1章6話 旅の準備、そして下着(2)



「ボクが下着を選べばいいの?」

「……うん、わたしの下着は、お兄ちゃんが選んで?」


「なんで急に照れ始めるの……?」

「だって、実際にお兄ちゃんを連れてきたら、思ったより恥ずかしく感じてきたというか……、昔も似たようなことをしたことあるのに、今となんか違うというか……、うぅ……」


 イヴは顔を少しだけ赤らめた。

 確かにまだ2人が故郷の村にいた頃、イヴの服をロイが選んだことはあった。ちなみにその時は、お風呂上りだった気がする。


 昔は恥ずかしくなかったのに、今は照れてしまって、裸の状態は続けているものの、なんか変だよ、少しおかしい感じだよ、と、イヴは自分でも戸惑う。


 どうやら身体よりも先に、中身が成長しているのだろう。それでも、同年代の女の子と比べるとかなり遅いが。


 気にし始めると、さらに気になってしまう。

 気になってしまうと、その数倍、より気になりが大きくなってしまう。


 だが、イヴがその恥じらいを自分で正確に受け止めることは、今はまだ難しかった。

 なので結局、そのままの感じで、イヴはロイに下着を選んでもらうことに。


「イヴは何色が好きなの?」

「…………」


「? イヴ?」

「お兄ちゃん、なんか女の子の下着を見ても動揺していないよ? なんか見慣れている感じだよ? 気のせい?」


「――、気のせいだよ、気のせい。冷静さを失わないように努めているだけ」


 ウソである。ロイはシーリーンとも、アリスとも、下着を見る見られる以上に大人なことをすませているのだ。シーリーンの純白でフリル付きの下着も、アリスの年頃の乙女が背伸びしている感じのパープルの下着も、すでに数回見ている。それどころか、脱がしている。


 今さら妹の下着では、それも、子供っぽいそれでは、気恥ずかしくはあるも動揺を表に出すようなことはない。


「それで、イヴが好きな色は?」

「う~ん、わたしはわたしが好きな色の下着よりも、お兄ちゃんが好きな色の下着を履きたいよ?」


「イヴに似合いそうなのはピンク色かなぁ」

「ならそれにするよ!」


 ふと、ロイの冷静な部分がロイ自身に語りかける。

 妹の下着を兄が選ぶなんて、変態ではないだろうか、と。


 しかし、別にロイは妹を異性として意識しているわけではなかった。まだまだイヴは子供である。性的に興奮なんてしていないし、興奮とは別に動揺で取り乱したりもしない。


 まるで仕分け作業のように機械的である。

 もはや、意識していないなら早々に終わらせよう、正直、イヴには悪いがパンツはどれも同じ、とさえ、ロイは感じていた。イヴがブラコンであるように、自分もシスコンだが、見栄を張っているわけではなく、本当に妹の下着になんてどれでもいいと思う、という具合に。


「となると、ブラジャーもパンツとセットのヤツだよね?」

「お嬢様、ブラはこちらでございます」


 クリスティーナがベッドの上から上下ワンセットになっているブラジャーの方を発掘して、イヴに手渡した。


「ところで、旅行って移動も含めて10日以上あるけれど、もしかしてボク、その分のイヴの下着を全部選ぶの?」

「もちろんだよ!」


「ご安心ください、ご主人様。わたくしが付いて行きますので、向こうでも皆さまのお召し物は洗濯させていただきます。下着は……そうですね、4枚、多くても5枚ほどお選びいただければ大丈夫でございます」


 と、明るく可愛らしいニコニコしたメイドスマイルで、クリスティーナがロイに言う。

 が、それでもロイは残り3枚程度、イヴの下着を選ばなければならないらしい。


「なら、2枚目はピンクと白の縞パンで」

「うんっ!」


「3枚目はピンクの水玉で」

「ぅん?」


「4枚目はピンクのリボンが付いているヤツで」

「お兄ちゃん、少しチョイスが子供っぽくない?」


 内心、ロイはドキッとした。ロイが選ぶイヴのパンツが子供っぽいのはある意味では当然のことだった。なぜならば、ロイがイヴのことを、まだまだ子供、と、認識しているから。

 だが、しかし――、


「でも、別に変ではございませんし、似合うことには確かに似合いますから、なかなか責めるのが困難でございますね」

「それってイヴが子供っぽいってことだよ!? 素直に喜べないよ!?」


 ガビーン、と、ショックを受けるイヴ。


 そうなのだ。確かにロイの選んだ下着はどれも子供っぽい、ロイの前世で例えるならば小学生の女の子が履いているようなパンツのチョイスなのだが、別にイヴに似合っていないというわけではない。むしろこれでもか、というぐらいシックリくる。


 子供っぽいことと似合わないことは、必ずしも同義ではない。


「わたしだって、昔からしたら成長しているんだよぉ……」

「昔って、どのぐらい昔?」


 なんとなく妹にイジワルしてみたくなって、ロイはそんなのことをイヴに訊いた。

 しかし――(あれ? どうかした?)――イヴの様子が一瞬だけ、少し変になった。

 どこか虚空を、なにもないところを見ていて、ロイとクリスティーナが変に思うほど、どこか呆然とし始めた。


 と、その時、クリスティーナがなにかに気付いた。


「ああっ、ご主人様!」

「!? どっ、どうしたの、クリス?」

「ランチの時間がもうすぐ終わってしまいます! 続きは、ご主人様、お嬢様がランチをいただいたあとで!」


 そうして、ドタバタ慌ただしい感じでイヴの荷造りも終了して、時は流れて、日も落ちていく。

 18時には王都の駅の前でみんなと待ち合わせして、19時を少し過ぎたあたりで蒸気機関車が出発する予定である。


 それで、ついに――、

 ロイ以外、全員美少女の旅行が始まろうとしていた。


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