三 白猫
ふわふわとした白猫が行く城の廊下は人だかり。
行く手を
「お雪どの、相変わらずの美猫ぶり。ところで今朝の奥方様のご機嫌はいかがですかな」
猫好きな家臣が声をかけると、白猫は一瞬足を止め家臣の顔をじっと見つめ「にゃー」と泣き、宙に浮かぶような軽やかさで明石城の奥へ消えた。
「
「確か、歳は十三。名を長坂小倫といったな」
「うむ、殿のご執心ぶりは驚くばかり。毎晩、小倫ばかりを
「母の作った大切な売り物の傘を雨で濡らすことはできないというわけか。姿も美しいが心根も美しい。母親思いの孝行者だ」
金蔵が感極まった様子で空を仰ぎ腕組みをする。
「ふふふ、はたしてそうかな。雨でずぶ濡れになった美童は、さぞ美しかったことだろうよ。思い浮かべてみろ。夏の
新平はにやにやと笑う。
「なるほど、案外そうかもしれぬ。いやはや、どれほど」
ごくりと生唾を飲み込む二人だった。
「孝行息子なのか色仕掛けなのか、よくわからんが、
金蔵が甲高い声で笑った。
剣術の朝稽古を終えた若者が庭を横切り、じろりと二人をにらみつける。
「朝から大声で噂話ですか。お聞き苦しいですぞ。いい大人がそのような、小倫どのを
「これはこれは、
惣八郎は表情一つ変えずに、いかにも
「ふん、
新平が吐き捨てるように言った。
「ははははは、あやつは色恋とは縁遠い。武芸だけに精を出す
金蔵の笑い声が天高く響く。
惣八郎は手ぬぐいで汗を拭きながら、
「また、余計なことを言ってしまったな。だが、小倫どのを悪く言うのだけは聞き捨てならん」
「にゃー」と、どこからともなく現われた白猫が、惣八郎の黒々と毛深い
「おやおや、お雪どのか。いつも愛らしい。おれは人付き合いが苦手だ。親しい友もいない。どうやら、人よりも
白猫はいつまでも、惣八郎に
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