ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章13話 胸の中で、その感情が――(2)
4章13話 胸の中で、その感情が――(2)
「ロイはジェレミアの二つ名を知っているかしら?」
「昨日、シィから聞いたよ。幻影のウィザードだっけ?」
「そう、無属性魔力適性は6、時属性魔力適性と空属性魔力適性に至っては9ないと使えない、他者の五感を剥奪して、任意の幻覚を与える『幻影魔術』の使い手よ」
「幻覚って、どのぐらい感覚を弄られるの? 視覚だけ? 五感全部?」
「五感全部なんてレベルじゃないわ。体感時間まで狂わされる。以前、ジェレミアの方から決闘を吹っかけた男子生徒がいたのよ。だけどその子は決闘終了後、その……、言い方を選びようがないんだけど……、正気に戻れずに1週間、ずっと錯乱状態だったわ」
「……五感を奪うだけじゃなくて、その果てに自我まで壊せるのか」
「その男子生徒の証言によると、幻覚の内容は惨たらしく殺されても生き返る終わりのない拷問。体感時間で少なくとも1日は経ったはずなのに、幻覚を解けば1日がほんの数秒。正気に戻るまでに1週間もかかったけれども……」
「そしてなにより、魔力感覚は皮膚感覚の1つだから――」
「――その皮膚感覚を奪われて、偽物とすり替えられた時点で、なにも魔術は使えなくなるわね」
「やっぱり、強いよね?」
「あまりこういう言い方は使いたくないけれど……持って生まれた才能が違いすぎる。今までの決闘は全戦全勝で、カウンター魔術がイマイチな騎士学部生との決闘では、無傷で決闘を終わらせることがほとんどだったわ」
そこまで説明すると、改めてアリスはロイの目を真っ直ぐ見据える。
「ジェレミアは性格が最低だけど、魔術に関して天才。そして――」
「――強いということ以上に、騎士だと相性が悪い?」
「えぇ、そのとおり」
幻覚――。
ウソ偽りなく、あらゆる魔術の中でも上位に位置する魔術だろう。
無論、ジェレミアはまだウィザードだ。アークウィザードでもワイズマンでも、ましてオーバーメイジでもない。
上には上がいる。ジェレミアを倒せる魔術師系のランクの強者は、世界中にそこそこいるだろう。
しかし、それは世界レベルでの話だ。
中等教育のレベルで考えたら、ジェレミアはほぼ最強に近い。
幻覚以外の魔術の技量が平均以下でも、それ1つさえあれば、99%の相手生徒に無双できる。
五感の支配権を敵に奪われるのだ。
常識的に考えて、勝つことは不可能だろう。
だが――、
「けど、それが戦わない理由にはならない」
「せめて勝算さえあれば決闘も……」
「それにいくら幻覚だって、1つだけ、絶対に偽れないモノがあるんだよ?」
「――、えっ? ええっ?」
「心とか想いとか気力とか、そういう曖昧なモノでもなく、絶対に干渉しちゃいけないモノが」
「それって……」
今、間違いなく聞き逃せないことをロイは言った。
しかしアリスがどんなに頭をフル回転させても、答えは見付からない。
本人に直接答えを訊こう。
アリスはそう考え、実際にロイに訊こうとしたが、しかし、その時だった。
「お兄ちゃん、アリスさん」
「イヴ? どうしたの?」
「シーリーンさん落ち着いたから、お兄ちゃんが中に入っても大丈夫そうだよ」
「――わかった」
男の子に泣いているところを見られたくなかったシーリーンに配慮して、一応廊下に出ていたロイ。そして、シーリーンではなくロイの方も心配だったので、彼に付いたアリス。
イヴに言われて、2人もようやく医務室の中に入ってみる。
「あっ、ロイくん……」
医務室の中では、シーリーンがマリアに付き添われて、椅子に座っていた。
「シィ、大丈夫?」
「うん、ゴメンね? 泣いちゃって、みんなを困らせちゃって」
当たり前だが、シーリーンの目の周辺には泣いた跡があった。
だというのに、彼女はこれ以上みんなに迷惑をかけられない。そう言わんばかりに健気に微笑んでみせる。懸命に、笑みを浮かべている状態を維持し続けた。
しかしその笑みは、やはりどこか痛々しい。
「……っ」
そんなシーリーンの虚しくなるような微笑みを見てしまい、ロイはもう、止まることができそうになかった。
友達に、ましてや女の子に、こんな寂しい笑顔は似合わない。
シーリーンに似合うのは、もっとヒマワリのような笑顔だ。
「シィ、昨日ボクと話したこと。昨日ボクが約束したこと。覚えているよね?」
「? ? あっ、――ちょ、ちょっと待って! その約束は、危険……っ」
「ボクはボクの大切な女の子を泣かせたジェレミアを許せない」
「~~~~っ」
もう、シーリーンの感情は、いい意味でぐちゃぐちゃだった。
ロイが約束を守ってくれる。
そのことが、胸を熱くして、苦しくして、また泣いてしまいそうで、なのに嬉しくて笑みが浮かんできそうで、心が切なくて、なのにキュンキュンして、そしてその全ての感情に、感覚に、『恋』という名前を付けることができる。
「ボクは今から、もう1度ジェレミアに会って、シィとの約束を果たしてくる」
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