1章12話 温泉街、そして宿(2)



「うぉおおおおお! すっ、げえええええええええ!」

「うん……っ、本当に、す、すごい……」


 そして数秒後、駅を出るといの一番にリタは大きな声を出して興奮した。

 同じく引っ込み思案なティナでさえ、目の前に広がった光景に瞳をキラキラさせながら感動している。


 駅から出て、ついに目の前に広がるツァールトクヴェレの街並み。

 王都とは違う建築様式の建物が多く、一番目立つところを簡単に説明すると、ここは石造ではなく木組みの建物の街だった。ログハウスを連想するのに、3~5階建ての宿がずらっと綺麗に立ち並んでいる。


 どこまで進んでも、映画のセットのような木組みの温泉宿が続いていて、街全体にはその匂いが流れていた。

 恐らくは風に流されている温泉の成分、硫黄の匂いだろう。


 山に隣接するようなこの温泉街。

 その山には観光に打って付けな夜景が映える展望台もあるし、山菜採りのスポットもあるし、滝もあるし、川もあるし、トドメには鍾乳洞まで揃っていた。あまり観光客は足を運ばないが、温泉の源泉もその山にあるらしい。


「到着いたしました。ここでございます!」


 数分後、クリスティーナに先導された一行は無事、目的の温泉宿に辿り着いた。


 例のごとく木組みで、5階建ての建物だ。

 しかし、高さがあるだけではなく、かなり横にも広かったし、パッと見ただけでもかなりの奥行きが見て取れる。


 外装は小洒落こじゃれていて、貴族の屋敷レベルとはいかないが、それでもやたら豪華で風情ふぜいがあった。


 そこで実際に中に入ってみると、表から見るよりもさらに高級感に溢れているのを実感できる。

 エントランスにはシャンデリアさえあり、床には赤くてフカフカな絨毯が敷き詰められており、壁にかかっている時計や絵画も、ロイの前世で言うところの大正ロマンのような雰囲気があった。


 チケットがなかったら、絶対にここに訪れることはなかっただろう。

 貴族であるアリスですら、アリエルに頼んでも苦しかったかもしれない。


「予約していたマリアですが……」

「ようこそお出でくださいました。マリア・モルゲンロート様ご一行ですね。ただ今、お部屋にご案内させていただきます」


 チケットはイヴの物だったが、イヴが代表だとおっかないので、満場一致でマリアが代表ということになった。

 クリスティーナが代表でもいいのではないか、という意見も出たのだが……彼女本人が「わたくしはメイドでございます。ですので、ご主人様やお嬢様を差し置いて代表など、務められるはずがございません」と断ったのである。


 で、さらに数分後――、

 ――ロイたちはついに自分たちに割り当てられた部屋に到着した。


 なんとロイたちの部屋は最上階で、部屋の窓からはツァールトクヴェレの街並みが一望できた。

 夜になって灯りが点いたら、それはもう、さぞかし綺麗な夜景を眺めることができるだろう。


「さて、ボクとシィとアリスとは隣の部屋だね」

「あっ、ご主人様」


「? なに?」

「隣のお部屋と申しましても、隣の号室という意味ではございません。同じ号室の中にある隣の部屋でございます」


「えっ」

「おや?」


 そう言われてロイは早速部屋の中を確認したが……確かにクリスティーナの言うとおり、この部屋にはキッチンとダイニングがないので、前世の日本なら3Lと言えるようなかなり広めの構造をしていた。


「じゃあ、なに? イヴと姉さんはいいにしても、リタちゃんやティナちゃん、そしてクリスとも同じ部屋で寝るってこと?」

「はい! ご主人様の部屋のドアを開けて、数歩だけ廊下を歩いて、またドアを開ければ、わたくしたちの部屋でございます。ちなみに、同じ号室でございますので、鍵も特にございません」


「なん……だと……ッ!?」

「あっ、申し訳ございません。宿泊費は無料ですが、部屋割りは当旅館に任せることになります……と、チケットにそう書かれておりましたので、つい、ご主人様も知っているものだと」


「い、いや……そうなら見逃したボクが悪いわけだし、大丈夫だよ」


 こうして――、

 ――少年1人、美少女7人の、ハーレム旅行が幕を開けたのだった。


「シィ、ロイくんと混浴したいなぁ♡」

「ちょっと、シィ! 抜け駆けは許さないわよ! その……3人で1組のカップルなんだから、一緒に……」


「久々にお兄ちゃんと添い寝できそうだよ♪ やったね!」

「弟くんも、たまにはお姉ちゃんと添い寝すべきですよね」


「アタシはセンパイとデートしたい! ティナは?」

「はわわ……、そっ……の、ワタ、シ、……は、みんなが寝静ま、った、あと、に……先輩、と、2人き、り……で、お喋り、でき、たらなぁ……って」


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