第5話ホラー男よ、永遠に・・・
「どんだけ硬ぇんだよ!」
頭から鱗が弾け飛び、多少の出血は有るようだが、蛇モドキの眼からは怯みは見られない。
「せめて脳震盪くらい起こせよっ!」
理不尽な怒りを抱きながらも急いで両方の撃鉄を起こす。
両手が使えれば、西部劇のようにファニング(銃を握っていない方の手の平で、撃鉄を起こす早撃ちの手法。今の功の様に親指で撃鉄を起こす手法はサミングという)が出来そうだ。
しかし今はそれどころでは無い。
先程迄の猛り狂った様子は無くなり、眼を細めてしっかりと功を見据える蛇モドキ。
イソギンチャクのような無数の足を突っ張らせて体を何とか浮かせようとしている。
功の方はというと、銃弾が効かない事実に動揺し、腕の痛みも相まって腹の底から恐怖を感じている。
「オッサン!銃が効かねぇ!」
最後の頼りは蛇モドキの中のホラー男だが、男からの返答はない。
「ひょっとして、オッサン呼ばわりされて怒ったのか?実はお兄さんだったのか?」
恐怖を誤魔化すため、震える声で敢えて馬鹿な事を言いつつ、再び右の撃鉄を起こす。
頭を狙って駄目だったのは、頭蓋骨が硬かったせいかもしれないと思い、今度は首元を狙う。
ドウンッ!
狙いは外さなかった。
しかし、先程の薄く光る六角形のバリア的なものが現れて散弾を弾く。
散弾では無理だ。シロウトの功でも何となく判る。
焦りながらも今度は後方のトリガーを引く。引きながら気付いた。
《しまった!撃鉄上げてねぇ!》
空撃ちになるっ!
そう思ったが、勢いで最後迄トリガーを引くと、途中で指が重くなり、弾は飛び出した。
どうやらダブルアクション機構だったようだ。
ただ、焦りで余分な力が入り過ぎていたようで、数mという距離でも外してしまった。
冷汗、脂汗、普通の汗と、汗のカクテルをかきながらも左の撃鉄を起こす。
ガーーーッ!
実際に音がしたわけでは無い。しかし、功には聞こえたような気がした。
木の幹に挟まれているにもかかわらず、あまりの勢いに骨格迄が伸び、功に襲いかかる蛇モドキ。
挟まれた木からはメキメキと嫌な音がする。
文字通りの鎌首をこちらに伸ばす姿がやけにスローモーに感じる。
《死ぬ、確実に死ぬ・・・あぁ、死ぬ前に一度北海道一周キャンプツーリングがしたかった!》
思わず目を瞑る功。
しかし、間一髪蛇モドキは功に届かない。
鼻先で、バクンと音を立てて閉じられる巨大な口。
蛇モドキの口が閉じた勢いの風で、汗まみれの前髪がそよぐ。
完全に死んだと思った功だったが、助かったと思う間も無く体が反応した。
ドウンッ!
強烈な反動に右半身が泳ぎそうになる。
今度は当たった。しかしやはり光の障壁らしきものが一瞬現れ、弾の入射角を変えられる。弾かれた弾は角度が悪く、至近距離故に身体に掠りはしたが、やはり鱗を数枚弾き飛ばしただけでダメージは軽い。
《全然ダメじゃん!銃効かねぇじゃん!》
いくら角度が悪くとも、銃がここまで効かないのは異常なような気がする。
「オ、オッサン!何とかしてくれよっ!」
もう生きて無いかもしれない。しかし、功は蛇モドキの腹の中に居るホラー男に叫ばずにはいられなかった。
《どうしろってんだよっ!》
それでもまた撃鉄を起こす。
《そう言や、オッサンなんか言ってたな。ペネトレートだっけ?》
銃を持ち上げて構える。
《ペネトレート・・・貫通?》
高速で考える。
《だからなんだってんだよっ!ペネトレートって念じながら撃ったら貫通でもすんのかよっ!》
撃ってみた。
ドウンッ!
手応えがハッキリと違う!空中に浮かび上がった六角形の光も突き破る。
今撃ったのは右銃身の散弾だが、首元に確実に穴が空いた。肉片、血液が飛び出し、蛇モドキの胸元を青黒い血が流れて行く。
同時に功の中から何かが抜けて行く感覚。一瞬だが、軽く目眩を感じる。
しかし、蛇モドキの変化は劇的だった。今度こそダメージが通ったようで、大きく仰け反り、猛々しく無秩序に暴れ狂う。
《なんだよっ!早く言えよっ!説明足んねぇんだよ!こういう事かよ!てか、何でだよ!》
今起こった現象に疑問が浮かぶが、取り敢えず今はそれどころではない。
生き残れたら後でしっかり吟味するとして、今度は左の撃鉄を起こす。
《今度のは一発弾だ!いい加減弾けろっ!ペネトレート!》
荒い息をしながらも下半身に力を入れ、トリガーを絞る。
暴れる頭は狙えない。木に挟まっている部分を狙う。勿論ホラー男が居るであろう部位への射線は外してだ。
ドウンッ!
散弾と違い、完全に胴体を貫通したようだ。もはや光の障壁さえ紙を破るように貫いている。
弾の侵入孔より射出孔の方がダメージが酷く、肉片、骨片、血液が激しく背中側から吹き出す。
しかし、その瞬間蛇モドキの体がとうとう挟まれていた木から抜けてしまった。
深いダメージを物ともせず、勢い良く襲いかかって来る蛇モドキ。
《あぁ、死ぬ前に南の島で椰子の木にハンモック吊るしてキャンプがしたかった・・・》
自由になった蛇モドキを見ながら場違いな事を考える。
しかし諦めかけた頭と違い、体は生き残る為に動いていた。
痛む左腕を庇いもせず、あろう事か蛇モドキに向かってダッシュ。
銃を寝かせ、腰に擦り付けるようにして一気に両方の撃鉄を起こし、半身に構えて右腕を伸ばす。
交差するように頭をやり過ごし、まるでクロスカウンターの様にゼロ距離射撃!
《ペネトレートッ!》
ドウドウンッ!
二連射!
当然一発目で銃口は跳ね上がるが、ここまで近付くと跳ね上がった先もまだ蛇モドキの体だ。
二発目は蛇モドキの片目を奪った。
派手に血と肉片が飛び散る。
さっきよりも強い目眩に襲われるが、なんとか眼を見開き我慢する。
今や、蛇モドキの背中は半ば千切れかけていた。
だがそれでも暴れる蛇モドキの生命力は寒気がする程凄まじい。
例え半分に千切れても、功を殺すくらいは軽くやってのけるだろう。
ここで畳み掛けねば先は無い。傷口に向け、さらに散弾を発射。
《いける!》
と、思った時、功の身体が跳ね上がった。
背後から蛇モドキの尻尾が功を襲ったのだ。
「ぐはっ!」
頭から地面に落ちる功。ヘルメットが吹っ飛び、一瞬意識が飛んだ。
意識は直ぐに戻ったが、何が起こったのか理解出来ない。しかし本能的に寝ていてはまずいと思い、フラフラと辛うじて立ち上がる。
身体の感覚が遠い、夢の中のようだ。
今一頭がハッキリしない。息も少し苦しい気がするし、特に左足が動き難い。
無秩序にのたうつ尻尾は完全に無視し、銃を引き摺り無防備にフラフラと蛇モドキの頭に近づく功。
相打ちめいた先程の攻撃で脊椎を傷付けたらしく、今や瀕死の態で痙攣しながらも鎌首をもたげる蛇モドキは、それでも功を飲み込もうと大口を開ける。
その拍子に蛇モドキの胴体の傷口から、からズルリと何かがこぼれ出てきた。
細く圧縮されたように潰れ、半分溶かされた何か・・・
《あぁ、オッサンごめんな・・・間に合わなかったな・・。せめて仇は取ってやるよ・・》
迫り来る巨大な顎。
功はボーッとする頭のまま、無造作に銃を突き出した。
《ペネトレート・・・》
絶妙なタイミングとコントロールで槍の様に突き出された銃身は、潰れた蛇モドキの眼窩に突き刺さり、ペネトレートの効果で更に深く埋まる。
《ペネトレート・・》
ドウンッ!
トリガーのストロークが長いダブルアクションで、雑にトリガーを引いてもこれは外さない。
外しようが無い。
もう一発。
《ペネトレート・・・》
ドウンッ!
そこで功の意識は暗闇に沈んだ・・・
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