第26話知りたくも無い事情

とにかくドクに連絡を取ってみる事にする。何しろアーネスは横になるなりぐっすりと眠ってしまった。


余程疲れていたのだろう。アーネスが話した事が

本当なら疲れているどころか、生きているのが不思議なくらいだ。


もっとも、功はアーネスの話しを疑ってはいない。彼女には数えるのも馬鹿馬鹿しいくらい豊富な欠点が有るが、その中に嘘つきという項目は無い。


こっちのスマホを取り出す。ドクに連絡する前にやる事がある。


溜息と共にスマホから取り出したのは功の武装。


向こうに帰還してから取り出した事の無いそれらは、収納された当時のまま煤けた顔を見せた。


ここがロストチャイルドワールドなら、これらはまた必要になってくる。


鎧のような革ジャンを身につけ、ガンベルトを腰に巻く。バンダリアを身に付け、全てのシリンダーに弾が入っているのを確認し、オルトロスを背中に垂直に差す。ポンチョを羽織る。ナイフとハチェットを後ろ腰に吊るせば準備完了だ。


ヘルメットを被っていないので直接スマホを手に取り、もう一度溜息を吐いてからドクを呼び出した。


「あ、もしもしドク?俺、功、久し振り」


なんだか間抜けな挨拶になってしまった。まるで四国の祖父に電話している気分だ。


『は?功か!?お前さん生きてたのか?!あの時突然消えちまって死んだか帰ったんだか判らなかったんだ!ん?て事はまたこっちに来ちまったのか!』


「あぁ、俺にもよく判んねぇんだけど、あの時ちゃんと元の世界に帰れたんだが、さっきまたこっちに来ちまったらしいんだ」


『そりゃまた災難だったな。いや、悪いが今それどころじゃねぇんだよ!ちょうどいい、功も手伝ってくれ!お嬢を探さにゃならん!森でブリッコーネに襲われてはぐれちまったんだ!』


「いや、それなんだけどさ、今一緒に居るんだ」


『はあっ?!何だと!今お前さんお嬢と一緒に居るって言ったのか?』


「あぁ、ついさっき出くわしてな、今は飯食って寝てる」


『飯食って寝てるだと?!ならお嬢は無事なんだな!今お前さんどこに居るんだ!?』


声を裏返して驚くドクをよそに、功はマップを呼び出して自分の位置を確認した。


「えーっと、前にフォレ何ちゃらとやり合った場所から北北東に120Kmくらいのとこだな。割と標高の高いとこで近くにデカイ湖がある」


『おう、こっちでも捕捉した。また何てとこにいやがんだよ・・・』


功も何となく嫌な予感はしていた。以前こっちに来た時、森の深部はヤバいと聞かされていたのだ。


「俺の事はともかく、何が有ったんだ?あれからどれくらい経ってんだよ?」


今更ながら声をひそめて話しながらも、功は岩の影から周りを警戒する。


『あぁ、お前さんが消えてからまだ一月くらいだ』


という事は時間の流れは向こうと変わらないらしい。そう言えば帰還した時もそうだった。


『で、あれから仕事があんまり上手く行かなくてな、まあ、判んだろ?何となく』


《判る!判るぞ!手に取るように判る!》


『で、お嬢もちょっと焦っててな。そんな時上手い具合に良さげな仕事が入って来たのさ』


ドクはここで少し話しを切り、小さく溜息を吐いた。


『お前さんと会った時と同じで、首に賞金ぶら下げた小悪党の狩り出しでな』


今回も似たシチュエーションという訳だ。


『俺たちの拠点があるエイヴォンリーから逃げ出す悪党は、必ず森を通って東に逃げようとすんだ。万が一でも森を抜けられれば、東にゃどんな馬鹿でも受け入れるヤバい街があるからな。お前さんの装備の元の持ち主の熊獣人もその口だ』


《へぇ、そうだったのか。あいつは熊だったんだ》


『まぁな、小悪党が1人で森なんか抜けられる訳がねぇんだが、居場所が無くなった阿呆は何故か必ずそうすんのさ』


《犯人は北に逃げるってやつか?ここじゃ東なんだ》


『で、俺たちは追っかけてってとっ捕まえるか、ぶち殺すか、勝手に死んだのを確認するのが仕事なわけだ。今回もそうだった。あの緊急避難施設

《EA》は奴らは必ず通るから、追いかけてったわけよ』


《成る程》


『で、案の定森の魔物に喰われてたのを首尾良く見つけたまでは良かったんだが・・・』


「そこをあのおっかねぇ笑顔巨人にやられたわけね。他のみんなは無事なのか?」


『あぁ、お嬢が囮になってくれた形でな。ガイストが足を多少やられたが、ま、あいつはああいう奴だから・・・』


《なんか判りたく無いけど判る気がする》


『で、何とか俺たちは輸送車まで逃げ延びて持ち堪えたんだが、お嬢のスマホの反応は消えるしでよ、正直お手上げだったんだ。まさか奥に逃げてるとはな』


道理で見つかんねぇ訳だ・・・と、半ば独り言のように続けるドク。その声からは疲労と、そして安堵の色が隠しようも無い。


「とにかくそっちに何とか行ってみるわ。アーネスに新しいスマホと装備送ってやれねぇか?」


『装備はともかくスマホは無理だ。魂と同じで内部の錬金術式が複雑過ぎて全素還元は出来ても再顕現出来ねぇんだよ』


「よく判んねぇけど今アーネスは丸腰でタクティカルスーツもボロボロなんだ。装備は送れるだろ?」


『あぁ、直ぐにフィーにも手伝わせてパーティクラウドのストレージに入れとく。俺たちもなるべく奥まで迎えに行くから、お前さんも気合い入れてお嬢を守ってくれよ』


「逆だって、俺が守られてぇわ」


『とにかく頼んだぞ、お嬢に何かあったら先代に申し訳が立たねぇ。俺たちは今エイヴォンリーの事務所に居るが、用意が整い次第直ぐにそっちに向かう』


どうやらドクとアーネスの関係はアーネスの親父さんからの付き合いのようだ。察するにその親父さんはもうこの世に居ないのだろう。


まあ、功としてもこのままアーネスを見捨てるつもりは毛頭無いし、2人で力を合わせて森を抜け出さなくては功自身が生き残れそうにない。


「今はアーネスも休ませないと身動きが取れないから、動くとすれば明日からになる。何かあったらまた連絡入れるし、そっちも何かあったら連絡くれ」


『判った。取り敢えず無事で本当に良かった。肝が冷えたぜ。直ぐにお嬢の荷物をストレージに入れとくからな、確認してくれ。それからブリッコーネには気を付けろよ!奴らは飛び道具使うからな。その辺には携帯火器が意味ねぇ魔物もわんさか居る。基本はハイドで移動だ。気を付けろよ』


心配性のドワーフはアーネスの親父代わりなのだろう。しつこく念を押してくる。


「俺の命もかかってんだ。善処する」


『頼んだからな!』


電話を切り、しばらくしてパーティクラウドストレージを開く。


予備弾薬や、予備の部品、武装のアクセサリー等のリストが並んでいる所に、新たに装備が追加されていた。


どうやら普段アーネスが使っているのと同じタイプの装備一式らしい。


全部取り出すのはアーネスが起きてからでいいだろう。今はアーネスの主武器プライマリーアームであるショットガンのついたバトルライフルと予備弾倉をしまった弾帯だけを出しておく。


バトルライフルはカービンタイプの7mmの指揮官仕様。サラディは同じタイプのフルサイズ9mmを使っている。アーネスと違い、アクセサリーは40mmライフルグレネードだが、どれも広く出回っている一般的で比較的安価な武装である。


さらに装備リストは次々と増えていく。


そのリストにバストアップブラAカップ(ベージュ)×2とショーツ(ベージュ)×2が追加された所で功はそっとアプリを閉じたのであった。

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