第55話いつの間にか
とは言え5m程だ。
しかもちゃんと狙い違わずボートの真ん中、サラディとガイストが構えるブランケット目掛けて突き落としたので、無事受け止めて貰えたようだ。
アーネス爆弾の投下により、身軽になった功はグンと高度を上げる。
川の上なので空気が冷えて上昇気流が湧いてない。
しかしここは木の葉茂る森の中、葉のそよぎから流れる風を視る事は功にとっては容易い。
巧みに風を見つけてさらに上昇する。
「功っ!次はお前さんだ!早く落ちて来い!」
ドクの声と、この音はフィーの7mmライフルか、牽制してくれているようで、足止めは有難い。
すぐにガイストとサラディも銃を構え、ガイストは腰の自動拳銃で水面を撃つ。
どうやら、川にも何か厄介が居るらしい。
サラディも水面に直接グレネードを撃ち込み、巨大な水柱を立てながら、何かを纏めて排除している。
チラリと見たが、恐ろしく長く鋭い牙を持つ、キングサーモンのような魚だ。
それが、バラバラになって川面に飛び散る。
とにかくキングオウルはボートに近過ぎる。
功がボートに乗り移っても、今度はボートが狙われるだろう。
それでは意味が無い。
そのまま上昇。
キングオウルのバリアーは強力だ。
ガイストの15mmが通じない化け物を相手に、功にダメージを与えられる術は無い。
川に潜む厄介が片付いたのか、サラディまでキングオウルに銃撃してくれているようだ。
しかし、波打つ川面を船外機でぶっ飛ばすボートの上では、ガイストやフィー程の変態的狙いはつけられておらず、あれだけ的が大きくてもバリアーにすら当てられないで外す方が多い。
激しく上下に揺れていては、撃つだけでも大変だろう。
それが普通で、変態姉弟が変態なだけだ。
キングオウルの察知能力も凄い。
身体に当たらないと認識した攻撃にはバリアーを張らずに速度を維持、その選別眼は恐ろしく正確だ。
せめてもの慰めは、散発的な射撃でもバリアーのお陰で速度が上がらない事だ。
ただでさえあの巨体で空を飛ぶというのは、物理的に難しいだろう。
きっと魔法的な何かが何かしているのだろうと功は思う。
何かは分からないが。
だが、討伐は無理でも一度どうにかして
功は樹上にまで上昇し、とにかくボートからキングオウルを引き離す。
西陽が眩しい。まともに正面に太陽が有るのだ。
『功っ!何処に行ってんだ!降りて来いって!』
背後にキングオウルがスピードを上げて迫っており、例の回転すり抜けで奴も樹上に躍り出る。
「ドク!ボートを左岸に寄せて木の陰に入ってくれ!それからガイスト!俺が合図したら俺を撃て!」
『バッカ野郎っ!何言ってやがる!死ぬ気かテメェッ!』
『了解だっ!ようやく目覚めたようだな!まずは右腕から行くぞっ!』
2人は2人なりの反応を返す。
功は振り向き、キングオウルの位置と速度を確認すると、微妙に進路を左に修正し、速度を落として調整する。
キングオウルはその恐ろしい足の爪を伸ばし、功を掴み取ろうとする。
ガイストの位置を確認し、そのタイミングを合わせ・・・
《よしっ!》
功はパラシュートを
パラシュートはそのままキングオウルの顔を覆うが、キングオウルは首を振って振り払う。
しかし、ただでさえ眩しい西陽の中、キングオウルは一瞬功を見失った。
パラシュートをパージした功は、当然急激に速度を落とし自由落下を始めた。
その上ギリギリをキングオウルが通過しようとする。
身体の両側をキングオウルの左右の爪が通り過ぎ、功の位置はバリアー発生時の内側でありながら、キングオウルに当たらない射線。
「ガイストッ!」
『
最後のシールドを背中に展開。
瞬間ガイストの15mm硬芯徹甲弾がシールドに着弾。
ゴーレムの重力砲並の破壊エネルギーを持った弾丸に、シールドは耐え切れず消滅する。
しかし、ガイストの放った15mm硬芯徹甲弾は跳弾となってキングオウルの腹部に突き刺さった!
キングオウルを狙った射線ではないのでバリアーは発生しなかったのだ。
仮に跳弾に反応して発生したとしてもバリアーの内側、防げはしない。
なんだかんだ言ってもガイストは功の意図を察し、完璧なタイミングと角度、コースで揺れるボートの上から撃ち抜いてみせた。
性格はアレでも腕は神業だ。
Gyoooouu!!
羽毛と共に血が飛び散る。
甲高い悲鳴を上げ、空中で悶えるキングオウル。
バサバサと翼を暴れさせ、周囲は一時的に嵐のような暴風に見舞われた。
森の覇者はバリアーの性能が良過ぎて実は撃たれ弱いのかもしれない。
それとも当たりどころが良かったのか?
とにかく予想以上の反応だ。
致命傷とは言えないが、一時的にでも追い払えればそれでいい。
後はこの隙に川から木の密集した森に逃げ込めば、さすがに物理的に追っては来れないだろう。
功は風に揉まれながら落下するが、左岸から張り出した木の枝を掴む。
大きく撓んだ木の枝は、功の落下の勢いを殺す。
しかし殺し切れずに枝は引き裂かれるように折れた。
川面にダイブ!
する寸前にボートが回り込んで来る。
サラディ、アーネス、フィーが持つブランケットに大量の木葉と一緒に背中から着地!
だが、女性陣の力はでは、鎧を着た大の男を支え切れなかった。
勢い余ってボートの床に背中から激突する。魔物の攻撃に比べたら撫でられたようなものだ。
まあ、痛いのは痛いが怪我は無い。
「ドク!岸に上がろう!」
すぐに立ち上がって叫ぶ。
「冷や冷やさせないでよっ!」
「まったくだっ!肝が冷え過ぎて凍っちまったぜ」
「キングオウルの内臓見たかったわ〜💕」
「シールドで防御するなど君もまだまだだな」
「ウォンウォン!ウォフッ!」
「皆、ありがとうな、助かったよ」
口々に好き勝手を言いながら、急いで岸に着ける。
怒り狂ったキングオウルが上空で旋回しているが、森に入ればこっちのものだ。
素早くドクがゴムボートをパーティストレージに収納する。
「おい功、装備はどうした?」
ドクは功のくたびれ、へこみ、傷つき、煤けた革ジャン鎧とホーネット一丁しかも持ってない様子を見て声をかけた。
「ヘルメットは二つに割られてぶっ壊れた。拳銃は拾う暇が無くて失くした。ショットガンは銃身ぶった斬られた後木っ端微塵になった。ライトマシンガンも回収出来なかったんだ」
「おいおい、マジかよ。武器は生命線だぞ。取り敢えずこれ使っときな」
パーティストレージから出して渡されたのは傷だらけの無骨なサブマシンガンと予備マガジンだ。
「ま、無いよりかはマシって程度だがな。
鎧は今回手に入れた素材の解析が終わったら手ぇ入れてやるよ。
しかし急拵えとは言え、マウンテンロックスキッパー混ぜた装甲と革鎧がそんだけへたっちまうなんてな。よく生きてんな、頭おかしいんじゃねぇか?」
「言い方!あ、そうだ。剣鉈もかなり痛んでるんだ」
功は腰の剣鉈を抜き、ドクに見せる。
「あぁ、こりゃもうダメだ。芯金まで逝っちまってらぁ。全素的に存在が壊れてやがる」
ゴーレムの剣を受けた剣鉈は、折れてこそいないが、刃は抉り削られ、ただの尖った金属の棒と化していた。
全素的云々は功には理解出来ないが、ドクがダメと言うならダメなのだろう。
剣は剣としての存在の記憶と意志があり、全素形成の根幹となる存在性の配列に瑕疵がどうのと解説しようとしたが、長くなりそうなので、エイヴォンリーに着いてから聞くからとやめさせた。
剣鉈は祖父から譲ってもらった土佐鍛治の一本で、お気に入りだっただけにガックリと来る。
「何とヤりゃぁこうなんだよ」
「ゴーレムって奴」
「マジで解析すんのが楽しみだな、こりゃ」
それからドクは1人でブツブツと功には理解出来ない事を呟き、自分の世界に入り込んで行った。
功はスマホで地図を確認する。
せっかくあの城砦から無事に脱出出来たのだから、無事に街まで辿り着きたい。ここで油断は出来ないのである。
しばらくは森を歩き、キングオウルを完全に撒いてからまた別の川を下る。
蛇行した川が南東から外れたらまた森に入り、ひたすら南東を目指す。
エイヴォンリーの街の名の元になった、広大なエイヴォンリー湖に注ぐデグナ川に入れば、後はそこを下るだけだ。
何事も無ければ4日程で到着出来る筈だ。
ルートは何とかなりそうだ。後は途中で遭遇する魔物が問題だが、ルナティックパーティの面々がここまで来れたのだから何とかなるだろう。
いちいち相手をせず、逃げる事だけ考えればよい。
川の途中の難所をチェックし、地形と天気図を頭に入れた所で隣にアーネスがやって来た。
「何だ?何か居たか?」
功は辺りを見回す。周辺からは異常は感じ取れない。
「違うわよ」
「?」
功は緊急の要件ではないと感じので、アーネスの話を聞きながら、スマホで与えられたサブマシンガンを調べる。
まず、サブマシンガンとは何か、どうゆう使用目的で設計されたのか、から調べる辺り功らしい。
「今回の事よ」
アーネスという生き物にしては歯切れの悪い話し方だ。
「今回がどうした?」
「まあ、ちょっとは無茶しちゃったかなって反省したのよ。ま、後悔はしてないけど」
アーネスは表情が見られるのが嫌なのか、数歩先に立って歩く。
「次回から少しは気を付ける。
でも稼ぐのは諦めないからね、これからも貪欲に行くつもりよ。
ただ安全対策には留意する。
だからね・・・」
アーネスは振り向いて功を見る。
「ありが・・・」
見ようとした。
「功?」
そこに功は居なかった。
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第二部「断崖の城砦編」おしまい
次章「エイヴォンリーの日常」編始動
章管理の仕方が分からない
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