第2話 深緑の超越者・ヴォグ
【任務:深緑の超越者を討伐せよ】
—任務出発前
「今回の超越者についてわかってることっスが、1つはヤツの細胞っス。野生の王・水野さんが戦いの最中にいくつか剥ぎ取っていたそうなんっスが、こいつがビックリな性質を持ってたんス。」
ドルイアは薬瓶を取り出してガイに見せる。瓶には黒い布がかぶさっており中は見えない状態だ。
「この布、取っていいのか?」
「あ、ちょっと待った!ここじゃ」
ガイが布を外すと一瞬小さな植物の根が姿を現したが、次の瞬間高らかな笑い声とともにガラスを突き破った。
【ケケケケケッ!】
「あっちゃぁ~、人の話は最後まで聞くもんっスよ。」
ムスッとするガイ
部屋中を飛び回る根っこを指してガイが言う
「で、こいつが超越者の能力か。」
「そうっス。自身の体の一部を切り離すことで意志を持った別の生物として生み出すことができます。同じように葉、枝から採取した細胞も意思を持ち動き回ります。ガイさん、根っこを捕まえてもらえますか。」
「ああ」
ガイは目にもとまらぬ速さで飛び回る根の動線の先に手をかざし、わしづかみにした。
【クケーッ!】
「生み出された生命は、こうやって布を被せて光をさえぎってやれば活動は穏やかになります。」
ドルイアは一本指を立ててもう一つは…と続ける。
※
ガイは立ち尽くした。砦の最奥部、ガイの2メートルの巨体が米粒に見えるほどの大広間、兵士数百人が一堂に食事をしていたと思われるこの部屋を「一本の大樹」が埋め尽くしていたのだ。
扉の向こうまで苔蒸していて、大理石の石畳は飛び出した根で引き裂かれていた。
大広間の中心部分の天井から暖かな日光が降り注いでいる。
BOSS
【―深緑の超越者―】
ガイは足元を警戒しながらも超越者の本体と思しき大樹へと歩を進めていく。
(砦の外で奴は『根』の攻撃に終始していた。ならば必然的に奴の主力は根による「不意打ち」か「囲い攻撃」。それ以外の直線的な攻撃ならすべていなせる。)
しかし、ガイが自身の間合いに入ってもなお大樹はなんの反応も見せない。
ガイは大剣に手をかけ横一閃に大樹をなぎ払った
———『
ズガァッ!という衝撃音とともに大樹を覆う堅牢な樹皮は砕かれた。
幹の中身があらわになる。
「…どうやら、ただのでくの坊じゃねぇみたいだな」
幹の内部には人型らしい知的生命体のような姿が確認できた。
苔むした女性の身体だ。
【フフフ、やっと外の空気を吸える。】
大樹の裂け目からゆったりとソレは下降してきた。
【初めまして、私はヴォグ。ようこそ我が家へ。】
「…言葉を話せるのか。」
周囲を警戒しながらも超越者に応答する。
(奇妙だ。今まで討伐した超越者には知性はあっても理性などなかった。)
【そう構えるな。不意打ちなど無粋なことはせぬ。ここにずっとふさぎ込んでいて退屈だったのでな。少々語らおうではないか。】
「話すことなどない。俺は人類の存亡のため危険生物を排除しに来たまでだ。」
【なるほど。言い分は理解できるがとても大義名分を語る表情はしておらんな。目が血走っておる。何かほかに目的があるようだ】
「…そうだな。貴様には言葉が通じるようだし、話してもいいか。それは」
ザシュッ
ヴォグの身体を大剣が完全に貫いた。そのまま天高くつきあげてガイは言い放った。
「観葉植物」
【ぎょえああああああああああ】
片手で刺さったままのヴォグを振り回す。緑色の体液が部屋一面に飛び散る。
【やめ、もうやめろ!!頼む。下ろし…】
「フン!」
ヴォグは床にたたきつけられた。
「尤も、こんな見た目じゃ苦情が来ちまうからなぁ。…細切れにしねーと」
ガイは再度その身体に大剣を振り下ろす。
が、すんでのところで剣を振り下ろす手が止まる。ピタリと動かない。
【フフフ…さあ、蹂躙せよ】
「なんだ…?腕が…腕が捲れていくッ…!!!?」
右前腕部から肩にかけて内側からめくれ上がっていった。その正体は…『根』だ。
どういうわけかガイの右腕には無数の植物の根が張り巡らされていた。
「うおああああああああああ!!!!」
ガイは根こそぎ根を引っ張り出し地面に放り去った。転がった根は機敏にうごめいている。
「おおおおおお!!」
しかし、一息もつかずヴォグに一瞬で間合いを詰めた。
『
さながら居合切りのような構え。
—————が、ガイの大剣は身の丈以上の大物。片腕で振り上げるのは人間には不可能。
不可能なはず。
しかし、もしこの男にそれが可能ならば…その剣速が達人の居合切りと遜色ないとしたら…
思考が逡巡する一瞬、ヴォグの身体が硬直。ヴォグに反応の暇はない。
ガンッッッ!!
大剣は…木々の絶壁をたたいた。剣は、振り切れていない。剣が加速する手前で障害物に防がれた。すなわち、威力を殺された。
「な…に…!?」
(ヴォグに?いや、反応できていなかったはず。完全に入っていた。じゃあ一体どうして?)
【お前には残念な報せだが、時間切れだ。最初の一撃で私を殺せなかったこと、悔いるがいい。耳を澄ましてみよ、森のざわめきが聞こえるだろう?】
ガイが振り返ると先ほどまで広間の中央に鎮座していた大樹はすでにただの木偶ではなかった。意志を持ち、枝葉を自在に操る一つの生命だ。大樹は両腕を地面について、眠そうに起き上がる。
地面の下から苔むした下半身が姿を現した。
BOSS
【―生命の樹―(ツリー・オブ・ライフ)】
深緑の巨人。ガイが今まで見ていた大樹は上半身に過ぎなかった。
生命の樹を中心に先ほどの倍以上の太さのツルと根が地面をはい回り、ガイの肉体をとらえようとしていた。
「ちっ」
とっさに身を放り出し回避するガイ。が、生命の樹が手をかざすとたちまち「大木」が超スピードのこん棒のごとく襲い掛かり、「ドシャッ」という衝突音とともに時速200キロでたたきつけられた。
こん棒が枝分かれし、そのまま拘束具と化した。ガイは壁に張り付けになる。
「ゴ…ハぁッ…」
【フフ、こやつは私の最高傑作であると同時に失敗作でな。
何事も初めてというのは力が入るだろう?私はこの能力をモノにするためにひたすら大樹にエネルギーを分け与えた。
そうしたらどうだ、私が攻撃を受けると私の意思と関係なく敵を排除しようとするではないか。
おかげでせっかくの退屈しのぎが台無しというわけだ。まあもっとも、デキの悪い男ほど飼い甲斐があるというものだが】
ヴォグは舌なめずりしながら生命の樹の足を踏みつけた。
樹はうめき声とも悲鳴ともつかぬ声でブモオオオオと雄叫びを上げる。
ヴォグはフフと怪しい笑みを浮かべた。
「…はっ、変わった趣味してやがる。お前人間界でもやっていけるぜ。尤も、相手は木でも人間でもない、豚だけどな。」
(甘かった…。まさか分割された生命にこれほど強大なパワーがあるとは…。抜け…出せない)
【フフ、強がるな。すぐに貴様も私好みにしてやる。…だがその前に】
ヴォグは何やら興味深そうにガイの首元を覗き込んだ。そして首飾りに手を差し伸べた。
首飾りには金属のプレートにガイの名が彫られている。
【やはり…】
ヴォグは手を触れた一瞬後、何かに勘づいたように後方に跳び逃げた。
【樹が…枯れている…?】
ガイをとらえていた尋常ならざる大樹の片腕が、わらで編んだロープほどに枯れ果てた。
「お前は…知らなくていい。殺される理由を。ただ植物畜生らしく、ベランダに咲いているお前の首を、たたき折ることだけが俺の夢だ。」
【…まだ隠し玉があったとはな。楽しませてくれる。しかしなおさらに興味がわいたぞ。お前の中の闇に。】
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