吸い込まれる

橙野 唄兎

1ページ

 最初にここに記録していこうと思う。


 この日記を見ている人がいるならば、この世界にはほぼ人間はいなくなってしまったのは夢ではなく現実なのだ、とハッキリ言っておこう。目を背けたかった現実だったなら、申し訳ない。しかし何もわからない中で、それだけがとして取り残されていたものなのだ。


 この日記に君はこの摩訶不思議な「物語に吸い込まれる」という現象の原因を求めているのなら、即効にこの日記を閉じてくれて構わない。いいや、閉じたほうが良い。読むだけ時間の無駄だと少ない時間での二回目の断言をしよう。


 何故ならこの日記はしがない物書きそれもSF―――サイエンス・フィクションを専門とする物書きが、自分の描き出す物語のような怪奇現象が起きたことについての考えを纏める哲学書のような、備忘録のようなものなのだから。


 ただ単に自分がこの世界でどう生きて、何を思ったのか。それが書いてあるだけだ。


 もし今この文章を呼んでいる君が、作家の考えていることを知りたい。


 もしくは? ということを知りたいならばこの日記を読み進めてもらって構わない。

 少なくとも自分には君の指の動きを止める権利も、知識欲を止める権利もありはしないのだから。


 それでは次のページから本題に移ろうと思う。

 

 もう一つ。

 この日記は完全に自分一人の、もしくは友人の物にするつもりだったので、自分はあまり気にしようとはしてなかったのだが、ここまで読み進めている人がいるのであれば一つだけ申し訳ないことをしたと思っている。


 この日記、大変だろう?

 少ない文字のくせに妙な空白があったり、「日記」「日記」と謳っておきながらやけに物語口調であったり、同じ表現を繰り返したり、というものだ。その他諸々これからもそういう読みにくさがあると思う。


 しかしこれは君を守るためにある、と思ってくれ。

 この日記が「面白い物語」だと君の脳が認識してしまえば、君はこの物語に吸い込まれ、その物語の中でまたこの日記を探し、そしてまた吸い込まれるだろう。それでは、まるで終わりの見えないマトリョーシカ人形ではないか。

 もしくはこの文章に飽きさせるためだ。

 物語を好まなければ吸い込まれることはない―――確信は正直ないが―――だってないのだから。


 本当に次のページに行く前にもう一度言おう。これは、フィクションを作ることを生業とする自分が描く「ノンフィクション」の話である、と。

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