第3話山田ゴン作・・・改めホラー男!
蛇モドキの硬く強靭なな皮膚を破る方法、それは・・・
バトニング!
バトニングとは、薪割りの手法の一つである。
ナイフ若しくは鉈等で薪を割る時、振りかぶって一撃で割れれば気持ち良いし楽だ。
しかし、刃物を振りかぶって力一杯狙った場所に振り下ろすと言うのは、口で言う程簡単ではなく、そして危険な行為である。
そして斧ならばともかく、ナイフ等で薪割りをする場合、振りかぶって一撃!という男前な事はまず不可能。
こうした薪割りを効率よく、安全に行う為の手法がバトニングなのだ。
ナイフの峰や、刃先の峰等を別の薪をバトン(棍棒)代わりにしてトントン叩く事で、楔を打ち込むように薪を割るのである。
叩くのにバトンを使うのでバトニングと言う。
思い付きの短絡思考の下、功は刺さったままの筈のハチェットを探す。
蛇モドキは道路からその図体を山側の森に半分程入れ込み、太い樹を回り込んで体を折り返して道路脇に居る功を狙っている。
何とも都合のよい事に、そのお陰でハチェットは功の目の前に来ていた。
ヒット&アウェイを徹底し、斧頭の裏側に持っていた木の枝を叩きつける。
開けた場所では取れない戦法だ。
だが、針葉樹等の障害物が多い木立の中ならば、蛇モドキの巨大な図体が邪魔をして、チョコマカと動く功を捉えきれない。
蛇モドキは知能は高くないらしく、傷口で待ち構えていれば良いのに、一々功を追うので、上手く躱しながら誘導し、太い木の幹に結び付ける様に固定するのに成功している。
今の所功のワンサイドゲームだ。
何度目かのバトニングで、蛇モドキの傷からハチェットが転がり落ちた。
傷は今やぽっかりと口を開け、青黒い血液らしき液体が止めどもなく吹き出している。
功は今度はそこに剣鉈を突き入れ、同じように叩く。
ハチェットと剣鉈では当然剣鉈の方が斬れ味は上だ。先程迄とは比べられない程傷が広がって行くのが早い。
しかも剣鉈の方がブレードが長いのでとうとう腹壁を突き通したようだ。
激しくうねる蛇モドキ。声帯が無いのか、咆哮等が無いのが余計に不気味だ。
功を狙うどころの話では無く暴れ回る蛇モドキ。しかし、暴れれば暴れる程自らの首を締めて行くことになった。
のたうち暴れ回る内に体は二股になった巨木に挟まり、腹に飲み込んだ人の膨らみで巨木の股から抜け出せないでいる。
尻尾は岩に打ち付けてボロボロだ。
蛇モドキが身じろぎする度に巨木がしなり、激しく枝や葉を落とす。
《あの樹が揺れんのかよ!どんだけ力強ぇのよ!》
巨木は功の胴回りの5倍は有ろうかというブナの古木だ。
それが根が抜けそうな勢いで揺れる。
蛇モドキの想像を超えるパワーに、功は冷や汗をかく。
それでも再び傷口に剣鉈を差し込み、枝で叩く。
「!!」
気付けば蛇モドキの傷口から何かがはみ出ている。
それは、茶色い物体だ。動いている。
「キモっ!」
功も思わず足を止めて息を飲んだ。
手だった。
半ば溶かされ、一部骨の露出する獣毛に覆われた茶色い手。スマホのような黒い物体を力一杯握りしめている。
骨まで露出させながら、必死にその何かを握りしめる様子は鬼気迫るものがあった。
そして、ビジュアル的に功には強烈過ぎた。
シュウシュウと湯気を上げ、指先の何本かは白骨化し、全体を覆う獣毛も半ば溶けかけている。
形こそ人間の手の形をしているのだが、明らかに人の手ではない。
その手を見つめて固まる功。
その隙を見逃さず、跳ね回る尻尾が襲いかかった。
ぶつかったのは功の左上腕部。嫌な音を立てて曲がってはいけない曲がり方をする。
「ぐぁっ!」
さらに余波を受けて跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられる。
《いってぇっ!》
あまりの痛みに吐き気が功を襲い、視界が狭まる。続いてやって来たのは急激な貧血による悪寒だ。
「だ、・・・だでが、ゲボッ!・・いるのが?!」
蛇モドキの腹から、しかし先刻よりは明瞭に声が聞こえる。
「だ、だずげでくでっ!だ、だしでくでっ!」
「さっきから頑張ってんけどさ!硬ぇんだよこいつ!何なんだよ!バケモンじゃねーかよ!無理だろ!」
痛みのあまりわめき散らす功。
「も、もうすごしでいい!もうすごしあな広げてぐでだら・・・」
「無理だ!左腕も折れたし鉈もどっか行っちまった!」
「お、おでのじゅ・・銃が・・・あ、あるだろ・・」
すっかり失念していた。
確かに銃が道路に落ちている。
しかし、いくら見たことがあるとは言え、普段は銃等という物騒な物と縁の無い生活をしていると、まさかそれを使うとは考えにも登らないものだ。
「はぁ?撃った事なんてないし!免許も持って無いのに触ったら捕まっちまわないか?」
言いながらも、それでも必死で体をを引きずり、銃の方に這って行く。
「ご、ごいつは、マ、マウンテン・・ロ、ロック・・・スキッパーだ、だ」
今度の声はさっきよりさらに明瞭に聞こえる。
振り返って見ると、功が広げた傷口から手が引っ込み、代わりに瞼を失い、血走った眼が見える。
《こ、怖っ!》
実にホラーな光景だ。素直にビビるし間違いなく夢に出る。
「ひょ、表皮と、う、鱗が、が・・か、硬い・・・お、お前、新人だ、だな!・・・・・こ・・・これを・・使え!」
傷口の穴から、粘液塗れの棒状の何かがこぼれ落ちて来た。呆然とそれを見つめる功。新人が何の事かは判らないが、考えるゆとりも無い。
「いっ、一角地竜の・・つ、角だ!う、上手くいけば・・ぺ、ペネトレート、のス、スキルが使えるようになる!・・・そ、それを取って・・む、胸に当てろ!」
「は?何言ってんのかちょっと判んねぇんだけど!」
「い、いいから早く・・しろっ!・・し、死にたいのかっ!」
蛇モドキは尻尾を突っ張らせ、体の前半分を揺らして、二股から抜け出そうともがいている。
確かに行動を起こすなら急いだ方がいいだろう。
功はもうヤケクソで再び蛇モドキに近寄り、震える右手の指先で、落ちているアイボリーカラーの棒を摘み取った。
それは、20cm程の象牙質の円錐で、確かに何かの角のように見える。
「は、早ぐ・・む、胸に当でろ!し、死にたく無かったら・・言う通りに・・・し、しろ!」」
蛇モドキの腹の中のホラー男に促され、異常事態に頭が馬鹿になった功は、言われた通りに革ジャンの胸にそれを押し当てた。
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