ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章5話 答え合わせ、そして動き始める戦争へのカウントダウン(1)
4章5話 答え合わせ、そして動き始める戦争へのカウントダウン(1)
その日の夜、ロイは1人で宿を抜け出して、温泉街の人気がない路地裏まで足を運んだ。
女の子たちは全員、宿で眠っており――戦いに巻き込まれる可能性は低いと言っていいだろう。
そして今、ロイの目の前には1人の黒のローブを身にまとった不審者が立っていた。
不審者は目深に被ったローブの奥から、妖しい視線をロイに向けている。翻って、ロイはその殺意さえ混じっている視線を、喉の渇きを誤魔化すように、生唾を呑み込みながら受け止めた。
「答え合わせをしましょうか」
ロイが切り出す。しかし不審者は無言のままで、ロイから10mほど離れた正面に立ちつくし、彼の言うところの答え合わせの続きを待っている。
そして全身の皮膚という皮膚が痺れるような緊張の中、ロイは答え合わせとやらを始めるのだった。
「ヴィキーから感じた魔王軍の匂い。これについて、シィはイヴの勘違いじゃないか、って可能性を提示した。けど、それは根本的に、考える必要のないことなんだ。少なくとも――敵の有無を判断したい時に限って言えば、ね」
「――――」
「なぜなら魔王軍の匂いがどうこう、ということを無視したとしても、認識阻害の魔術が使われていたって事実だけで、敵が存在している可能性を浮上させることはできるんだし」
「――それは、七星団の団員が施したモノだろう」
ここで初めてローブの不審者が声を出した。やたら低い
性別は十中八九、男だろう。その男性の声の性質、聞き心地を表現するならば、禍々しく、どこか汚れている感じで、聞くだけで鼓膜の表面が土で汚させるような感じだった。
「真実はどうあれ、確かにそういうことにはなっているよね」
「――――」
「でも、魔術を行使すれば、必ず魔術を使った痕跡が残るはずなんだ」
確かに、それはロイの指摘するとおりだった。いかに高名な魔術師、たとえばアリスの姉であるアリシアだとしても、魔術を使えば必ずその痕跡が残る。より具体的に言えば、爆発魔術なら炎属性と風属性の魔力の残滓が残るように、その魔術を構築する属性の魔力の残滓が残るのだ。
これについて、誤魔化しようがないと認めたのだろう。男性はその事実を踏まえたということで、ロイに説明の続きを促した。
「それで?」
「ボクはイヴのように、ヴィキーから魔王軍の匂いを感じることはできなかった。でも同時に、他の魔術の痕跡さえ、感じることができなかったんだ」
「認識阻害の魔術を施されていたのに、その残滓も、ということか」
「ここで真っ先に思い付く可能性は、魔術の痕跡を隠すための魔術が使われていた展開だ」
確かに、魔術を使えばその痕跡がどうしても残ってしまう。
しかしいくつかの例外があり、その代表格が、魔術の痕跡をなかったことにする魔術を使うケースである。
それを指摘して、男性のフードの奥の目の妖しさがますます強くなった。
その直感を拭うことができず、ロイはなおのこと緊張した様子で続けようとする。
「痕跡を隠す魔術を使う場合、闇属性は隠すけれど、無属性はそのまま、なんて都合のいいことはできない。それを承知で痕跡を隠す魔術を施したしたのは、なにかを隠したかったからだ。で、ボクはそのなにかを、魔王軍の匂いだと推測する」
「――――」
「特務十二星座部隊のフィルさんさえ魔王軍の匂いに気付けないほどの証拠隠滅魔術。イヴがそれに気付けたのは光属性魔術の適性に長けているから――と、そう思い込めば暫定的に納得できなくはない」
「王女が追跡されたくなくて例の団員にお願いした可能性もある。実際、この世界には魔力を追跡する魔術もあるしな」
「うん、普通に考えるなら、それも含まれていると思う。でもね、それだとそれはそれで、やはりおかしいんだ。ヴィキーがボクたちの前で見せた振る舞いと辻褄が合わない」
「ほう?」
「魔術による追跡を避けるために、魔術の痕跡を隠す魔術を使った。確かに理に適った行動だ。でも、ヴィキーが対象なら話は別だよ。仲良く遊べた時間は限られていたけれど、彼女は追跡なんて、少しも気にしていなかった」
「それは魔術をしていて――」
「違うね」
ロイは断言しきった。
男性の反論をものの見事に遮る形で。
「魔術の痕跡を消して、追跡されなくなって安心していた、なんて言い訳はありえない。真っ当に考えるなら、追跡防止を台無しにしないためにも、人海戦術による捜索にも注意して立ち回ろう、って結論に至るはずだ。ヴィキーはそこまでバカじゃない」
「――――」
「むしろ、ヴィキーは逆だった。彼女はたぶん、見つかったらそこまでということで諦めて帰宅しよう、って考えていたんじゃないかな? だからこれに関しては、ヴィキーには少し街を楽しめれば、痕跡隠滅なんてどうでもよかったけど、術者にとっては都合が悪かった、ということになる」
刹那、2人の間に沈黙が溢れる。
深々とした冬の夜、頭がが痛くなるぐらい張り詰めた雰囲気、緊迫感のある静寂だった。
事実、ヴィクトリアは街中でずいぶんと遊びまくった。それも周囲が明るい昼間から、だ。
そして実際に、ヴィクトリアは追跡防止ができていたのにも関わらず遊んだせいで、フィルたちを始めとする捜索隊に昨日のランチの時、発見されたのだ。
そして一番重要なのは、恐らく鬼ごっこが終了した時点で、自分が王国のお姫様だと認めたことである。
それを証明するように、ヴィクトリアはロイとフィルの戦いを自らの名前を明かすことで中断させている。
やはり彼女は、見つかった時点でお遊びは終わりですわ! という考えのもとで抜け出したのだろう。
しかもそれに加えて、ヴィクトリアの性格を考慮なら、その鬼ごっこ自体すらも楽しむ、なんて発想をしていたかもしれない。
(それに……イヴの証言によると、ヴィキーから魔王軍の匂いが消失したのは、ボクとフィルさんが戦っている最中らしい。つまり、それはヴィキーが捜索隊に発見されたタイミングだ。発見されても再び逃げようとするのなら、魔術の痕跡を隠滅する魔術を解除しない方が合理的のはず。それなのに解除したということは、それこそヴィキーが捜索隊による追跡、ひいては痕跡を消す魔術に固執していない証明のはずだ)
よって、ヴィクトリアが魔術の痕跡を消す魔術を例の団員にお願いした、という可能性は限りなく低い。
彼女がなにを言ったとしても、なにかを隠したかった術者の意思が反映された結果だろう。
「皮肉な話だな」
「――なにが、ですか?」
「七星団内部のスパイは存在を気取られたくなくて、魔術的なあらゆる痕跡を消す魔術を使った。しかしお前は王女と友達になり、相手を知って、少なからず信頼関係を築いて、彼女はそういうことに頓着しない女の子だ、という結論に達した」
「仲良くなれば相手がわかる。普通のことでしょう?」
「そうだな。だが、その普通のことが、コミュニティではなによりも難しいのだ」
「敵に褒められても複雑だよね」
「実際、私もスパイのヤツを知っているが、少なくともお前たちよりは格上だ。だがどうも、あいつは王女の人間性を理解することを怠ったのだろう。だから魔術の技量に関して言えば彼我の実力差は歴然だが――お前は王女がどういう子かを知っているというただ一点で勝利して、敵対勢力がこの癒しの都に集まっているということを裏付けた」
「――――」
「魔術でもなければ化学兵器でもない。局所的な戦術レベルだろうと、大局的な戦略レベルだろうと関係ない。やはり信頼関係こそが、最も戦いの行方を左右する、ということか」
そう言うとローブの男は深い溜息を吐いてロイに問う。
「それで? そこまで暴いておいて、いったい私になんの用だ? 今さら極まりないが、気付いているのだろう? 私が――」
「――魔王軍の一員ということに、ですか?」
先回りしてロイが指摘する。
すると、ローブの男はそれを脱ぎ捨てた。
露わになるのは厳つくて、がさついた石のような鱗だった。
並びに人間には本来生えるわけもなく、クーシーやケットシーのように可愛くもない無毛の尻尾。そしてぎょろりとした眼に、ニョロっとした長く細い舌である。
リザードマン。
彼はトカゲの亜人であった。
当然、魔族で――、
――即ち、ロイが殺し合わなければならない相手である。
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