したのは2階の寝室だった。
「こちらは寝室でございます。2階に2部屋、3階にも同じく2部屋ございます。ベッドの数を考慮すると、2人1部屋でございます」
「そういえば……旅行を延長することになったけれど、誰が誰と一緒の部屋で寝るか、まだ決めていなかったわね」
と、こともなくアリスが言った。
が、それが戦争の始まりだったのは言うまでもない。
「お兄ちゃんは妹であるわたしと一緒に寝るべきだよ!」
「なら、少し狭くなっても弟くんはわたしとも一緒に寝るべきですよね♪ 家族揃ってぐっすり眠りましょうね」
「むぅ! その年にもなってロイくんと一緒に寝るなんて、間違いなくブラコンですよ! ロイくんは恋人であるシィと一緒のベッドが、いいと思ってくれるはずだもん♡」
「ちょっと、同じ恋人として、シィの抜け駆けは見逃せないわ! その……、えっ……と、私も、うぅ……ろ、ロイと同じ部屋を希望するわ」
その後も3分ぐらいシーリーン、アリス、イヴ、マリアのロイ争奪戦が続いた。
そして、その戦争に終止符を打ったのが、クリスティーナの――、
「ならば、お嬢様がたが話し合ってお決めになられるのではなく、ご主人様がお決めになられてはいかがでございましょうか?」
――という発言だった。
「ロイくん♡」「ロイ……?」
「お兄ちゃん!」「弟クン♪」
三者三様ならぬ四者四様の反応を見せる美少女たち。
ロイに対して、シーリーンは信頼を見せていて、アリスは少し不安げに瞳を潤ませている。イヴは信頼ではなく絶対に自分が選ばれる、という自信を垣間見せ、マリアはロイをからかうようにイジワルそうにクスッと微笑んでいた。
「なら……日替わり制でお願いします」
4人に責められることも少なくなるし、男子として自分も正直、とても嬉しい思いができる。
それが一番当たり障りのない落としどころであったのは言うまでもない。
それで最終的に、2階の寝室は奇数の日の場合、ロイとシーリーンとアリスの3人1部屋、イヴとマリアの2人1部屋で、偶数の日の場合はロイとイヴとマリアの3人1部屋、シーリーンとアリスの2人1部屋という部屋割りになった。
一方で3階の寝室は奇数の日の場合でも、偶数の日の場合でも、リタとティナの2人1部屋、クリスティーナの1人1部屋ということになったのだった。
「あれ!? わたくしはメイドなのに、1人1部屋でいいのでございましょうか!?」
こうして、8人の旅行、その延長戦がスタートした。
そして少し落ち着いたあとで、まず初めにイヴとマリアがロイに対して――……
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