1章5話 旅の準備、そして下着(1)



 グーテランド七星団学院も冬期休暇に突入した。


 そして、今夜からは癒しの都、ツァールトクヴェレに向けて蒸気機関車での旅に出る。

 が、旅の準備のほとんどはクリスティーナに任せたものの、多少は自分たちで用意しなければならない物も存在した。


 例えばロイの場合、みんなで遊ぶためのトランプ。

 例えばアリスの場合、暇潰し用の小説。

 そしてイヴの場合、それは――、


「イヴ、どうしたの?」

「お兄ちゃ~ん! お洋服が決まらないよぉ~~っ!」

「えっ? 服はクリスが用意するはずじゃ……?」


 もう今夜には王都を発つというのに、昼を少し過ぎたあたりで、イヴがロイの部屋にやってきて、彼に泣き付いてきた。

 兄に助けを求める妹は、兄の身体に抱き付いて困ったアピールをしてくる。余談だが、イヴの黒のツインテールからはスイーツのように甘い匂いがした。


 どうしたものか、と、ロイが周囲に視線をキョロキョロすると、イヴの後ろにクリスティーナが付いていたことに気付く。

 が、そのクリスティーナも、少々困ったような顔をしていた。


「クリス、イヴはどうしたの?」

「お嬢様が、旅行には新しいお洋服で行きたいよ! と、申しましたので、ご用命どおりいくつかお召し物をこちらで用意したのでございますが……」


「それが決まらない、と」

「はい」


「ちなみにイヴ以外の準備は?」

「昨夜の時点で完璧に終わっております」


 ここでようやくイヴがロイの身体から離れた。少しだけ涙目でグズグズしていて、情けなさそうに鼻をすする。


 ここで話していてもらちが明かないので、ロイはイヴの服を決めるのを手伝うために、クリスティーナも連れて彼女の部屋に行くことに。

 と、いっても、1つ隣の部屋なのだが。


 で、イヴの部屋のベッドにはたくさんの洋服が放り投げられていた。


 この世界の流行りはまだロイの前世に追い付いていないので、なんとなくロイは(そういえば、この世界の女の子の服って、前世でいう童貞を殺す服が多いよね)と、雑感を抱く。

 事実、イヴのベッドに散らばっている服も、いわゆる童貞を殺す服が大半であった。


「で、なんでイヴは自分で服を選ぼうと思ったの? クリスに任せれば完璧なのに」

「お褒めいただき光栄でございます」


「だって……準備するのも旅の一環だと思ったんだよぉ……」

「あぁ~」


「せっかくの旅行なのに荷造りを全部クリスに任せちゃったら、少し損した気分になって……」

「気持ちはわかるけれど、それで荷造りが間に合わなかったら本末転倒だからね?」


「うぅ……」


 強めに言うものの、ロイだってイヴの気持ちはわかっている。

 前世でもよく、旅は荷造りしている時が一番楽しいとか、祭りは準備している時が一番楽しいとか、よく言ったものだから。


 だから、ロイはふっ、と、顔をほころばせて、イヴの頭を優しく撫でる。

 すると、イヴはキョトンとした顔で、ロイのことを上目遣いで見つめてきた。


「まぁ、怒るのは本当に間に合わなかったらにしよう。まだ時間はあるし、せっかくだから、イヴが楽しみにしている準備を楽しもうか」

「わぁ! うんっ、お兄ちゃん、ありがとう! 大好き! 愛してるよ~っ!」


 イヴのブラコンが発動した。お兄ちゃん好き好きオーラを全開にしながら、ロイに再度抱き付いて、彼の身体にプニプニの頬をスリスリさせる。

 一方で、ロイはクリスティーナに申し訳なさそうな態度で言う。


「ゴメン、クリスにも手伝ってもらってもいいかな?」

「大丈夫でございます。お嬢様はご主人様にお召し物を選んでほしそうでございますので、ご主人様が提案して、お嬢様が決定して、それをわたくしがカバンに詰める、というのが妥当かと思いますが、いかがでしょうか?」


「そうだね。イヴもそれでいい?」

「うんっ、お兄ちゃんもクリスも、ゴメンね? でも、ありがとうっ」


 こうして、イヴの洋服選びが始まった。

 が、開始早々、イヴは今の時点で着ていた服を脱いで、さらには下着まで脱いで全裸になってしまう。


 白磁のように白くきめ細かなハリのある瑞々しい肌を、イヴは惜しげもなく晒す。

 慎ましやかな発育途上の胸。小ぶりで、しかし触らずとも見るからにプニプニしているのが一目瞭然なおしり。


 まだ身体が本格的に女の子らしくなっておらず、お腹が子どもっぽさを残していて、非常にやわらかそうだった。

 すかさずロイは視線を逸らして、クリスティーナが暖かさをキープする魔術を発動した。


「イヴ、はしたないよ? ここにはボクたちしかいないけど、女の子が恥ずかしげもなく服を脱ぐなんて……」

「むぅ……まずは下着から決めようと思っただけだよ」


 不満そうに、イヴは全裸のまま、年相応の子どもっぽく頬を膨らませた。

 仕方がないと言わんばかりに、ロイはイヴのベッドの上に散乱している彼女の下着に目をやる。


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